マネックス,松本大,3万円,3万ドル,2018年
(写真=髙橋明宏)

約26年ぶりの高値を更新した2017年の日経平均株価。2018年はどのような展開になるのだろうか。マネックス証券代表取締役社長の松本大氏に聞いた。(聞き手:ZUU online編集部 菅野陽平)※インタビューは12月20日に行われました。

——2018年の経済金融マーケットについては、どのようにお考えでしょうか?

世界的に見ると、アメリカの景気は、金利を上げていけるくらい調子が良い。加えて減税も決まるということで、アメリカ経済は引き続き強いということが考えられます。FRB議長はイエレン氏からパウエル氏に変わりますけれども、パウエル氏は今までFRB内部にいた人でもあるし、継続的な金融政策をすると思われるので、あんまり心配はないんじゃないかと考えています。

日本経済に関しては、ようやく賃上げや設備投資に対する企業マインドが、だんだん前向きになってきていると感じています。今まで経済の状態は悪くないんだけど給料を上げないとか、設備投資はあまりしないとか、ちょっと引っ込み思案のようなマインドがあったように思いますが、それもだんだん変わりつつあるように見えます。2018年の日本経済もかなり良いのではないかと思います。

日本に関しては、天皇の退位の影響もありそうです。2019年4月末に退位ということですが、これは200年以上ぶりの生前退位になります。昭和天皇の崩御のときにも、元号が変わるのでカレンダーや印刷機械など色々な特需がありました。ただ、ご病気で崩御されたということで、亡くなるまでは忘年会も控え気味だったのですが、今回は生前退位なので、日本中でお祝いの催しがあるかもしれませんし、前回の自粛ムードとはまた異なる前向きな消費が期待されます。

天皇の退位というプラスアルファの要素も重なり、2019年春に向けて、消費マインドなども好転すると思っています。従って、アメリカ経済も日本経済も、2018年は基本的には明るい見通しだと考えています。

——株式市場に関してはいかがでしょうか?

歴史的に見て、景気がいいから金利が上がるのだといっても、金利が上がっていく国の株価がどんどん上昇するというのは、あまり観測されたことがありません。アメリカの景気はすごく良いのだけれども、ただ金利が上がっていくということを考えると、やっぱり株価の上昇速度が遅くなると思うんですよね。減税効果や設備投資に対する刺激策、レパトリ減税などがあるので、上がっていくとは思います。ただ、上昇速度はちょっと鈍化するであろうというイメージです。

日本の株式に関しては、とにかく企業収益が絶好調です。たとえばバブル期に比べて、今の上場企業利益は当時の約4倍あるんですよね。ところが東証の時価総額はバブル期とほぼ一緒です。企業収益は4倍になっているのに、時価総額は変わらないということを考えると、かなり割安であると思います。

今期の業績や来年の見込みにPERをかけると、日本株はかなり上昇の余地があると思われます。かつグローバルな投資家から見ると、アメリカがさっき言ったような理由で上昇が鈍化し、ヨーロッパもいろいろ問題があるというなかでは、消去法の観点からも日本株が一番買いやすいと思います。

今、日経平均とダウ平均は、だいたい1,700ポイントくらい差がありますが、2018年は、その差が縮まってくるのではないかと考えています。日経平均は2018年末に向けて2万8,000円から2万9,000円、2018年度末に向けて3万円を目指して上昇すると思います。一方のダウ平均は上がり方が鈍くなって、ちょうど1年後から1年3ヶ月後くらいには同じような水準、どちらも3万ポイント前後に達するのではないかと考えています。

もちろん北朝鮮や中東といったリスクはあります。リスク事象が起きたら、日経平均もダウ平均も売られるとは思いますが、基本的な日米の経済のファンダメンタルが崩れなければ、一時的に売られることはあっても、また戻っていくんじゃないかなと思っています。

——2017年10月末には、既に「日経平均3万円」のプレスリリースを発表されていますね。

2018年度末までに、言い換えれば2019年3月末までに、日経平均は3万円に到達すると考えています。これを発表したのが10月27日でしたが、そのあと12月1日に皇室会議が開かれて、生前退位のスケジュールが2019年4月30日と決まったわけですよね。10月の時点では組み入れていなかったポジティブ材料なので、さらに「日経平均3万円」の確度は上がったと感じています。

申し上げたように、バブル時と比べて、今の方が上場企業の利益の総和が約4倍あります。今の方がコーポレートガバナンス、企業決算の精緻さや透明さなども、はるかに良くなっています。かつてのPERは高すぎるが、今のPERは低すぎる。定性的に見ても、定量的に見ても、日本株全体としての性能が断然良くなっていると思います。

ZUU online読者は資産形成層も多いでしょうから、平成バブルの雰囲気がピンと来ないかもしれませんが、当時の日本というのは、すごく慢心していたと思います。浮ついているというか、本当にすごかったんですよ。大きなベンツを各々好きな色に塗ることが流行していたのですが、金ピカとかにしちゃって(笑)。それに比べると今の日本は、リスク管理もなされていて、乱暴なお金の使い方もしませんよね。

マネックス,松本大,3万円,3万ドル,2018年
(写真=髙橋明宏)

日本の個人は優秀な投資家

——よく「日本人は金融リテラシーがない」と言われます。

私はそうは思いません。日本の個人は平成バブルのピークで不動産を売り抜けて、そのあと20年間、ベストパフォーミングアセットにお金を移したので、非常に賢い投資家だと思います。

平成バブルのピーク時、日本全国で見ると家計部門が不動産を大きく売り越していて、金融機関が大幅に買い越しています。これに対しては「個人が売ったんじゃなくて、銀行が担保権を実行したんでしょ」という意見もあります。個人は売る気はなかったけれども、地価が下がりはじめて、担保権の実行という形で、銀行が不動産を買ったということです。

ただ、そういう事情を含めて、地価のピーク時に担保を設定して、お金を借りた人の勝ちであったことには変わりがなく、日本の家計部門は、バブルのピークで不動産を売り越したわけです。世界の歴史のなかでたった一回だけなんですよ。バブルのピークで個人が売り越しできたのは、この平成バブル時の日本人だけなんです。チューリップバブル以後、色々なバブルが世界で起きたんですけれども、常にピークの周辺では、個人は買い越してるんですよ。だから、日本人はすごく優秀だと思いますね。

個人に限らず、過去の成功体験はなかなか抜けません。過去20年、日本株はある程度のレンジ相場だったので、どうしても「上がると売るクセ」がついちゃっているんですね。だから、東証が発表している投資部門別売買状況を見ても、上昇相場のときに日本の個人は売り越すわけです。賢いがゆえの行動とも言えます。レンジ相場でパフォーマンスを上げるコツは、高値レンジで売って、安値レンジで買い戻すことですからね。

私たちとしては、これからの日本株は今までの20年間と違って、レンジ相場から脱却し、長期的な上昇相場になると思っています。だから大々的に「3万円までいくんですよ」と呼びかけているわけです。我々のお客様である個人投資家が、この収益機会を取り逃がさないために。ところが2017年11月頃から、日本の個人が日本株を買い始めているという報道も目にするようになってきました。我々が思っている以上に、やはり日本の個人投資家は鼻が利いて「レジームチェンジのときなんだろう」とお金を移し始めているんだと思います。

マネックス,松本大,3万円,3万ドル,2018年
(写真=髙橋明宏)

——バブルといえばビットコインをはじめとした仮想通貨の上昇幅が目立ちます。

誰が「仮想通貨」と名前をつけたのかよく分からないのですが、英語では「クリプトカレンシー(暗号通貨)」ですよね。バーチャルカレンシーとは呼ばれていないので、暗号通貨と訳すのが正しいと思いますが、中身はデジタルコモディティですよね。ダイヤモンドとか金とかと一緒だと思うんです。

評論家や企業経営者とかでも、ビットコインはフェイクだとか、裏付けがないからバブルであり必ず崩壊するんだとか、色々なことを言っていますよね。日銀券は裏づけがある。ところがビットコインには裏付けがない。だからバブルだと。だけどダイヤモンドに裏づけがあるんですか?それでもダイヤモンドには値段がありますよね。ダイヤモンドは買いたい人がいるから値段があるんですよ。この大きさやカラットだと大体いくらというコンセンサスが、その瞬間その瞬間で一応あるので、ある程度決済にも使えるわけです。

ビットコインだってダイヤモンドと一緒で、欲しい人がいたら値段が上がるのは当たり前で、別にそれはフェイクでもなんでもない。じゃあダイヤモンドがフェイクなのか、ダイヤモンドは裏づけがないんだから、今の値段がバブルだって言っても、それはしょうがないですよね。マーケットがあって、値段がある。ビットコインも同じで、買いたい人がいるので値段がつく。それだけのことであって、裏付けがどうこうというのはナンセンスだと思いますね。

ビットコインが今バブルかどうか、それは分かりません。バブルというのは、弾けたあとに初めて分かるものなので、今はなんとも言えません。ただ、裏付けがないからバブルだとか、この1年間で何十倍になったからバブルだというのは、それはほとんど意味がないことです。この1年間の上昇は、上昇相場のほんの一部分かもしれませんし、将来振り返ってみないと分からないことだと思います。

当社としても、ビットコインを売買するサービスは、なるべく早くお客様に提供しようと思っています。1〜3月期中にはサービス提供を開始すべく、今、準備を進めています。仮にZUU online読者があまりビットコインに興味ないとか、ビットコインを買う気はないと考えていたとしても、やっぱり知っておく必要はあると思います。なぜなら、他の資産価格に影響を与える可能性があるからです。たとえば、最近、投機目的で買われる一部の貴金属の値段が低迷しています。これは、投機マネーがそのようなコモディティにいかないで、ビットコインに向かっているという理由が考えられます。

本来であれば、株式市場や為替市場に向かうはずだった投機マネーがビットコインに流れているかもしれません。そのように考えると、もしかしたらビットコイン市場というものが、通常のマーケットにとってガス抜きになっている可能性もあるわけです。あくまで仮説ですが、ビットコインのおかげで、伝統的な市場は安定的に価格が形成されている可能性だってあります。だから好き嫌いを問わず、ビットコイン市場の状況というのは知っておくべきだと思います。

マネックス,松本大,3万円,3万ドル,2018年
(写真=髙橋明宏)

日本株はトレンドが変わった

——今後、日本は人口減が予想されます。日本株は中長期的にも魅力的な資産なのでしょうか?

日本の上場企業の収益を見ると、約3分の1が海外です。アメリカだけで25パーセントくらいあるはずです。そう考えると、日本企業は、決して日本だけで稼いでいるわけではない。グローバル化が逆流する可能性は極めて低いので、日本の少子高齢化自体はバッドニュースなんですけれども、それによって、必ずしも日本株がだめになるとは言えないと思います。

むしろ、そうならないように企業が様々な対応をしている。いまどき日本だけでビジネスを完結させることはあんまり考えないと思うんですよ。逆にバブル期は日本だけでした。こんな小さな島国で、世界のGDPの約2割、世界の時価総額の約3割を占めていた時期もありましたから。

そういうときは、日本企業はあんまり海外のことを考える必要がなかったわけですよ。日本だけで、とてつもなく大きな市場だったので。ところが今はそうではありません。だから中長期的に考えても、少子高齢化は大きな課題なんですが、それだけで日本株の将来を悲観する必要はないと思います。

ただし、これだけボーダレスで、世界中の企業が国境なく戦っているような時代に、もし日本だけ規制が厳しいと、それはすごい不利になりますよね。たとえば日本は個人情報保護法があるので、ビッグデータを使った色々なサービスを展開したくても、銀行とか、一部の大企業じゃないと、なかなか個人データを手に入らないわけです。ところがアメリカとか中国において、そういう個人の売買データはパブリックデータであり、手にすることができるんですよね。それでディープラーニングかけるので、どんどん新しいFinTechのサービスが出てくるわけですよ。

FinTechに限って言うと、たった3年前だったら、まだ全然日本の方が、中国よりも先に進んでいたと思います。しかし、この3年間で大幅に抜かれてしまい、もう中国の方が断然先にいっちゃってますよ。それはなぜかというと、日本にはAI、人工知能、ディープラーニングの技術はあるんですけど、肝心のデータがないんですよ。頭は良いんだけど、食べ物を与えてもらえないから育たないんです。

これは規制、法律の問題なんですね。個人情報保護法というのは、データを使って色々なビジネスができるという時代において、全部が悪いわけじゃないけれども、見直しする必要があると思っています。これはひとつの例ですけど、競争相手の諸外国の状況を見て、日本企業にとって足かせにならないように、ちゃんと規制を作り直していくことを考えていかないと、少子高齢化以上に、日本企業とか株価を抑える要因になってしまうかもしれません。

——規制で日本企業が伸びなかったとしても、日本の投資家は海外の資産をインターネットで購入できる時代です。資産形成層は、これからどのように資産運用していけば良いでしょうか?

2つあります。ひとつは「トレンドが変わった」ということです。過去20~30年間は、預金してれば一番よかったのですけれども、団塊の世代の人たちは、全体的には判断を間違えず、結果として成功しました。ただ、そういう恐ろしい成功体験があるので、団塊の世代以上の人たちはおそらく、このままその成功体験から逃れられないと思うんですよ。

では、今の若い人が、バブルが崩壊してアベノミクスが始まるまでの20年間強の記憶に引っ張られると、たぶん間違えると思うんですよ。日本も諸外国と同じように、流通するマネーの量を増やして、ちゃんとモノの値段が上がるように、デフレが起きないように、という施策を採り始めたので、これからトレンドは変わると思います。

バブル崩壊後、日本企業は傷ついたバランスシートの修復を最優先してきました。設備投資を控えて、借金を返済してきました。バランスシートが非常に強固になった今、冒頭申し上げたように、給料を上げようとか、設備投資をもっとやろうという方向に変わってくると思います。トレンドが変わるんです。だから、今までとは違う投資行動をしなくてはいけなくなるんです。具体的には、これからの日本においては、預金だけをしていたら取り残されると思います。それをしっかり理解することが重要です。

もうひとつは、世界全体の成長を取り込むことです。申し上げたように、かつて日本は世界経済において大きな割合を占めていましたが、現在は世界全体のごく一部です。そういうときに、日本だけで済ませようというのは間違っているわけですよ。やっぱり世界を見ないといけない。そう考えると、投資活動を考えても、日本だけじゃなくて、アメリカとか、中国とか、世界中の様々な資産クラスを選択肢に入れるべきだと思います。日本人だからとか、日本にいるからとか、そういう制約を考える必要は全くないんですよね。世界というものをイメージして、投資活動をすることが重要だと思います。

マネックス,松本大,3万円,3万ドル,2018年
(写真=髙橋明宏)

——マネックス証券は今後、どのような役割を担っていこうと考えていますか?

多くの方にとって、海外への投資で有効なのはETFです。海外の個別企業に関しては言葉の壁もありますし、日本にいるとニュース自体が、日本企業と同じような速度と密度で入ってこないんですよ。もちろん、英語に堪能で、常にマーケット情報を拾っているという方なら別です。ただ、多くの方はそうではないはずです。

日本企業だったら、スキャンダルが起きたとか、何かおかしいというのはすぐ聞こえてきますよね。でも海外企業だと、よほど大事になってから、はじめて日本にいる身としては気がつくことが多いと思います。そういった意味で、投資信託とかETFとか、ちゃんと運用されている資産を買った方が安全性は高いと思います。現代においては、投資信託よりもETFの方が、コストが低いことが多いので、海外の資産クラスに関してはETFで買いにいくのが良いのではないでしょうか。

しかし、現在はルール上、海外の上場ETFでも日本で登録されていないと、日本のお客様には直接売買してはいけません。従って、日本の証券会社経由では、全ての海外ETFにアクセスできるわけではありません。そこはもう少し規制が変わってもいいかなと思います。当社においては、グループ会社に全米第6位のオンライン証券会社「トレードステーション」もあり、銘柄追加や時間外取引など柔軟に対応しています。(※編集部注)。

マネックス,松本大,3万円,3万ドル,2018年
(写真=髙橋明宏)

——松本社長にとって「お金」とはどのような存在でしょうか。

「お金」って社会財だと思うんです。お金は社会を動かしたり、社会を組み立たてたりする財なんですよ。財である以上、使われなくては意味がなくて、やっぱり社会のなかで使われて役割を果たすと思います。個人の資産運用においては、投資という形で自分のお金、いわば分身をどこかへ出稼ぎに行かせて、そこで社会財として活躍してもらい、成長して返ってきてもらう感覚が重要です。

基本的に自分自身は本職の仕事だけしかできないんですけれども、本職の対価で得たお金を日本中、世界中に出稼ぎに行かせる。お金は天下の回りものという言葉がありますけど、まさにその通りだと思います。社会財、英語だとデプロイと言いますけど、動かさなきゃいけません。お金は活躍させてナンボ、寝かせていたら意味がないというものだと思っています。

松本大(まつもと・おおき)  1987年東京大学法学部卒業後、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、マネックス証券株式会社を、2004年にマネックスグループ株式会社を設立。現在、米マスターカード、株式会社ユーザベースの社外取締役なども務める。

※編集部注 トレードステーションは、米国のオンライン証券でマネックスグループ(株)の100パーセント子会社。米国での証券業を営んでおり、ホームページ等は英語であるものの、日本の個人投資家が口座を開設することが可能。全ての上場株、全ての上場ETFに加え、昨今話題のビットコイン先物も売買可能。