シンカー:グローバルな経済とマーケットの大きな潮流を読んでみたい。前編では、1)グローバルな需要不足とデフレ懸念、2)ポピュリズムの蔓延と無力な金融政策、3)グローバルな政策の転換を解説した。後編では、4)インフレの復活、5)生産性がほぼすべてを解説する。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバルな経済とマーケットの大きな潮流を読んでみたい。

4)インフレの復活

今後、ポピュリズムによる政情不安が財政拡大を過多にしたり、金融緩和政策の正常化が遅れれば、グローバルにインフレが問題となるリスクもあろう。

企業の資金需要の回復と財政政策の緩和によりネットの資金需要が大きくなれば、正常化は進行しても中立的な水準より緩和気味な金融政策の効果は強くなり、物価上昇を促進していくことになる。

先進国では、これまでの需要停滞による企業の支出抑制姿勢が、生産性の停滞につながっていた可能性があり、需要拡大後のインフレの進行は予想より早くなるリスクもある。

新興国ではバブル的な資本の短期的拡大、そしてストック調整があったが、資本の質の向上(深化)は遅れているとみられ、生産性の向上が弱ければ、インフレリスクは大きくなる。

一方、緊縮財政に戻れば、景気回復力を削ぎ、ポピュリズムが更に蔓延し、経済問題は、社会問題や地政学問題というより深刻なものにつながるリスクが生まれる。

もともと、金融緩和の強化と財政緩和のコンビネーションで、貧富の格差や中間層の没落を食い止めながらの政策運営がなされていれば、グローバルな景気の停滞とポピュリズムの蔓延という不安定な状態に陥ることはなかったかもしれない。

インフレかポピュリズムの蔓延かという、好ましくない二者択一になることもなかったであろう。

このような背景で、グローバルな物価のトレンドは、デフレからインフレに転換しつつあると考える。

最近までの物価の停滞はまだ過去6年のトレンドが残っていたからで、その停滞は一時的であったと考えられる。

新興国のインフレとそれにともなう金利上昇、そして資本逃避が大きな問題となれば、グローバルな景気・マーケットの新たな不安定要因となるリスクがあることには注意が必要だ。

インフレの復活は、国際商品市況を活性化させ、それがインフレに跳ね返るという形も警戒する必要がある。

5)生産性がほぼすべて

一方、グローバル経済にとって幸運なことは、IoT、AI、ロボティクス、ビッグデータなどの産業革命が進行しつつあることだ。

企業活動が活性化し、産業革命の追い風を受けた投資が生産性を著しく上昇させれば、金融引き締めも緩やかに進めることができ、安定したインフレ化の景気拡大が継続する道が開けるかもしれない。

政策にも後押しされた需要の更なる拡大が、収益の拡大を通して企業の投資活動を後押しし、産業革命との化学反応で生産性が向上するというポジティブなサイクルが継続するのかが注目である。

財政赤字やインフレを恐れて政策が過度に緊縮になれば、需要減退を恐れて企業活動は萎縮し、生産性の向上に失敗するリスクがあるので注意が必要だ。

既に将来の生産性の向上を織り込んでいるとみられる株式市場が崩れ、グローバルに経済と金融市場の混乱が警戒されるようになってしまうかもしれない。

リスクを警戒する意味でも、グローバルに経済政策は緩和傾向で推移するとなれば、インフレが復活していく方向性は確かなようだ。

イデオロギーのような経済政策をめぐる経済学の混乱を経て、生産性がほぼすべてであるという経済学の基礎に立ち戻ったようである。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司