要旨

介護領域,データベース構築
(画像=PIXTA)

国の医療・介護ICT化に関する取組みに関して、医療分野に続いて介護分野においてもデータベースの構築や活用のための議論が行われている。その背景には、各事業者が提供するサービスによってどの程度の成果が得られているか、どのようなリスクが伴っているか等について科学的に評価し、エビデンスを蓄積することが一層求められるようになってきたことがある。

2017年度は、特に、エビデンスの蓄積に向けて収集すべきケアに関する情報の分類等の、データ収集様式についての議論が行われた。介護領域におけるエビデンスの蓄積、活用に必要なその他の事項については、2018年度に議論される。

本稿では、介護領域における現在のデータベースと、今後、構築を予定されているデータベースの概要について紹介する。

介護領域におけるデータベース構築の議論が開始

国の医療・介護ICT化に関する取組みに関して、医療分野に続いて介護分野においてもデータベースの構築や活用のための議論が行われている1。医療に関するデータベースは世界各地で作成されているが、介護に関するデータベースは珍しい。

介護保険では、介護サービス利用者は、利用者自身の状態と希望に基づいてサービス類型、サービス提供事業者、提供頻度、サービスの具体的内容を選択する。しかし、各サービスを受けたことで、どのような成果が出たかについて、科学的な検証に裏付けられた情報は少なく、現状では利用者の状態に最適なサービスを選択するには十分でない。また、2018年度の介護報酬改定では、リハビリテーション(以下「リハビリ」とする。)によって心身の状態を改善する等の成果を上げた場合に報酬を手厚くするといった、自立に向けた効果的な支援を評価する方針が掲げられている。これらのことから、各事業者が提供するサービスによってどの程度の成果が得られているか、どのようなリスクが伴っているか等について科学的に評価し、エビデンスを蓄積することが一層求められるようになってきた。今後、在宅医療・介護連携を進めるためにも、受けたサービスの詳細や利用者の状態について細かく情報共有する必要があるだろう。

2017年度は、特に、エビデンスの蓄積に向けて収集すべきケアに関する情報の分類等の、データ収集様式についての議論が行われた。介護領域におけるエビデンスの蓄積、活用に必要なその他の事項については、2018年度に議論される。

本稿では、介護領域における現在のデータベースと、今後、構築を予定されているデータベースの概要について紹介する。

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(*1)医療分野のデータベース等については、村松容子「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)の活用状況」基礎研レター、2017年3月8日等参照のこと。
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既存のデータベースでは情報が不十分

現在、介護サービスに関するデータベースとして、介護保険総合データベースがある。介護保険総合データベースは、介護事業者からの介護給付費請求書(2)(介護レセプト)データおよそ5.2億件(2015年10月時点)と、市区町村がもつ要介護認定データ4000万件余り(2016年5月時点)からなる。介護レセプトは2012年度から、要介護認定データは2009年度から収集されているが、要介護認定データは、1579保険者中1362保険者(86%)のデータ(2016年1月時点)しか集積されていない(3)。現在のところ、このデータベースは行政機関しか活用しておらず、医療分野のレセプト情報・特定健診情報データベース(NDB)とは異なり、第三者(大学や研究機関等)に提供された実績はない。

既存の介護保険総合データベースには、介護レセプトで、サービスの種別まではわかるが、ケア内容に関する詳細な情報がないため、どういったケアが自立につながるのか検証できない(図表1)。また、利用者の傷病に関する情報がないため、傷病ごとのサービス提供の違いがわからない。この検証のためには、利用者の心身の状態やケアの内容までをデータ化する必要がある。

介護領域,データベース構築
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(2)介護サービス事業所が、事業所が所在している都道府県の国民健康保険団体連合会(国保連)に提出する、提供したサービスに対する支払請求。 (3)2018年度からデ
ータ提供が義務化される。
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新たに収集される情報

利用者の状態別に自立につながるケアを検証するために、介護保険総合データベースへの介護レセプトと要介護認定データの提出が、2018年度から義務づけられ、要支援・要介護認定を受けたすべての人のデータが収容されるようになる。また、通所・訪問リハビリの質の評価データ収集等事業(「VISIT」と呼ばれる)が、全国100程度の事業所でスタートしており、2017年度中に500事業所にまで拡大する予定だ。VISITには、介護報酬でリハビリテーションマネジメント加算等を算定する場合に提出する記録を使って、通所・訪問リハビリにおいて、解決すべき課題とケアの内容や期間、頻度について収容している。

さらに、新たに利用者の状態やサービスの内容に関する情報のデータ(「CHASE」と呼ばれる)を追加収集することを予定している。CHASEでは、身長や体重(BMI)、栄養素摂取量、咀嚼機能や疾患、服薬、歩行能力など利用者の全般的な身体の状態、食事の提供や食事状況の観察等の栄養面のほか、筋力増強訓練や歩行訓練などの運動面の介入等の情報、「イベント」情報とは、移動回数や転倒回数、行事への参加回数や徘徊の情報などを集積することが検討されている。2020年度から本格運用の予定だ。

これまでは、特別養護老人ホーム入居者等を対象とする個別の調査から、ケアとその効果に対する知見を得てきた。今後は、これらの知見をもとに、新たに構築したデータベースを使って、より詳細な効果検証が進むだろう。たとえば、転倒リスクのある高齢者の早期発見と転倒予防に向けた訓練や、嚥下障害リスクのある高齢者の誤嚥対策などは早々に検証されると思われる(*4)。

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(*4)特別養護老人ホームの場合、自立支援介護によって医療費は、肺炎で532億円、骨折で386億円の削減を見込むことができ、全介護保険利用者の場合、合計8692億円の効果があると試算されていえる(2016年11月「第2回未来投資会議」資料より)。
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おわりに

以上のとおり、高齢化にともない介護費の増大や介護離職が増加する中、国ではビッグデータの活用による効率的な要介護者の自立支援を目指しており、その実現のために介護領域におけるデータベース構築を行っている。2017年度は、これまでの介護レセプトや要介護認定情報、通所・訪問リハビリ記録では足りない情報を集中的に議論し、利用者の状態やサービスの内容に関する情報を新たに取得することになった。

しかし、高齢期の介護は、医療とは異なり、どういった状態を目標とするかを決めるのが難しいと考えられる。また、目標に向けた支援の有効性を検証するための指標も明確ではない。従って、より効果的な自立支援策を見出すためには、今後も取得すべき情報について議論を重ねる必要があると思われる。ウエアラブル端末による身体情報や、介護における各種記録のテキスト情報の分析等にも期待がかかる。

村松容子(むらまつ ようこ)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 准主任研究員

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