企業による健康情報は従業員に伝わっているか
昨今、健康経営に関心をもつ企業が増え、健康問題による従業員の生産性低下を防ぐことや、公的医療保険の負担を抑制することを主な目的として、従業員に対して、健康指導や情報提供を積極的に行っている。しかし、健康状態が相対的に良い若年層は、自分の健康状態や健康診断の結果への関心が低いことが多い。そのため、企業による健康指導や情報提供等の取組みが浸透せず、健康状態を振り返る機会を持たないまま中高年になり健康状態が悪化してしまうケースもある。
本稿では、ニッセイ基礎研究所で実施した調査(*1)を使って、健康に対する考え方が年齢とともに変わるのか、男女でどれほど違うのかをみていく。
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(*1)「健康に関する調査」2014 年9月実施。20~69 歳の男女個人(学生を除く)を対象としたインターネット調査。調査機関はマイボイスコム株式会社。有効回答3000。
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健康への接し方は男女で異なる
◆女性は20代から生活習慣や健康状態について考えている
普段の生活の中で自分の生活習慣や健康状態について考えることがあるかをたずねたところ、7~9割が「ある」と回答した(図表1)。
男女とも年齢が高いほど、「考えることがある」と回答した割合が高い。男女を比較すると、全般的に女性の方が高く、女性は20代から8割弱、40代には9割弱になるのに対し、男性は、20代の6割強から徐々に上昇し、40代で女性の20代と同程度の8割弱、50代以降で女性の割合に追いつく。
女性は、10代から髪や肌の調子、ダイエット等を意識する傾向があることや、20~30代では妊娠や出産を意識する人が多いことが影響している可能性がある。
◆男性は「指摘を受けて」、女性は「ライフイベント」や「病気等の話を聞いて」
続いて、普段の生活の中で自分の生活習慣や健康状態について考えることが「ある」と回答した人に、何をきっかけに考えるのか16項目をあげてたずねた。図表2では、16項目から、似た選択肢を6項目に集約した結果を示す。全体でもっとも高かったのが、「自覚症状」で65.9%、次いで「ストレス・不摂生」が42.8%、「ライフイベント」が32.0%、「病気等の話を聞いて」が29.2%、「指摘を受けて」が20.2%と続いた。
「自覚症状」は、性・年齢による大きな差はなく、すべての層でもっとも高かった。「体力が落ちた」、「体調がすぐれない」等の自覚症状があれば、自分の生活習慣や健康状態について考える人が多いようだ。「ストレス・不摂生」は、若いほど高い傾向にあった。「ライフイベント」と「病気等の話を聞いて」は、年齢が高いほど高い傾向があったが、男女を比較すると全般的に女性で高く、女性の20~30代でも男性の60代を上回っていた。一方、男性の方が高かったのは、「指摘を受けて」で、40代以降で特に高かった。
女性は、60代で「自覚症状」が低いほか、全般的に「指摘を受けて」が低い。自覚症状や指摘がなくても、日々の生活の中でのライフイベントや、周囲の人の病気の話を聞いたりすることによって生活習慣や健康状態について考えるようだ。
◆情報収集するのも女性が多い。友人や家族の話を情報とするかで男女差。
健康を維持するうえで、日ごろから実施していることとして、「健康や病気に関する情報収集」と回答した割合は、2~4割程度だった(図表3)。
女性は年齢が高くなるにしたがって高くなっていたが、男性は、20~60代で大きな差はなく、いずれも2割程度であり、60代では女性の半分程度と低かった。
生活習慣や健康状態について考える割合が高い女性で、日ごろから情報収集する割合も高い。
情報収集する際の情報源をみると、全体でもっとも高かったのが、「テレビ番組」で58.9%、次いで「インターネット上のサイト」が54.0%、「テレビCM・新聞・雑誌広告」が44.0%、「新聞・雑誌記事」が40.0%と続いた(図表4)。
年齢別にみると、「テレビ番組」、「新聞・雑誌記事」、「医師や看護師など医療従事者の話」、「自治体や保健所など公的な機関による公報誌」、「病院など医療機関の掲示物」は年齢が高いほど高い傾向があった。若いころは、病院に行くことが少ないため、「医師や看護師など医療従事者の話」「病院など医療機関の掲示物」は触れる機会が少ないのだろう。「インターネット上のサイト」、「書籍」は年齢が低いほど高い傾向があった。
「友人・知人の話」、「家族・親戚の話」は、女性ではどの年代も同様に高かったのに対し、男性は20~30代でのみ同年代の女性と同程度だったものの40代以降は年齢が高くなるほど低くなり、男女差が顕著だった。「書籍」と「医師や看護師など医療従事者の話」は男性が高い傾向があった。
◆女性は、現状を維持、または増強の意向
今後の健康との付き合い方のイメージは、「現在より増強したい」「現在の状態を維持したい」で半数を超えた(図表5)。
女性は、20~30代では「現在より増強したい」が、40~50代では「現在の状態を維持したい」が多く、女性の方が現在の状態を維持したい、または現在より増強したいと考える割合が高かった。
誰にどういう情報を提供するか
以上のとおり、健康に対する考え方は、男女で異なる。女性は、若いころから普段の生活の中で生活習慣や健康状態について考える人が多く、女性の20代は男性の40代より考えている割合が高かった。
女性は美容面や妊娠・出産を意識するなど、健康について考えたり、話題にしたりする機会が多いことが推測できるほか、男性と比べると、健康面では今後、「現在より増強したい」「現在の状態を維持したい」と考える割合が高いことで、健康に対する関心が高いようだ。また、「目指したい健康はどんな状態?~アンケートによる「健康」の要素」(*3)で紹介したとおり、女性は男性と比べて、「健康」の意味を「病気でないこと」だけに留まらず、多岐にわたる視点で捉える傾向があることもあわせて考えると、「健康」に対する期待が大きい可能性もある。
一方、男性は、女性と比べると普段から生活習慣や健康状態のことを考えたり、話題にしたりすることは少ないようだ。健康について考えるきっかっけとして「指摘を受けて」が多いこと、情報収集をしている人の情報源として「医師や看護師など医療従事者の話」が女性より高いことから考えると、男性は、女性ほどは普段から健康状態等について考えていないため、たとえば健康診断で要受診・要注意などの注意を受けて、初めて健康状態について考える傾向があるのかもしれない。
現在、データヘルスや健康経営などが重視され、企業には自社の従業員に対して、健康指導や情報提供を行うことが、これまで以上に求められている。高血糖、高血圧等による生活習慣病は、若いころから生活習慣を気づかうことが重要とされるが、実際は、若いころは自分自身の健康について関心を持っていないことも多く、情報提供をしても伝わらないことがあると聞く。今回の結果でみると、20~30代の男性では他層と比べて関心が低いため、たとえばその妻に向けて情報提供を行うことや、男性は年齢が高いと「医師や看護師など医療従事者の話」の話を情報源とするため、健康診断の際に検査結果だけでなく、生活習慣の見直しについても医療従事者から助言する等も考えられるのではないだろうか。男女の特徴を捉えたきめ細やかな健康指導や情報提供を行うことが重要だろう。
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(*3)村松容子「『目指したい健康』はどんな状態?~アンケートによる『健康』の要素」ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2016年1月28日)
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村松容子(むらまつ ようこ)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 准主任研究員
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