まずは「疲れない身体」なんてないことを認識しよう!

疲れリセット術
(画像=The 21 online)

40歳前後になると出てくる「疲れがなかなか取れない」「若い頃のように働けない」という悩み。「疲労」はなくすことができないとしたら、私たちはどのようにつきあっていくべきなのだろうか。医師であり、コンサルタントとしても活躍する裴英洙氏にアドバイスをいただく。

「疲れない身体」など決して手に入らない!

40代を迎える頃から、「明らかに身体が変わってきた」と感じる人は多いでしょう。

階段の上り下りがきつくなる、身体のあちこちが痛い、脂身の多い肉を食べると胃がもたれる、徹夜ができなくなる……。そして何にもまして、「疲れやすくなった」ことを実感しているのではないでしょうか。

歳とともに身体が疲れやすくなり、疲れが取れにくくなるのは避けようのない現象です。なぜなら、身体の運動機能を支える組織は、加齢とともに衰えていくからです。

たとえば筋肉。筋肉は細い「筋線維」が何本も集まってできていますが、この線維の数は40歳頃から、年に0.5%ずつ減っていくと言われています。その結果、筋肉量や筋力は年々低下していくのです。

骨にも変化が現われます。骨密度や骨の量が低下し、ひどい場合は骨粗しょう症になることも。これらの変化が、「ちょっとしたことで疲れる」「肩が凝る、筋肉が張る」といったことにつながるのです。

こうした体力の衰えに抵抗しようと、いきなりランニングやジム通いを始める人がしばしばいますが、これは考えものです。適度な運動ならば問題ないのですが、過去の自分を目指し、その頃と同じ体力をつけようと一念発起するのはケガのモト。運動をしすぎて体力が消耗し、仕事に支障が出るリスクもあるので要注意です。

その一方、「疲れなどまるで感じない」という元気な40代もいます。しかし、これはこれで問題あり。疲れを感じないからといって、身体が疲労していないわけではないからです。

仕事に意欲的で強い達成感を感じている人ほど、疲労感を感じにくい傾向があります。しかし、その裏で実際は疲労が蓄積しており、放置していると取り返しのつかない大病につながることもあります。「疲労と疲労感は違う」と心得て、40代になったら自分の身体と向き合ってください。

つまるところ、「身体は疲れるものである」のは変えようのない事実。いつまでも若く、疲れない身体を手に入れたいと望んでも、それは「青い鳥」のように実現不可能なもの。まずはそれを認めることが大切です。

若い頃の武勇伝は今すぐ捨て去ろう

しかしそれは、決して悲観することではありません。なぜなら、40代には若い頃には持ちえなかった武器──スキルと経験があるからです。

昔は8時間かけないとできなかった仕事が、今は4、5時間でできるようになっているでしょう。また、昔なら慌ててパニックになっていたような状況を、落ち着いて切り抜けられる胆力も備わっているでしょう。それらは、体力の低下を埋めてあまりあるパワーとなっているはずです。

その変化は、「がむしゃらに働く」という、これまでの仕事のスタイルの見直しにもつながります。

体力がある若い頃は仕事を「量」で測りがちです。とくに今、40代くらいの世代となると、「1日15時間労働で頑張った」「3日徹夜した」「40日連続出勤した」といったかつての働き方を、一種の「武勇伝」として持ち、それに引きずられている人もいるのではないでしょうか。

対して成熟したビジネスマンは、「1,000万円の取引を成功させた」というふうに、仕事を「パフォーマンス」「成果」で測ります。そして、短い時間でそれを獲得したことに達成感を覚えるものです。

40代ビジネスマンにお勧めしたいのは、むしろ「戦略的手抜き」。「力の入れどころ・抜きどころ」がわかる年齢であればこその働き方を確立することです。

ちなみに、そうした視点転換は、部下を持つ40代の「責任」とも言えます。

「働き方改革」が叫ばれる現在、労働時間の短縮を図ることは急務となっています。20年前にがむしゃらに働いていた方々が、今の若い人に「自分たちの若い頃は徹夜で働いたものだ」などと武勇伝をひけらかすのは、悪しき伝統を継承させるモトです。

もちろん、若い頃はひたすら働いてスキルを蓄積させることも重要ですが、その中にある「ムダ」な要素は取り除く必要があります。彼らに「効率的な働き方のコツ」を伝授するのが、スマートな上司の在り方といえるでしょう。次代の人々をよりクレバーな働き手にしていくことで、会社組織全体の成長も図れるのです。

身体のデータを記録して疲れの原因を知る

こうして「自分および周囲の働き方改革」を進めながら、同時に行ないたいのが身体のメンテナンスです。

「身体は疲れるものである」と認めたうえで、「疲労からの回復をいかに早めるか」という戦略を立てるのです。それには、「疲れ」というものの中身をきちんと知る必要があります。

疲労には、次の三つの種類があります。①肉体を使うことによって起こる「身体的疲労」。②人間関係やタフな状況などで起こる「精神的疲労」。③デスクワークやパソコン作業などによって起こる「神経的疲労」。

この3つの疲労は、互いに密接に関係しています。神経的疲労により脳が緊張すると、交感神経が常時ONのままなので内臓や筋肉が休まらず、肉体も疲労します。また、肉体的疲労が自律神経のバランスを乱して精神的疲労を招くこともあります。それらを理解したうえで、自分の疲れの性質や構造を把握しましょう。

ここでよくある失敗が、疲れの中身をよく考えず、「なんとなく疲れた」と捉えるのみで曖昧な対処をするパターン。精神が疲れているのに、栄養たっぷりの食事で回復を図ろうとしても意味はありません。

また、「人の回復法を真似る」のもよくある失敗パターンです。疲労の原因はそれぞれで、体質や環境によって対処法も千差万別なのに、人と同じやり方で解決を図ろうとする人は少なくありません。

では、どうすればよいのか。それには、自分の身体のデータを記録することです。

データといっても大げさなものではありません。スケジュール帳の隅にメモをする程度で十分です。

毎日、自分の感じる体調を〇△×の三段階でつけ、「寝不足」「食欲あり」などの備考を書き添える程度でOK。こうすることで、何がきっかけで疲れたのかが可視化されます。

加えてお勧めしたいのは、「休み」をスケジュールの中に組み込むことです。「この日は17時で退社する」「この日は会食の予定は入れない」など、あらかじめ休む時間や日程を確保しておかないと、予定がどんどん詰め込まれます。それに流されて疲労をため込むのではなく、「休みも仕事の一部」と考えてしっかり休息を取り、すばやく回復して高いパフォーマンスを挙げるのが賢い方法です。

次回からは、賢い身体のメンテナンスについて、より具体的な方法をお話しします。第2回のテーマは「睡眠」。すべての疲労に効用のある「眠り」の適切な取り方を、ぜひ知っていただきたいと思います。

裴 英洙(はい・えいしゅ)
ハイズ〔株〕代表取締役社長/医師/医学博士/MBA
1972年、奈良県生まれ。金沢大学医学部卒業後、金沢大学第一外科に勤務。医師として働きながら、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應ビジネス・スクール)を首席修了。ビジネス・スクール在学中に、医療機関再生コンサルティング会社を設立。現在も医師として臨床業務をしつつ、医療機関経営に関するアドバイスを行なう。著書に、『一流の睡眠「MBA×コンサルタント」の医師が教える快眠戦略』(ダイヤモンド社)など。(取材・構成:林 加愛)(『The 21 online』2017年4月号より)

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