シンカー:グローバルな経済とマーケットの大きな潮流を読んでみたい。前編では、1)グローバルな需要不足とデフレ懸念、2)ポピュリズムの蔓延と無力な金融政策、3)グローバルな政策の転換を解説する。後編では、4)インフレの復活、5)生産性がすべてを解説する。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバルな経済とマーケットの大きな潮流を読んでみたい。

1)グローバルな需要不足とデフレ懸念

2007・8年のグローバルな金融危機後の景気の持ち直しの2009年を経て、2010年からの6年間はグローバルな需要不足とデフレ懸念が特徴であった。

2010年のG20で、リーマンショック後の財政拡大の反動で、財政再建と金融緩和の強化の方向性で合意したのが転換点であったと考えられる。

グローバルな強い金融緩和は、金利水準を低下させ、新興国の投資を活性化し、グローバルな景気回復が一時的に支えられた。

しかし、財政緊縮が先進国の需要の回復を鈍化させたことが、先進国の需要に依存する新興国の供給能力を過多にし、行き過ぎた投資の反動とそのストック調整がグローバルな景気・マーケットの不安定化につながってしまった。

供給余力のある新興国が需要の停滞する先進国に輸出攻勢をかけていけば、先進国では企業の過剰競争が起き、物価は停滞してしまう。

2)ポピュリズムの蔓延と無力な金融政策

金利低下による資本の活発な動きに対して、需要停滞により賃金と雇用の回復は遅れ、質は悪化し、財政政策による所得の再配分と社会保障の拡充は弱く、セーフティーネットは削減され、貧富の格差や中間層の没落が、ポピュリズムの蔓延につながった。

景気回復が十分ではないにもかかわらず拙速に財政再建を進めてしまったことにより、各国の現政権への不満が大きくなってしまったからだ。

理論的には、グローバルな競争の激化などで物価の低迷が引き起こされたように見えるが、それは相対物価の話であり、財政をしっかり拡大して需要対策と格差是正に取り組んでいれば、絶対物価水準の低迷やポピュリズムの蔓延は起こらなかったはずだ。

中央銀行の大規模な金融緩和の効果が小さく見えたのは、財政緊縮などによりネットの資金需要(企業貯蓄率と財政収支の合計)が弱く、マネタイズするものが存在せず、マネーや貨幣経済の拡大を促進できなかったのが理由であると考えられる。

デレバレッジやリストラなどで企業貯蓄率が高止まっている間は財政拡大で十分なネットの資金需要を生み出す必要があったが、「デフレは貨幣的な現象であり、財政政策はマンデル・フレミング効果(金利上昇と為替高による下押し)があり無効で、金融政策のみで需給不足を解消できる」という旧来の経済学の考え方が足かせになったようだ。

3)グローバルな政策の転換

一方、金融政策への過度な依存への反動で、景気回復の促進と格差是正のため、財政拡大を含めた政策を総動員することで合意した2016年のG20、そしてその流れを加速したG7は新たな転換点だったと考えられる。

金融政策・財政政策・構造改革をG7版の三本の矢としてバランスよく用いることを確認し、財政再建が主眼であったこれまでの方針から転換した。

ポピュリズムの蔓延に対する警戒感も、政策転換を後押ししたとみられる。

2010年からの6年間は緊縮財政などによるグローバルな需要不足とデフレ懸念が特徴であったが、これからの5年間は財政政策が緩和気味になれば、グローバルな需要回復とインフレ復活が特徴になるかもしれない。

2017年からグローバルな景気回復が強くなってきていることに、既にその兆候が現れてきているようだ。

この間に、グローバルに金融緩和政策の緩やかな正常化の動きが続いてきた。

しかし、これまでの景気回復力が弱かった局面で束縛となっていたのは不十分な金融緩和政策ではなく、財政政策と企業活動を含めたネットの資金需要の弱さであったため、金融緩和政策の正常化が進行しても、財政政策と企業活動が強くなり、景気回復力は弱くならないばかりか、逆に強くなってきている。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司