新たな資産運用の形として注目を集めつつある仮想通貨。そしてその代表格であるビットコイン。価格の上下を繰り返しながらその資産価値を高めてきているが、実際の資産運用・投資対象として保有に慎重な層も一定数いる。不動産投資家の多くもその層に含まれている。一方で不動産企業の間では、仮想通貨やブロックチェーンを使ったビジネスを始める動きがある。
仮想通貨の保有意向なし73.9%
東京23区で投資用マンションの販売や中古物件の紹介、賃貸管理などを手掛ける日本財託が2017年12月、顧客の不動産オーナーなどを対象にした意識調査を実施した。そのテーマは、ビットコインなどの仮想通貨や暗号通貨だ。
調査では資産運用やリスクヘッジの観点から、仮想通貨を保有しているかどうかや、今後仮想通貨を保有する意向かどうかなどをアンケート形式で質問した。その結果、アンケートを実施した2017年11月時点で仮想通貨を保有している人は、わずか6.3%にとどまっていることが明らかになった。
アンケート調査ではそのほか、ビットコインなどの仮想通貨を現在保有しておらず、今後も購入・保有する意向がない人が全体の73.9%に上るという結果も出た。つまり、4人中3人は仮想通貨の保有意向がないということだ。
「不安」「わからない」が理由に
アンケート調査では、今後保有することを検討している人は19.9%に上った。ここからは日本財託が発表したアンケート調査にも掲載されている不動産投資家の生の声も紹介しながら、不動産オーナーなどが仮想通貨での資産運用に慎重な理由などを探っていく。
まず仮想通貨を今後も保有するつもりがないと答えた人のコメントを読むと、「不安」「信用できない」「わからない」などがキーワードとしてあがる。具体的には、次のような意見だ。
「仮想という点にどうしても不安がある」「同僚は30万円ロスしたのでやらない方がいいと言っていた」「ビットコインはまだ信用できない」「まだわからない部分があるので手をだしづらい」
意見の中にも登場するこの「わからない」というキーワードについて考える。ビットコインなどの仮想通貨に対する知識は現在、市井ではまだまだ多くの人にとっては不足しているのが現状だ。資産運用を行っていない人ならなおさらだが、不動産オーナーにとっても注目が高まっている仮想通貨についてはまだ理解が進んでいないことが分かる。
メリット・デメリットの比較は?
仮想通貨は、ブロックチェーン技術によって確立された21世紀の新たな通貨形態であると言える。一方その仮想通貨が有する特徴や意義は、単に仮想通貨の価格の値動きに関するニュースなどに触れるだけでは理解することが難しい。
仮想通貨での資産運用を行う前に、メリットとデメリットを両方見比べた上で実際にその土俵にあがるかどうかを検討する必要がある。ただ現在ではまだ、その比較の段階まで実際に能動的に動いている人は少ない。
「もっと身近になり皆がつかうようになれば考えたい」「スタンダードになれば利用する」という意見もあった。不動産投資家の中には「様子見ムード」である人が一定数いることも読み取れる。
では続いて、現在既に仮想通貨を保有している回答者の意見を読んでいく。頻出キーワードは「進化」「バブル」などだ。
積極的な層は最新情報にも敏感
アンケート調査で「現在仮想通貨を保有している」と答えた人の意見では、「仮想通貨のシステムは今後も進化していくと思います」といったものや、通貨自体としての価値ではなく、海外の通貨との両替や新たな送金手段、特典としてのポイント付与などとして活用されていくことを期待する声もあった。
仮想通貨が有する特徴の一つに、送金する際に「国」という枠組みが存在しないことが挙げられる。通常、例えば日本から海外に日本円を送金する際には、送金手数料や外貨取扱い手数料などが必要で、数千円以上を支払うことが必要になってくるほか、送金完了までには数日以上かかることが多い。
日本財託が行ったアンケート調査からにおいては、これらのビットコインなどの仮想通貨が有する特徴について知識がある不動産オーナーは、仮想通貨での資産運用に比較的積極的であることが分かる。実際、保有を検討している人たちは意見として、仮想通貨に関連するキーワードを述べている人が多い。例えば「マイニング(採掘)」や「分裂」や「中国勢」などだ。
現在保有している人と保有を検討している人、一方で保有意向を示していない人がいる。この両方の層の間には、仮想通貨に関する情報リテラシーの大きな差異があると言えるだろう。
運用・投資への仮想通貨活用も消極的
仮想通貨に関する今回の意識調査では、不動産購入や家賃を受け取る際に仮想通貨を利用するかどうかについても質問している。
1つ目の質問が「仮想通貨を不動産の購入に利用できるようになったら、利用したいですか?」というもの。この質問に対しては、「利用したくない」が80.2%と圧倒的に多く、「利用したい」と答えたのは19.8%にとどまった。
「仮想通貨で家賃収入を受け取れるようになったら、利用したいですか?」という質問に対しても、「利用したくない」が84.6%に上り、「利用したい」はわずか16.7%にとどまっている。
その理由として、不動産購入費などのローン返済の観点から安定した家賃収入が得られる方が望ましいと考える意見などが挙げられている。
「無関心」でも「無関係」ではいられない
ここまで不動産オーナーの仮想通貨に対する意識について考えてきた。ビットコインなどの保有や不動産購入、家賃収入の受け取りに対しては慎重派・消極派が多数派であり、まだまだ仮想通貨に対するリテラシーも醸成されていないことが分かった。
一方で不動産業界においても、仮想通貨に例え「無関心」ではあっても、「無関係」ではいられない状況になりつつある。その理由の一つが大手不動産関連企業などの仮想通貨事業などへの参入だ。
この仮想通貨事業への参入の波は不動産業界だけではなく、エンターテイメント業界や旅行業界、メディア業界などでも進みつつある。そして2017年にこのムーブメントは一層加速した。不動産業界でビジネスを行う個人の不動産オーナーなどにとっても、今後は仮想通貨と無縁でいられなくなることは間違いないと言えるだろう。
ここからは、日本の国内企業の仮想通貨事業への参入について紹介していく。
シノケングループは独自仮想通貨の発行決定
投資用不動産販売のシノケングループは2017年12月、不動産オーナーと入居者向けに仮想通貨スマートフォンアプリを開発し、仮想通貨「シノケンコイン」を発行することを決定したと報道発表を行った。
具体的には入居者に対し、家賃や電気代、ガス代などこれまで銀行引き落としなどで対応してきた支払いについて、シノケンコインやビットコインなどの仮想通貨での決済手段も新たに選択肢として提供するというものだ。シノケングループはこの独自の仮想通貨のシノケンコインの利用範囲を、同グループの不動産事業以外でも可能なようにしていくことも検討しているという。
仮想通貨に使われているブロックチェーンという技術について、シノケングループは民泊事業でも早くから導入に向けて着手している。シノケングループは不動産業界の中でも、特に仮想通貨やブロックチェーン分野への参入に積極姿勢をしている企業と言えるだろう。
仮想通貨での支払いに入居者やオーナーがメリットを感じるようになった場合は、従来型の不動産賃貸とは一線を画す差別化要素になりえる。
JITホールディングスは購入費支払いに仮想通貨導入
資産運用コンサルティング事業などを手掛けるJITホールディングスは2017年9月、日本国内・海外の不動産に関わらず、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨で物件を購入できるサービスを始めた。
不動産購入と仮想通貨を組み合わせたこのサービスは、不動産業界においても仮想通貨業界においても大きな注目を浴びた。日本国内で同様のサービスが誕生したのは初めてで、不動産業界にも仮想通貨の波が及んでいることを強く印象づけるニュースだった。
このサービスでは、取引の際に発生する仲介手数料や物件購入の支払い、そのほか費用などについて、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨を利用できる。実際には仮想通貨取引所を通じて仮想通貨で支払いを済ませる形となる。
海外の不動産投資の不動産投資に仮想通貨を利用できるという点も大きい。記事の前半で説明したように、「国」や「国境」の垣根なく、短時間でスムーズに安く資金移動できるからだ。意識調査で仮想通貨を保有していると回答した人の中にも、こういった業界の新たな動きに注目している人が一定数いると言えるだろう。
改善に強いブロックチェーン技術にも注目集める
仮想通貨を不動産事業に導入していこうという動きは、シノケングループやJITホールディングス以外の企業でも既に存在している。
例えば、投資用マンションの販売事業を手掛ける投資用マンションを販売するデュアルタップ(は2017年5月、業界でもいち早く仮想通貨に関する自社事業について報道発表を行った。その内容は、不動産仲介手数料の支払いにビットコイン決済を導入する、というものだった。不動産販売事業でも仮想通貨決済を導入していく方針を示している。
また仮想通貨ではなく、仮想通貨の基幹技術として活用されている「ブロックチェーン」を使った事業に積極姿勢を示している企業も多い。ブロックチェーンは改ざんに強いとされる最新技術で、不動産情報の共有や管理への応用に注目が集まり始めている。LIFULL(本社・東京都千代田区/代表取締役・井上高志)は2017年8月、ブロックチェーン技術を活用した不動産情報の共有に関して、実証実験を開始したと発表している。
不動産業界でも既に「無関係」とはいられなくなっている仮想通貨。不動産オーナーも今後の業界動向に注目していく必要があると言えるだろう。(岡本一道、金融・経済ジャーナリスト)