iDeCo(個人型確定拠出年金)は税制上有利な私的年金制度であり、公的年金の上乗せ分を確保するためiDeCoを検討している方も多いだろう。ただ、iDeCoの加入者数は2017年10月時点で68万人台で、基本的には20歳以上60歳未満の人が加入できることを考えると普及はまだまだと言えそうだ。iDeCoに二の足を踏む理由の1つには、口座選びや資産運用の方法が分からないということがあるかもしれない。
本書はiDeCoの基本情報とともに肝心な要素である金融機関と投資商品の選び方、資産運用の王道を細かなキャプションと図表を多用して、投資初心者にも分かりやすいよう工夫して解説している。iDeCoを始めるにあたって背中を優しく押してくれる一冊である。
『個人型確定拠出年金iDeCo プロの運用教えてあげる!』
著者:安東隆司
出版社:秀和システム
発売日:2017年11月14日
iDeCo口座に適した金融機関のオリジナルランキング
iDeCoのメリットは何といっても掛金が全額所得控除である点だ。
例えば、年間の掛金が24万円、課税所得額で求められる所得税と住民税の合計税率を30%と仮定すると、7万2000円の節税になる(復興特別所得税の計算はここでは考慮していない)。また、運用期間中の利益も非課税であり、運用で積み立ててきた資金を受け取るときにも退職所得控除もしくは公的年金控除といった税の恩典が用意されている。口座管理の手数料等についてはここでは説明しきれないが、コストとリターンを考えた場合にiDeCoは課税所得のある60歳未満の方にとって利用価値が高いと言えるだろう。
だが、行動を起こすにあたり、まずどこでiDeCo口座を作るか、次にたくさんある商品の中からどれを選びどのように投資するかが悩みの種である。特に、iDeCo口座を作る金融機関の選択は、その金融機関の用意する商品の中から選んで投資をするので、念入りに調べる必要があるものの大変な作業だ。
本書の特徴は、資産運用の重要項目を基準にしてiDeCo口座を開設すべき金融機関をランキングで発表していることだ。これにより金融機関の絞り込みができ時間の節約になるだろう。また、自分で金融機関や商品のコストを効率よく調べる手順もあるので、本書のデータを参考にしつつ最新の情報をサイトでチェックするようにすれば良いだろう。
どのようなカテゴリーの商品を選べば良いかについても、金融政策の影響で金利がゼロ近傍の日本国債など手を出さない方が良い商品や投資推奨の商品を分かりやすく提示している。
知らない人は損をする資産運用のコツ
著者はプライベートバンカーとしてのキャリアを経て、現在はおカネ学株式会社という投資助言業を運営しており「親に勧められるものしか、お客様に勧めない」というポリシーを掲げている。資産運用の知識について、ときに金融業者の利益に相反する内容でも遠慮することなく、ポリシーに準じて投資家の利益を最優先に考え解説する姿勢は評価に値する。
本書はインデックスファンドの優位性について多くの紙面を割いているが、コストの高いアクティブファンドやリスクもリターンも低い商品で長期運用することの弊害などは強調してもし過ぎることはないだろう。株式のインデックスファンドに関しては、世界の経済成長に投資する外国株をメインにするべきとし日本株には少し冷ややかなスタンスをとるが、日本が世界標準のインフレ2%目標を達成し継続できた場合には名目経済成長率が高まるので、この場合には日本株の比率を高めた方が良いと思われる。
日本の投資家はコスト意識が低いことにも警鐘を鳴らす。営業担当者に言われるがままに投信を買ったり乗り換えたりすることで、多大なコストを払っている場合があるという。なお、iDeCoであれば、投資配分の変更(スイッチング)に手数料がかからない場合が多いので、ここにも利用すべき理由がある。そのほかにも注意すべき金融商品について触れているので、運用利回りを下げないためにも知っておきたいところだ。
日本の家計はアメリカの家計と比較すると金融資産での運用リターンをあげられておらず、その原因は預貯金の比率が高い事とコスト意識が低い事だという。本書のアドバイスを理解しiDeCoを使いコストの低いインデックス投資でコツコツとリターンを積み上げていけば、72の法則により長期投資で金融資産を倍にすることも現実的な目標となるだろう。(書評ライター 池内雄一)