新技術の採用に積極的なAmazon、Facebook、Googleなどの国際IT企業は、世界中の注目を集める先端技術ブロックチェーンにどれほど関心があるのだろう。

現時点ではブロックチェーン・クラウドサービスを展開するマイクロソフトが独走しているが、オラクルが同様のプラットフォーム開発に乗り出すなど徐々に活発化している。その一方で、「Amazonは様子見に徹し、アップルは関心すら示していない」との指摘も挙がっている。

「マイクロソフト――「アジュール」でビジネス・ブロックチェーン市場を大きくリード

イーサリアム(Ethereum)の共同設立者ジョゼフ・ルービン(Joseph Lubin)氏は、「現時点でブロックチェーンに本腰を入れている国際IT企業はマイクロソフト(Microsoft)のみ」とフォーブス誌の取材で語っている 。

マイクロソフトはクラウドサービス「マイクロソフト・アジュール(Microsoft Azure)」 を通し、企業がブロックチェーン・アプリケーションの開発、テスト、デプロイを行えるプラットフォームやサービスを提供している。

企業が利用できるソリューションとして、「アジュール・ブロックチェーン(Azure Blockchain)」「ハイパーレジャー・ファブリック」など自社サービスのほか、「R3 シングルネットワーク」「EEA シングルメンバー・ブロックチェーン」「チェーン・コア・デペロッパーエディション」といったサードパーティーのサービスも用意されている。

今年8月には、ブロックチェーンのパフォーマンスや機密性、統制の向上を目的とするオープンフレームワーク「ココ・フレームワーク(Coco Framework)」も発表。今後さらにブロックチェーン分野を開拓していくことは間違いない。

Google――外部への投資には活発、自社採用は様子見?

Googleはゴールドマン・サックスと並んで「最もブロックチェーンへの投資に積極的な企業」 といわれているが、ルービン氏曰く「技術自体にどの程度の関心があるのかは不明」だ。

CBインサイツが2017年10月に発表した報告書 によると、1月~10月にかけてのブロックチェーン関連のエクイティ投資は合計42件、総額3.27億ドル。グーグルはSBIホールディングスに次ぐ、第2のブロックチェーン投資企業である。投資部門グーグルベンチャーズを通し、リップルやブロックチェーンに投資している。

自社サービスへの将来的な技術の採用を視野に入れているのは間違いないが、現時点ではマイクロソフトのような具体的な動きは見られず、あくまで投資対象としての色合いが濃い。外部への投資を通してブロックチェーンがもたらす利益やリスクを慎重に検証すると同時に、自社で採用できる可能性を探索しているといった印象を受ける。

オラクル――マイクロソフト最大の脅威?ブロックチェーン・クラウドサービス開発中

マクロソフトに次ぐ「ブロックチェーン企業」に成長する可能性を秘めているのは、ビジネス向けソフトウェア大手オラクルだ。現在、大口顧客向けのブロックチェーン・クラウドサービスを開発中 である。

クラウドサービス部門のシニア・ヴァイスプレジデント、アミット・ザヴェリー氏は、今年10月のフォーチュン誌の取材 で、「ブロックチェーンは事業の手法を根本から変える」と新技術に秘められた可能性への興奮をあらわにした。

ザヴェリー氏はブロックチェーンが事業の透明性、効率性、安全性の向上に役立つと確信しており、「すでに金融機関だけではなく、政府や製造業者などがブロックチェーンの採用に多大なる関心を示している」と強調。自社のクラウドサービスにブロックチェーンを採用することで、自社にとっても顧客にとっても新境地の開拓の機会になり得ると期待している。

オラクル最大の強みは、その顧客規模だろう。多数のフォーチュン500企業が同社のデータベースやサービスを長年にわたり利用している。マイクロソフトやAmazonが顧客奪略に挑んでいるものの、顧客にとってデータベースを移行させてまでプラットフォームを乗り換えるのは大変な労力を強いられる作業だ。「深刻な問題がないのであれば既存のサービスを利用し続ける」と考える顧客が多いのも納得である。マイクロソフトにとっては最大の脅威となり得る。

Apple――「興味も知識もない」、Amazon「観察期間」?

ほかの領域では競争心をあらわにしているAppleやAmazonは、ブロックチェーン関連となると意外なほど静かだ。

ルービン氏の言葉を借りると「Appleは興味を示していないし、ブロックチェーンに対する知識もない」「(イーサリアムが把握しているかぎり)Amazonは表立った行動を起こしていない)。

実際、Amazonウェブ・サービシズ(AWS)のアンディー・ヤシー―CEOは「ブロックチェーンを自社サービスに採用する気がない」意向を、今年11月ラスベガスで開催された自社カンファレンスで明らかにしている(テッククランチより )。ヤシー―CEOは現時点においてブロックチェーンの実用例が少ないことを挙げ、「かっこいいという理由だけでは採用しない」とコメント。市場の熱狂に流されることなく冷静なスタンスを維持する構えだ。

ブロックチェーンでAmazonのシステムを再構築?

ヤシーCEOのコメントは、裏を返せば多数の成功例とともにブロックチェーンの恩恵が立証されれば、いずれなんらかのかたちで採用を検討する可能性はあるということになる。

ルービン氏はアップルやアマゾンがその気になれば、例えば「Amazonのシステムをブロックチェーンで統合することも可能」だと見ている。現在Amazonのシステムは各セクターによって分散されているが、これをひとつのプラットフォームにまとめ、全セクターが使いやすいシステムに再構築するという発想だ。フェイスブックにも同じことがいえる。

このように企業によってブロックチェーンに対する温度差があるのは否定できないが、採用に消極的な企業も分散型台帳技術やそこに秘められた可能性には注目しているはずだ。動きだすかどうかは、今後の成功例次第といったところだろうか。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)