住宅の購入を検討した場合、多くの人が不安に思うのは、良い物件を購入できるか、悪い業者にだまされないかといった心配とともに、住宅ローンを必要なだけ組めるかということではないだろうか。

そこで今回は、住宅ローンの仕組みから審査に必要な書類、審査に通りやすくするための方策を特集する。地価の上昇と不動産好況が伝えられる今、自宅購入をお考えの方も多いだろう。

住宅ローンの種類と金融機関による違い

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(画像=PIXTA)

住宅ローンのように土地や建物を担保とするローンは、個人向けの融資では珍しい。しかし担保があるおかげで金融機関は安心して借入れする人の年収の何倍もの融資ができ、低利で長期間に及ぶ返済期間を設定することが可能になる。

そうしたローンの特性上、借入基準や審査も他のローンとは大きく異なっている。そして上手にローンを利用するには、この有担保で長期返済という特色を知り、それに応じたローン選択が必要となる。

住宅ローンの仕組みと概要

有担保融資を具体的に説明すると、購入物件に抵当権という担保の証明を設定し、ローン利用者が返済不能となった場合は、担保物件の所有権が金融機関に移り、債務を帳消しにするシステムだ。

そのため借入審査は、申込人の返済能力を問う人的評価と同時に、対象物件の担保価値も審査される。借入希望額が3,000万円であれば3,000万円の返済が可能かどうか、対象物件に3,000万円以上の価値があるかの2点が審査の柱となるのである。

では上の2点の基準を満たしていれば、誰でも同じ条件での借入れが可能なのだろうか。残念ながらそうではない。ローン利用者の収入に対する返済比率や担保物件の評価額に対する融資比率、金利や返済期間といった諸条件によって、違いが生じる。

一般的に融資比率や返済割合は低い方が優遇され、基準ギリギリの利用者は悪条件での借入・返済を強いられる。例えば現在、多くの銀行は変動金利の基準金利を年2.5%前後としているが、返済能力や担保評価に余裕のある利用者には年1.0%を割り込む優遇金利を提供し、そうでない利用者には基準金利そのままの条件を提示するのだ。

このように個別事情で異なるローンの利用条件は、収入や担保価値の他に年齢や勤務先、利用する金融機関によってもかなり違うので、続いてはその違いを詳しく掘り下げていく。

ローン申込者の個別事情によるローン利用条件の違い

住宅ローンは年齢が若く、堅い勤務先で高収入であるほど借入れは好条件となり、担保価値に余裕があれば更に優遇されるのが一般的である。例として横浜銀行の公式サイトから、ローンの利用条件を抜粋してみよう。

2018年1月4日現在、横浜銀行の基準金利は2.475%である。ローン貸出しの最低基準は年収220万円以上、完済時の年齢が82歳未満とあるが、これに年収400万円以上、完済時の年齢70歳未満、正社員として勤続3年以上などの条件が加わると、途端に金利0.6%(変動金利)と、相当な好条件でのローンが可能となる。

更に勤務先が公務員や上場企業であれば、別の優遇を得られる場合もある。このような年収や勤務先、年齢や勤続年数によってローン条件変わるのは、他の銀行も同様である。

銀行、住宅ローン専門会社、旧住宅金融公庫による違い

住宅ローンは銀行や住宅ローン専門会社などの民間ローンと、フラット35や財形融資といった住宅金融支援機構などよる公的ローン、勤務先の社内融資の3つに分類される。それぞれ貸出金利や審査基準に違いがあるので、どのローンを選択するかによって返済条件も変わってくる。

・銀行ローン
都市銀行や地方銀行などの金融機関による住宅ローンである。金利の基本を変動金利としているのが最大の特徴で、これは国(日本銀行)の金融政策の影響を受ける短期プライムレートに連動しているため、低金利政策が続く現在は、銀行の金利も安い状態が続いてる。

また住宅金融支援機構の調査によると、民間銀行等の変動金利はここ数年、年利2.475%と全く変動していない。しかし銀行のWebサイトやローンのパンフレットを見ると、各銀行の提示する金利はもっと低い。これは各社が顧客獲得のために優遇金利を設けているためで、日銀の金融政策が変われば優遇された金利も上下するので、注意したい。

・住宅ローン専門会社
銀行と違い、預金を扱わない民間会社が銀行などから資金を調達して、住宅ローンを提供するものである。そのため銀行に比べ金利は割高だ。しかしその分審査基準はやや甘くなるため、銀行などの審査に通らなかった場合の手段として活用されている。

・公的ローン
独立行政法人である住宅金融支援機構によるフラット35や財形融資、各地方自治体が扱う自治体融資がこれにあたる。住宅金融支援機構は前身の住宅金融公庫と違って自前の店舗や機関を持たないため、業務のほとんどを民間の金融機関に丸投げしている。

公的ローンの特徴は、基本的に固定金利が採用されている点にある。以前の住宅金融公庫のローンは固定であっても高利なのが難点だったが、フラット35の全期間固定で1.1%のように低金利となったのは嬉しい変化といえる。しかしその分、物件検査、技術基準は大幅に厳しくなり、対象物件が審査基準を満たすためのハードルは逆に高くなっている。

・社内融資
勤務先が行う住宅ローンのことをいう。社内での勤務評定や収入状況によって提供される金利や融資額が異なるローンである。

社内融資は社員という立場を担保とするために購入物件を担保としないケースもあり、審査基準も民間ローンや公的ローンとは大きく異なっている。民間ローンで融資を断られても社内融資なら大丈夫だったという例も少なくないので、制度のある企業に勤務している場合は、物件購入前に担当部署に詳細を確認しておくとよいだろう。

ローンの申込み・ローン審査はどのように行われるのか?

住宅ローンの申込み、審査は基本的に2段階で行われる。最初に事前審査があり、これは購入する不動産の売買契約を締結する前に「ローンが可能かどうか。希望額を借入れできるか」を審査するもので、続いて売買契約締結後に、正式な申込み・審査となる。

ローン申込み・審査の流れ

既に述べたように、ローン審査には購入物件の担保価値を評価する審査と、申込人の返済能力を評価する人的審査がある。これらの審査はどの金融機関でも、事前審査と本審査の両方で行われる。そのため事前審査に通れば、申込書の記載違いや提出書類の不備等がなければ、本申込で融資が否認されることはほとんどない。

つまり事前審査こそが重要で、本審査は事前審査の内容の裏付け作業であると考えてよい。したがって用意する書類や申込みの方法についても、事前審査だからといって疎かにしてはならない。

事前審査

事前審査は本申込の前に行われる審査ではあるが、事前審査の審査内容がそのまま本審査に引き継がれるので、仮審査ではないことをよく認識しておくべきである。

申込の際に提出する書類は全てコピーで構わないが、収入証明書と身分証明書、物件資料の3点が必須だ。収入証明書は勤め人の場合は源泉徴収票、自営や会社経営者の場合は確定申告書の控えと会社決算報告書が必要になる。

身分証明書は運転免許証などの写真付きの証明書が必要で、海外在住者の場合は在住国の領事館などが発行する在留証明書を求められる。

物件資料は購入物件の登記簿謄本や公図、間取図などで、購入先の不動産会社に頼めば全て用意してくれるので、自分で役所に出向いて準備する必要はない。

本審査

本審査では事前審査に提出した書類を全て原本で提出し、購入物件の売買契約書の写しを添えて申込む。金融機関によっては住民票と印鑑証明書を求められ、押印も実印を要求されるケースがあるので、印鑑登録をしていない場合は事前に役所で登録を済ませておいたほうがよい。

ローン審査の内容・申込時の注意点

ここではローン審査の2つの柱、人的評価と担保評価の内容について説明する。その上で審査に通りやすい申込の方法、売買契約とのリンク、双方の注意点などを解説するので、ローン申込の前にしっかり理解するようにしていただきたい。

人的評価の内容

基本的にこれは「返済可能な収入があるか」の審査となる。それを裏付けるために個人情報の信用機関等において、他の借入れが無いか、過去に返済不能などの金融事故を起こしていないかも調査される。

返済可能であるかの基準は、年間の返済額合計が年収の40%以下(返済比率)であるか否かが基本となる。これを超えるとどんなに高収入でも審査に通ることは難しくなるため、収入に見合った借入額、その借入額で購入できる金額の物件を購入対象とすることが、資金計画の第一歩となる。

具体的に資金計画を立ててみよう。安心して返済できるのが月10万円だとする。年間返済額は120万円となるから、それを40%とすると、逆算して年収は300万円以上が必要ということになる。

しかし300万円を12ヵ月で割ると1か月あたり25万円である。その内の10万円を住宅ローン返済に充てるとなると、月の生活費は残りの15万円だ。その額で食費や光熱費等、教育費などを支払うとなると、現実には非常に厳しい台所事情となってしまう。

総務省の調査によると2人以上の家計の消費支出は、2017年11月分の統計で1世帯当たり241,783円(住居等を除く)となっている。この統計をみても月15万円でのやりくりは相当厳しいと言わざるをえないので、ローン最低基準での借入れは、融資可能であっても慎重に検討すべきであるといえる。

なお、こうした事情も踏まえて各銀行では、返済比率が35%以下の借入れに優遇金利を設けているところが多い。返済比率を抑えることは有利な条件での借入れにも繋がる、というわけだ。

担保評価の内容

担保評価は融資率という購入価格に対しての借入額の割合による審査が行われる。一般的に融資率は購入額の80%までとされ、5,000万円の物件ならば、融資されるのは4,000万円までと認識しておきたい。

ただし融資率は収入や年齢等の諸条件によって緩和されるケースがあり、場合によっては価格の100%までの融資が可能になることもある。しかしこのようなフルローン利用者はローン破綻の割合も高く、堅実なローン利用とはいえない。また低い融資率であれば優遇のある銀行も少なくない。

なお、融資率は物件の状況によって購入価格ではなく、金融機関が独自に設定した評価額が基準となることも多い。5,000万円での購入でも評価は4,000万円、融資率80%で3,200万円しかローンが出なかった、といったケースもあるので、購入価格の80%以内だからといって安心だとは言い切れないのが現実である。

審査に通りやすくするには

収入や年齢が同条件でも、審査に落ちる人と通る人がいる。その違いはどこからくるのだろうか。それは申込み時期の違いによるものがほとんどである。同じ会社に勤めていても勤続2年と3年では融資条件が異なってくるため、借入額や返済期間に違いが生じるのだ。

また大学の奨学金返済や携帯電話料金の滞納があると、信用情報機関に登録されてしまうことがあるため、マイナス要因となりやすい。特に携帯電話は機種代金が毎月の支払に組み込まれ、それがローン扱いとなっていることがあるため、それを知らずに滞納してしまうと信用情報に傷が付いてしまうのである。

こうした事情を考慮すれば、住宅購入は勤続3年を経過した後で、他のローンの支払いを全て終えている時期であるのがベストであるといえる。転職と住宅購入を同時に考えているのであれば、住宅購入を先に済ませ、その後ゆっくりと転職活動に入るのが得策だろう。

なお、収入を証明する書類は源泉徴収票だけでなく、最終的には市町村が発行する課税証明書も求められる。その中に記載された収入や納税額が源泉徴収票と異なるようだと、場合によっては融資の否認まであり得る。したがってダブルワークなどで税納付が不確定の場合は、確定申告を行い、税納付の額と収入の額を一致させておくことも事前準備として大切である。

そして違法建築物件や、再建築不可の土地にも融資はされない。そうした物件は格安で売りに出されるが、住宅ローンはまず利用できないので購入対象からは外すべきである。

売買契約との関係

売買契約締結の前の事前審査で、ローン利用の可否は基本的に判別できる。しかしそれはあくまでも内諾であって、本申込の状況によっては、融資額の減額や融資自体の否認もあり得ること認識しておくべきである。

しかし売買契約を締結した後になってローンが利用できないとなると、多くの購入者は売買代金の支払いに窮してしまう。数千万円にも及ぶ不動産の購入代金を現金で支払える人など、ほとんどいないのが実情だからである。

そのため不動産の売買契約書には、ローンが通らない場合に売買契約が解除になる「ローン特約」が付いていることが多い。ところが不動産業者によっては事前審査に通ったから大丈夫だと、ローン特約を契約書から削除してしまうことがある。

それでは万が一の際に対応できなくなってしまう。特約を削除しないまでも記載内容に不備があることも少なくないので、購入契約の締結前には、必ずローン特約の内容を詳しくチェックするようにしたい。その項目は以下の通りである。

・特約の期限に余裕はあるか
ローン審査は通常、2週間から3週間かかる。申込に出向く際の時間的ロスも考慮に入れると、少なくとも1ヵ月は期間の余裕が欲しい。

・申込先・申込金額は適切か
市中銀行といった抽象的な金融機関名だと、裁判で否定されることがある。

・ローンが否認された場合の措置が明記されているか 支払った手付金を返金してもらい、売買契約が完全に白紙解除となることがきちんと記載されているか確認する。

返済開始後の心得

住宅ローンは低利な融資ではある。しかし返済が長期にわたるため、金利負担額は実は少なくない。ここでは20年、30年返済の金利負担額の実例をあげ、繰上げ返済などによる金利負担減少の対応策を紹介する。

返済シミュレーション

金利1.5%、返済期間30年のケースの総返済額を紹介しよう。借入額3,000万円と5,000万円の例でシミュレートするので、いかに総支払額が大きな金額となるのか、まずは実感していただきたい。

・借入額3,000万円の場合
月々返済額10万3,600円 年間返済額124万3,200円 30年間の総返済額3,729万6,000円

・借入額5,000万円の場合
月々返済額17万2,600円 年間返済額207万1,200円 30年間の総返済額6,213万6,000円

3,000万円の借入れだと約730万円、5,000万円なら約1,200万円もの金利を支払うことになる。表向きは低金利であっても、実際には多額の金利負担を強いられるのが住宅ローンなのである。

繰上返済

住宅ローンは長期返済のため、一部でも繰上返済すれば、逆に所得を増やす効果を生む。前述の5,000万円借入れのケースで説明しよう。返済開始後5年が経過した時点で100万円の繰上返済を行い、総支払額の比較をする。

金利1.5%で30年返済の場合、5年後のローン残高は4,314万6,815円となる。そこから繰上額の100万円を差し引き、その後の25年間をまた同条件で計算した。

繰上返済後の借入れ残高 4,214万6,815円 月々返済額16万8,600円 年間返済額202万3,200円 残25年の総返済額5,058万円

5年目までの返済額は1,035万6,000円である。残り25年間の返済額5,058万円と合計し、更に繰上返済額の100万円を加えると、総返済額は6,193万6,000円となる。繰上返済をしない場合は6,213万6,000円であるから、差額は19万円となる。

この違いは些少かもしれない。しかし1度の繰上返済で19万円の差額が生じるのであれば、2度3度と繰り返せば、その差は更に大きくなる。

繰上返済の効果は総返済額の減少だけではない。100万円の繰上返済以降の毎月の返済額は16万8,600円である。繰上前は17万2,600円であったから、その差額は月4,000円、年間で4万8,000円となる。5年間だと24万円の違いが生じる。

その24万円を貯蓄しておき、再び繰上返済に充てたらどうなるだろうか。そして、2度目の繰上返済による差額をそのまた5年後に繰上返済したとしたら、最初の100万円の繰上返済は、非常に大きな違いを生むことになる。

住宅ローンは長期間の返済であるため、いくら低金利であっても総返済額までは抑えてくれない。しかし少額ずつでも繰上返済を行って元本を減らしていけば、トータルの返済額を減らすことが可能なのである。

上手な住宅ローン利用とは

では上手に完済するためにはどのローンを選び、どう返済していくのがベストなのだろうか。最後にそのための方策を解説する。

住宅ローンを有利に利用するには、金利を抑え、返済期間を短くすることが重要である。しかし返済当初から期間を短期とする設定は感心しない。住宅ローンは期間の最初に集中して金利を支払うシステムとなっているため、返済当初は金利を払うばかりで、元本はなかなか減らないからだ。

金利の返済を最小に抑えるには、できるだけ低金利のローンを、最長期間組むのがベストである。そうすれば毎月の返済額が最少となるため、金利の支払いも最低額となる。

しかしそのまま最後まで完済してしまうと、結局は大きな金利を支払う羽目になる。そこで繰上返済である。毎月の返済を最少額にして預貯金を積み上げ、まとまった金額となったところで繰上返済で元本を減らしていくのだ。

その効果は既に述べた通りである。収入や資金計画に余裕があり、繰上返済を想定できる人はこうした方式がベストといえる。そのためには最も金利の安い民間の変動金利を選び、最長期間の返済設定とすべきである。

逆に収入等に余裕がなく、繰上返済を考えられない場合は、金利を抑えるために固定金利の選択がよい。固定金利はフラット35などが最安である。そして繰上返済を前提としないため、返済期間はなるべく短くするのが有利だ。

このように住宅ローンというのは、返済面から考えて商品を選ぶのが上手な利用法だ。購入したい物件が決まったら、銀行各行のWebサイトに返済シミュレーションのページがあるので、試算してみるといいだろう。返済期間と金利を変え、繰上返済の結果を比較していけば、自身の収入や資金計画に見合ったローンはどれなのか、すぐに見当がつくはずだ。(近松健司、不動産業界経験豊富なライター)