首都圏マンションの販売が好調だ。富士通総研によれば、11月の販売実績は前年同月で25%、特に都区内は43%と大きく伸びている。70㎡の新築分譲価格も5500万円超えで、年収の10倍以上に達している。こうした活況の裏で、マンションの供給過剰が進んでいる。
人気エリアの代表格である中央区・江東区の湾岸地域も例外ではないと、『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』の著者である東洋大学の野澤教授は警鐘を鳴らしている。
ラッシュ時はもはや「危険水域」駅の混雑
2007年に不二サッシが工場を移転し跡地再開発が始まるまで、この一帯は工場・変電所・スポーツグラウンドが点在する殺風景な準工業地帯に過ぎなかった。そんな武蔵小杉駅周辺が今では、「2017住みたい街ランキング」で吉祥寺に次ぐ第2位にまで上昇している。大規模開発によるマンション建設・商業施設の整備に加え、JR横須賀線の新駅設置による相乗効果が人気の背景だ。
人気上昇とともに、人も集まっている。武蔵小杉のある川崎市中原区の人口は、ここ10年間で2.5倍の25.4万人に達した。
あまりの人口急増で、社会資本の整備が追い付かない。その典型例が、交通インフラだ。平日朝、JR武蔵小杉駅前には、改札口に向かう乗客で長い列ができる。横須賀線の混雑も武蔵小杉-西大井間で200%近くに達している。
住民の6割が「駅の混雑ぶりは危険」と感じているが、打てる手はオフピーク通勤推奨など限られている。事故防止のホームドアも京浜東北線等が優先されるうえに、横須賀線車両は扉位置の異なる車両が運行しており、設置は容易ではない。
高層マンション建設は止まらない
こうした状況にもかかわらず、マンション建設は止まらない。タワーマンションだけでも、53階・総戸数1200戸を誇る「パークシティ武蔵小杉 ザ ガーデン」を始めとして6棟が今後建設予定だ。値段も中心価格帯が7000万円台にまで上昇している。
住民の中にも、人口増に懸念の声が上がり始めているが、自治体サイドが開発にブレーキを踏む動きは見られない。そしてこうした状況は、他の人気エリアでも起こっている。
タワーマンション建設は止まらない
タワーマンションの建設・販売計画は、相変わらず勢いを持続している。全国で今後予定されている20階以上の超高層マンションは全国で285棟・10.6万戸で、その過半数が東京23区内に集中している。
その中でも、勝どき・月島・豊洲・西大島などの湾岸エリアには、50階以上のタワーマンション建設が目白押しだ。
あっという間に完売する人気ぶりに加え、建設を後押ししているのが政府・自治体の住宅政策だ。江東区を始めとする湾岸エリアの各自治体は、いくつものエリアで再開発事業を立ち上げ、容積率など規制を緩めたり整備費用に補助金を支出するなどして、タワーマンションの建設を促している。
こうして乱造されたマンションは、やがて不良資産化するリスクをはらんでいる。例えば、江東区エリアのタワーマンションは、辰巳・枝川など旧市街地住民とのコンフリクト、中華系など多国籍なオーナー間の合意形成問題などが顕在化しつつあるとのことだ(『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』より)。防火・防災上の懸念、高機能ゆえの長期修繕費など、通常のマンション以上に多くのリスクを抱えており、ある時期を境に資産価値が低下していく可能性も否めない。
持続可能な街づくりのために
人口減社会でも、住宅新築のニーズが無くなるわけではない。新しい住宅を購入したい・建て替えたい・住み替えたいといったニーズは絶えず存在するからだ。
ただし、そこには量的なコントロールが不可欠だ。むやみやたらと住宅戸数や居住スペースを増やし続けることは許されない。都市計画と住宅政策に絶えず目を向け、居住エリアの拡散をセーブしていくべきである。そのためにも、住民であるわたしたち一人ひとりには、もっと自分たちの街づくりに関心を持ち続ける意識が求められる。(ZUU online 編集部)