賃貸にするか購入するか。いつの時代でもこれは、住まいを決める際の大きなテーマだ。どちらを選択したかによって、その後の人生は大きく左右されることになる。そういった意味ではまさに究極の選択ともいえる問題なのだが、現実はというとそれほど深く考えて決める人は少ない。

金銭面や住宅の質、利便性などが現在の生活状況に見合ったものかどうか。その検討は慎重に行われるのだが、将来を見据え、人生プランを織り込んだ上での住居選択とはなっていないのが現実である。

そこで「終の棲家」として側面から住居選択のあり方を提案してみよう。仕事をリタイアし、高齢者となってからの住居探しは非常に難しい。当事者となってみないとそれは実感しにくいが、余生においては住居確保の安定性は不可欠である。そしてその観点を住居選択のテーマに加えてみると、賃貸にするか購入するかというこの選択論争にも、1つの答えを導き出すことができるのである。

賃貸か購入か、現在の考え方とは?

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(画像=PIXTA)

住宅を購入する場合、全額を現金で支払える人は多くない。住宅ローンを購入費に充てるケースが大部分であり、現実には家を賃貸するか購入するかではなく、家を借りるかお金を借りるかの選択となっている。

そのため、よく語られる損得論ではローン返済額と賃料の総額が比べられ、どちらが有利なのかに焦点があてられる。例をあげてみよう。都内の3LDKの中古マンションを2500万円、全額ローンで購入した場合と、同等の賃貸物件を月額10万円で借りた場合ではどちらが有利か、人生におけるそれぞれの総支払額から比較する。

住宅ローン返済額(返済期間20年 金利2.0% 毎月均等返済) 月額支払12万6471円 年間151万7652円 20年間総返済額3035万3040円

ここに管理費などを2万5000円程度加え、年間支払いには固定資産税を10万円計上する。すると月額負担はおおむね15万円、年間190万円の支払い、20年トータルで3800万円の支払いとなる。

同程度のマンションを賃貸した場合、都内であれば10万円前後の賃料負担が想定される。その場合の年間賃料は120万円、20年間で2400万円となる。ここに2年に1度の更新料(1か月分)を加えると、10回の更新で120万円の更新料負担、総支払額は2520万円となり、1280万円も支払いが少ない賃貸のほうが断然有利となる。

しかしその優位もローン完済までの話で、21年目以降は購入の場合は管理費と固定資産税で年間40万円の負担となるのに対し、賃貸は毎年120万円と変わらない。その差額は年間で80万円となるので、ローン完済時の差額1280万円は16年で逆転し、その後は購入派が余裕のある生活を続けることになる。

この試算で重要となるのは、購入派の購入年齢を何歳とするかである。厚生労働省が発表した2016年の平均寿命は男性80.98歳、女性は87.14歳であった。完済後16年で総支払額が逆転することを考えると、男性寿命から逆算して64歳までにローンを完済できるのであれば、損得計算では購入派が優位に立つことになる。

以上が損得面からみた賃貸と購入の比較である。20年ローンを前提とすると、45歳までの購入なら65歳にローンを完済でき、定年の時期もその頃なので、購入か賃貸かの判断は45歳までに済ませておきたい、ということになる。

しかし終の棲家を損得だけで決めてしまっては、リタイア後の生活に不安を残すことになる。最悪の場合住居を失う可能性あるので、もっと慎重に考慮すべきなのである。

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リタイア後に賃貸生活を続ける危険性

賃貸で同じ家に長期間住み続けるのは難しい

実は賃貸住宅というのは、1つの場所に長くは暮らせない性質をもっている。一戸建はもとより賃貸用に建てられたアパートやマンションでも、相続で家主が代替わりしたり、老朽化で取り壊されたり、売却されて更地にされたりする危険性は常にある。そのため、継続して20年も30年も借りていられるというのは、非常に稀なケースだといえるのだ。

そうした事態となると、当然だが賃借人は別の住居を探す必要性に迫られる。いくら居住権があるといっても、家主の決定に逆らい続けることは難しい。その時期がリタイア後に来たら、と考えたことはないだろうか。65歳で定年を迎えたとして平均寿命の80歳までの15年間、同じ物件を借り続けられる可能性は低い。賃貸住宅に住み続けるのであれば一度は必ず転居を迫られることになると、覚悟しておくべきであるといえるだろう。

高齢者の賃貸事情

ところが高齢者の賃貸事情は芳しくない。入居審査の際に表だって提示されることは少ないが、家主の多くは高齢者の入居を快く思っていないのだ。その理由は以下の通りである。

・定年後の世帯は定職がないので賃料支払いが心配
・保証人の不在
・居室内での孤独死の危険性

年金収入や貯蓄が十分であったとしても、現役時代ほどの安定性は保障されない。高齢者には病気などの身体的な不安も付き物なので、医療費の負担が大きくなり、いつ賃料の支払いが滞ってもおかしくないと考える家主が多いのだ。

保証人を立てることが難しいのも、高齢者の賃貸事情を悪くさせている。高齢になるとその親を頼るわけにもいかず、子や兄弟は収入面で資格に乏しい。となれば保証会社の利用となるが、住宅ローンの保証と同じで、一定以上の年齢となると厳しい条件を付けてくる会社が多いのだ。

そして決定打は孤独死問題である。居室内で孤独死があるとその後その物件は、借り手を見つけるのが難しくなってしまうのだ。よってその危険性の高い高齢者単独の世帯は、多くの家主に敬遠されてしまう。夫婦ふたり世帯であっても、数年の内にどちらかが先立つ可能性は低くないので、結局は同じことだと考えられているのだ。

孤独死や自殺は賃貸借契約の際の告知事項とされ、内緒にしたまま物件を貸すことはできない。そのため一度でもそうした事態に陥ると、その後何年にもわたって家主は、賃料収入の大幅減少に悩まされることになる。だったら最初から高齢者には貸出したくない。多くの家主がそう考えるのも、賃貸経営の側面からすると仕方がないともいえるのだ。

賃料を支払っていけるかも考慮すべき

賃料の支払いにも不安は残る。十分な貯えを残せれば別だが、年金を主な収入源とした生活だと、将来にわたってその収入が保障されるとは限らない。よく語られるように支給額が減るばかりの現状では、今の若い世代が受給対象となった頃には、年金制度自体が破綻しているかもしれないからである。

そしてそれは、何も将来の世代だけの問題ではない。現実に今でも、年金受給額の不足から賃料を支払えずにいる世帯は少なくない。というのは夫が主な家計の担い手だった場合、年金は主に夫を支給対象となる。夫婦がともに健在であれば生活費の確保は問題ないが、もし夫が先立つと残された妻の受給額は、途端に相当な額を減額されてしまうのだ。

厚生労働省が発表した「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の平均年金月額は2016年度末現在で老齢年金は14 万8000円、遺族年金は8万4694円となっているので、夫に先立たれた妻は、単純計算だけでも賃料の支払いだけで手一杯となってしまうのがわかる。これが国民年金となると老齢年金の平均年金月額は5万5000円と低くなるので、年金だけで賃料を支払い、更に生活費をまかなうのは現状でも大変厳しいといわざるをえない。

したがって仕事をリタイアした後は、かなりの貯えがないと賃貸生活は難しいと考えるべきだろう。前述の平均寿命を見ると、女性の寿命は男性より7年近くも長い。終の棲家として賃貸住宅を選ぶのであれば、夫が先立つ可能性も視野に入れて、慎重に家計や貯蓄と相談すべきなのである。

不動産余りの未来をどう考えるか

この先、人口の減少とともに不動産は余っていくといわれている。余るのであれば貸してもらえないこともないだろうし、賃料だって下がるだろうから、そんなに心配はないのではないだろうか。

そのような考え方もあるだろう。しかしそれは早計である。現状の入居率をご存じだろうか。2016年6月1日付けの日本経済新聞朝刊によると、2016年3月の神奈川県の空室率は35.54%、東京23区や千葉県でも空室率の適正水準とされる30%を3〜4ポイントほど上回っているとされている。つまり現状でも多くの家主は、空き部屋に悩まされているのだ。

だというのに高齢者をめぐる賃貸事情は、改善どころか悪化に向かっている。となれば将来的に不動産余り加速しても、高齢者の受け入れが大きく好転する見込みはないと考えておいた方が安全ではないだろうか。

いくら余っていても貸したいと熱望しても、更に収益を悪化させる可能性を持つ入居者は入れたくない。そう考えるのが家主というものである。孤独死や滞納の可能性が高い高齢者を入れるくらいなら、条件は悪くなっても若い入居者を希望するのが常なのだ。

住まいに不安を持った状態では、幸福な余生は望めない。買うにしても借りるにしても、そのための方策を、若いうちから考えておくべきといえるだろう。

自身の状況に見合った住まい。それこそが最終結論

生活環境が変化した場合、それに応じてすぐに引っ越すことができる。これは賃貸住宅の大きなメリットといえる。転勤の多い人や家族構成に変化が考えられる人には、とても好都合だといえるだろう。

しかし賃貸住宅には前述したように、高齢者となった場合の不安がある。そしてそれは定年後に住宅ローンを残した場合にも、全く同じことがいえる。したがってどちらを選ぶかは、ケースバイケースが正解となる。では、どのケースでどういった選択が安全なのか、ここからはそれを考えていこう。

賃貸住宅を選んでも不安の少ない世帯

賃料支払いに心配のない貯えがあり、子や孫と同居している世帯は、賃貸物件に住み続けても不安は少ないといえる。

具体的な基準は以下の通りである。(1)か(2)のどちらか片方だけでも実現できれば、住居確保の面では安心して老後を過ごすことができるだろう。

(1)十分な預貯金
定年時以降、平均寿命に至るまでの期間に支払うことになる賃料相当額にプラスして、必要最低限の生活費を貯蓄できている。

(2)単身、または夫婦ふたり世帯とならない家族構成
子や孫、もしくは兄弟姉妹との同居が確約され、世帯の後継者がはっきりしている。

預貯金によって賃料支払いに問題がなければ、あとは物件確保だけが懸念材料となる。家主が高齢者世帯を敬遠するのは孤独死や賃料滞納を不安視するからだが、子や孫との同居世帯であればそれも解決する。

しかし子や孫の生活を縛るのは難しい。預貯金は自分の努力次第といえるが、自立する子がどこで生活するかは、親が決めることではないからだ。となれば賃貸契約自体を強化するのが、子の独立に備えた手段となる。比較的長期契約が可能となる、定期借家権契約を条件とする物件を探しておこう。60歳前後での30年契約は難しいかもしれないが、定年までにできるだけ長期契約の物件を手立てできれば、退去を迫られる心配は大幅に減ることになる。

購入を選んでも不安の少ない世帯

長期の住宅ローンを組んでも定年前に支払いが終わる年齢での購入であれば、老後の生活費の不安は少なくなる。ローンさえ完済すれば価格相場が下がっても売却自体に問題はないので、家族構成の変化とともに所有物件が広すぎる状況となっても、小さな物件への買換え、賃貸物件への移り住みのどちらも可能となる。

また、購入の場合は資産としての活用も可能となる。10万円で人に貸して自分は5万円の賃貸物件に入居するといった運用を行えば、年金の他に収入源が得られ、生活費に余裕を持たせることも可能となるのだ。

しかしこれらはすべて、リタイア前にローンを払い終わっていることが前提となる。また、売りやすい、貸しやすい物件でないとその前提も無意味となってしまう。購入時に安い物件は、売却時も安いままである。バス便などの交通事情の悪い物件や、近くに嫌われやすい施設がある物件は購入を見送るべきだろう。

「終の棲家」は計画次第

今後日本は更なる高齢化社会となり、現在より高齢者世帯の自立が求められる時代がやってくるといわれている。であればそのときに安心して生活できる環境づくりこそが、賃貸か購入かを決めるにあたっては、最も重要な根拠とすべきなのではないだろうか。

もちろん、老後住居の安定性さえ確保できれば、賃貸と購入のどちらを選んでも心配はない。そのためには賃貸なら賃料支払いの財源、購入であれば定年前のローン完済が重要となる。それらの実現を30代、遅くとも40台までに計画できていれば、住居選択は好みの問題となる。

したがって先のことだと楽観せずに、住居を含んだ老後の生活設計を確固たるものにしておくことこそが、賃貸にするか購入にするかという、住居選択の究極のテーマに答えを導く方策となるのである。(近松健司、不動産業界経験豊富なライター)

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