2017年も持続的な成長を見せたFinTech市場から、主要ニュースをまとめてみた。中国大手企業やドイツ銀行によるFinTechファンド設立から、IBMとVISAによるIoT決済プラットフォーム共同開発、Swiftの概念実証、英国FinTechに立ち込める暗雲まで、昨年の動きを振り返ってみよう。

1月――中国大手企業が14.4億ドルのFinTechファンドを設立

香港証券取引所上場企業クレジット・チャイナFinTechホールディングス、上海新華社行集団有限公司、中国華容インターナショナルなどが、総額14.4億ドルのFinTechファンドを設立。

金融分野へのビッグデータ、AI(人工知能)、モバイル決済、サプライチェーン融資、ブロックチェーンといった先端技術の活用・促進が目的だ。

クレジット・チャイナFinTechホールディングスの調査によると、2015~16年にかけて中国でのFinTechベンチャー投資は88億ドル増えたという。

2月――IBM、VISAがIoT決済プラットフォーム開発を共同開発

IBMとVISAが新たな決済プラットフォーム開発に向け提携。IBMの「Watson IoT(モノのインターネット)プラットフォーム」とVISAの決済サービスを融合することで、車や冷蔵庫などあらゆるコネクテッド(接続された)デバイスからの支払いを可能にするという試みだ。つまりモノのそのものがPOS(販売時点情報管理システム)になる。

世界中で何十億人もの消費者がIoTを通し、便利なだけではなく安全性の高い決済を利用可能になる。

3月――ドイツ取引所、初期~成長段階のスタートアップを支援するCVC設立

ドイツ取引所がFinTechコーポレート・ベンチャーファンド「DB1」 を設立。金融システムの再構築に向け、ブロックチェーンや機械学習といった先端技術を研究・開発するスタートアップの支援を開始した。

初期~成長段階にあるスタートアップに、長期的・戦略的な小口投資を行っている。

4月――ゴールドマン・サックスなどに続き、JPモルガン・チェースがR3離脱発表

JPモルガン・チェースがブロックチェーン・コンソーシアム「R3」の離脱を正式に発表。2016年後半に離脱したゴールドマン・サックスやサンタンデール銀行、モルガン・スタンレー、ナショナルオーストラリア銀行に続く動きとなった。

大手銀行が続々と離れていく原因は、R3の過剰な資金要求にあったようだ。R3は当初株式の90%を提供する代わりに、2億ドルの資金調達を目標としていた(ロイター紙より )。

5月――アクセンチュアが英国FinTechの未来に疑問、投資が著しく失速

アクセンチュアが英国のFinTechの未来に疑問を投げかける報告書を発表。2015年には11億ドルだった投資が7億ドルまで急激に落ち込んだ点を指摘し、Brexitによる潜在的なダメージや中国FinTechの跳躍が原因ではないか―との見解を示した。

アクセンチュアは英国FinTechが「R&Dのリーダー的存在になれる可能性」を秘めていると分析する反面、シンガポールや中国といった強力なライバル国に打ち勝つためには、政府や規制当局のさらなる支援が必要だと結論付けている。

6月――サンタンデール銀行、傘下オープン銀行のシステムに機械学習技術採用

サンタンデール銀行が傘下オープン銀行のシステムに機械学習技術を採用し、各顧客の需要に見合ったカスタマーサービスの提供を目指す意向を発表。サンタンデール銀行のクラウドセンターのデータをベースとする、ハイブリッドなパブリックおよびプライベートクラウドシステムに移行させる。

オープン銀行は、サンタンデール銀行が1995年に設立したデジタルバンクの先駆け的存在だ。

7月――SwiftのブロックチェーンCoPに国際大手銀行22行が参加

Swiftの概念実証(CoP)にJPモルガン・チェース、ドイツ銀行、コメルツ銀行、ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行、サンタンデール銀行、ソシエテ・ジェネラル、ロイズ銀行、三井住友銀行、中国建設銀行など22行の国際金融機関が参加。

ブロックチェーンを利用して、ノストロ・アカウント(資金決済を行う当方が外貨建てで保有する決済口座)の即時銀行残高調整の向上が可能か否かを検証する目的としていた。

8月――ラボバンクが自社ITシステムの3Dモデルを作成

オランダのラボバンクがITアーキテクチャへの理解を高める目的で、自社組織およびサポートITシステムの3Dモデルを作成。自社が実施中のデジタル革命プログラムを効率よく進めるうえで、まずは組織内部の理解力を高める必要があるとの発想だ。

「組織内部では最新テクノロジーの採用に戸惑う企業が少なくない」現状を考慮すると、こうした取り組みの重要性が長期的成長のカギをにぎっているといえる。

9月――HSBCが顧客向けオープンバンキング・プラットフォームを試運転

オープンバンキングとは、顧客の同意の元、銀行の保有する顧客データをサードパーティーと共有するシステムで、各顧客の需要に見合ったサービス・商品の提供を意図したものだ。

HSBCはこのオープンバンキングシステムを採用し、顧客が単一のプラットフォームからすべての金融機関に保有する口座にアクセスできるプラットフォームを開発。英国1万人の顧客を対象に、試験運転を実施すると発表した。

10月――マスターカードが独自のブロックチェーンAPIを銀行、小売業者に開放

マスターカードが独自のブロックチェーンAPIを、銀行や小売業者にも開放すると発表。提携先の金融機関や小売業者がAPIを通じて、自社のブロックチェーン・ネットワークを利用できるようにするという試みだ。

利点としてはスマートコントラクトを利用することで管理作業などを省略し、取引完了までのプロセスの簡潔化が期待できる。

11月――Ripple CEOが中央銀行によるブロックチェーン採用を予言

Rippleのブラッド・ガーリングハウスCEOが、「遅かれ早かれ、中央銀行はブロックチェーンを採用する」と予言。「一旦ブロックチェーンが定着すれば、後の物事はすみやかに進む」と確信を見せた。

Rippleはすでにドイツ銀行と提携し、ブロックチェーンを採用した証券決済システムのプロトコルを共同開発中だ。

12月――インド財務省「仮想通貨はポンジ・スキーム」 消費者に警告

インド財務省は「仮想通貨はポンジ・スキームのようなもの」と、消費者に警告する声明を発表。インドは独自の仮想通貨開発を進める一方で、市場に出回っている仮想通貨に警戒心を強めている。

声明ではビットコインを含む仮想通貨の価格変動に、バブルのリスクが高まっている点を強調している。すでに厳しい仮想通貨取締りに乗りだした中国、韓国、シンガポールに続く動きだ。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)

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