青森県弘前市では「お城と桜とりんごのまち」というキャッチフレーズを掲げています。その通り、弘前城のある弘前公園は国内有数の桜の名所で、4月下旬に開催される「弘前さくらまつり」には、毎年約200万人もの人々が訪れます。

ところが、弘前市では街のシンボル・弘前城の老朽化した石垣を修理するため、2015年にお城を移設させるということになりました。最大の観光地が移動するということは、弘前市にとっては大事件です。

そこで弘前市は考えました。お城を動かすという事業を「弘前城が動く 弘前城石垣修理事業」として市民に参加してもらい、街の活性化を促そうというのです。逆境をユニークなイベントに変化させる、弘前市の知恵と機転のプロジェクトを紹介します。

桜の名所の弘前城はまちのシンボル

Aomori
(写真=PIXTA)

弘前城では、桜のシーズンになると愛らしい天守閣からお堀にかけて桜の咲き誇る姿がテレビに映しだされます。とくに天守は江戸時代から残る貴重な木造で国の重要文化財。約400年前、弘前はこのお城を中心にまちづくりが行われました。弘前市のシンボルとして城内では「弘前さくらまつり」をはじめ数多くのイベントが開催され、いまも市民に愛されています。

桜で有名な弘前城の天守はお引っ越し中

そんな市民のシンボルである弘前城の天守閣に異変が起こりました。2015年夏、天守閣が消えてしまったのです。実はこれ、「弘前城本丸石垣修理事業」の工事のための「お引っ越し」。いまも北西に70メートル移動しています。長年の上からの重みで天守を支える石垣に膨らみが出てきていました。天守が元の位置に戻るのは早くて2020年頃。全体の工期はおよそ10年です。天守と桜とお堀がセットになった見事な光景は、2025年頃に工事が終わるまでお預けになっています。

約100年ぶりの石垣大修理は市民の手で

弘前城は400年の歴史のなかで幾度も修理が行われてきました。天守の石垣工事はおよそ100年ぶりです。今回、石垣修理のため曳屋工事で天守を別の場所へ移動させました。しかも、市民が綱で曳屋するという前代未聞の方法でした。

2015年9月20日から27日にかけて開催された「曳屋体験イベント 曳屋ウィーク」。天守の下に市内の主中学校から集められた綱引き用の綱が4本取り付けられ、弘前市民が約3,900人総出で3日間、1日4回、15センチずつ引っ張ります。その光景はさながら弘前城との綱引き大会です。約3万人の市民や観光客が見守るなか、みんなで力を合わせて天守を移動させる画期的なイベントは大成功に終わりました。

イベントには国内はもとより海外メディアの取材もあった話題の「曳屋ウィーク」。通常、文化財の修理工事は非公開で行われることが多いのですが、公開型工事として愛する市民の手でお引っ越しできた天守もきっと喜んだことでしょう。

修理工事でまちおこし

弘前では石垣修理工事に関連して「曳家ウィーク」の後も多彩なイベントが企画されています。2016年2月13日、14日には恒例の「弘前城雪灯籠まつり」に合わせて行われた「弘前城石垣マルチプロジェクション」。長さ140メートルを超す石垣をスクリーンにして桜の映像などが映しだされました。

スマホアプリ「街めぐ〜弘前編」では、曳屋前の位置にARで弘前城の天守閣を再現できます。アプリには撮影機能があるので、工事着工前そのままの姿の弘前城と記念撮影ができるのです。また、弘前公園の四季の様子もARで再現できるので、桜の満開の春バージョン、白銀の雪に包まれた冬バージョンなども自由自在です。

このほか、曳屋にも参加したコスプレイヤーたちによるコスプレイベントも弘前公園で行われ、お城でコスプレ撮影ができる貴重な機会のため好評でした。

石垣修理工事で天守が見えなくなる。それを逆手にとって次々と注目の観光イベントを仕掛けた弘前市民の機転とアイデアは素晴らしい評価を受けました。早く修理が完成し、元の場所に戻った弘前城の姿を、弘前市民たちは心待ちにしています。(提供:JIMOTOZINE)