朝食&昼食の摂り方次第で、仕事のパフォーマンスが劇的に変わる!
40歳前後になると出てくる「疲れがなかなか取れない」「若い頃のように働けない」という悩み。この年代、そんな「疲労」の悩みとともに出てくるのが、「胃腸」に関する悩みだろう。第3回のテーマは「食事」。医師であり、コンサルタントとしても活躍する裴英洙氏に、仕事のパフォーマンスを下げない効果的な食事法についてうかがった。
働く人の現実に即した健康な食生活とは?
40代ビジネスマンが身体をケアし、かつ仕事のパフォーマンスを落とさずに日々を乗り切る方法を解説する本連載。今回のテーマ「食事」に関しても、40代ならではの変化を踏まえた戦略が必要です。
その変化には、2つの側面があります。
1つは環境面。役職に就き、重責を担うようになる40代は、食事の「自由度」は否応なく下がります。若い頃は「好きなときに、好きなものを、食べたい相手と」食べることが可能でしたが、管理職ともなれば、顧客や取引先との会食の機会も増えてくるでしょう。空腹でなくとも食べなくてはいけない場面もありますし、メニューも相手に合わせなくてはなりません。当然、体調コントロールには注意が必要となります。
ところが、そこに追い打ちをかけるのが第2の側面──内臓の力の低下です。筋肉やお肌同様、40代は内臓の曲がり角でもあります。若い頃に比べると胃や腸の動きが低下して、胃もたれや便秘などの消化器系の悩みを持つ人が増えてきます。
では、この状況を解決する方法とはなんでしょうか。ここで多くの医師や栄養士が説くのは、「毎日決まった時間に規則正しく食事を摂る」「バランスの取れたメニューを心がける」といった、食生活の改善。しかしそれを実行するのは、第1の側面である「環境面」を考えると、働き盛りのビジネスマンには少々難しいでしょう。世の一般的なアドバイスは、得てして働く人の現実に即していないもの。頭では理解していても、実際の日常生活ではできないことが多いのが世の常です。
また、健康的な食生活にこだわりすぎて、「してはいけないこと」を厳密に守りすぎるのも、ある意味問題です。たとえば、揚げ物やファストフードが好きな人が、それらすべてをNGとされ我慢を強いられると、ストレスが蓄積し、我慢できなくなって過食をしたり、ジャンクフードや甘いものを食べすぎて、逆に体調を急激に乱すことにもなりかねません。
そこで私がお勧めしたいのは、ビジネスマンの「環境」と「内臓」の働きを加味した“ほどほどの”食生活。栄養学的には必ずしも「満点」とはいえなくとも、仕事のパフォーマンスを維持し、ストレスも最小限に抑えられます。
「3日単位」で栄養バランスを取ろう
まず、「消化力・吸収力の低下」の対策を考えましょう。
食物には、消化吸収の良いものと悪いものがあります。一方で、栄養価が高いか低いか、という尺度もあります。残念なことに、「栄養価が高くて消化吸収の良い食品」は多くないのが現実です。ですから、双方をまんべんなく食べることでバランスを保つのが最善の策です。
そのコツは、食生活を数日単位で考えること。1食1食のバランスを考えるのではなく、3日~1週間単位というように時間軸を延ばして調整するのです。
ある夜に会食でフレンチを食べる予定ならその日のランチは軽め、または翌日の夕食はうどんのみにする、揚げ物をたらふく食べた翌日は野菜を意識的に摂るなどと、時間軸を延ばして工夫するのが有効です。
腸粘膜は再生能力が高いので、少し休ませれば復調します。“働いて休んで、働いて休んで”のリズムです。「内臓に負担をかけるようなものを毎日食べ続けない」ことだけ気をつければ、まずは合格でしょう。
逆に、連続して胃腸に負担をかけ続けると生活習慣病リスクが上昇します。高血圧や糖尿病、高脂血症などにかかってしまうと、事は厄介。通院や生活指導、服薬などで時間を取られるうえ、高血圧に伴う頭痛やめまい、薬の副作用として起こる食欲減退などにも悩まされてストレスも甚大、仕事のパフォーマンスも低下するでしょう。
朝食と昼食の戦略的な摂り方とは?
40代以降のビジネスマンが、数日単位で食事のバランスを取る際は、比較的自由度の高い「朝食と昼食」の摂り方がキーポイントとなってきます。
忙しいビジネスマンは朝食を抜く人も多いかもしれませんが、朝食抜きはお勧めできません。なぜなら前述のとおり、40代は腸の動きが鈍くなるせいで便秘になりやすく、意識的に腸を動かす必要があるからです。
人間の身体は、食物を入れると胃腸が動き出す「胃結腸反射」という性質を持っています。朝はとくにこの反射が活発なので、朝、野菜ジュース1杯、ヨーグルト1皿であっても、何か食べれば腸の蠕動(ぜんどう)が促され、排便しやすくなるのです。
ちなみに便秘は、水分を意識的に摂ることでかなり改善します。私は毎朝、ぬるま湯を1杯飲むことを習慣づけていますが、これも「快便」に効果的。朝の貴重な時間でも、ただのお湯で準備に手間がかからないので、快便ルーティンとして取り入れています。
では、昼食の心得はなんでしょうか。それは、午後のパフォーマンスを落とさないこと。昼休みは午後に備えた投資の時間と捉える視点が重要です。より端的にいえば、“眠くならないランチ”が大事、ということです。
午後の眠気に悩まされたことのない人は少ないでしょう。これは睡眠を司る体内時計のサイクルをはじめ、さまざまな要因が絡んで起こりますが、その一つはホルモン。食事を摂ると、脳を目覚めさせる「オレキシン」というホルモンの分泌量が下がります。つまり、食事をして血糖値が高くなると、オレキシンの分泌が低下し、眠気が襲ってくるのです。
ランチに早食いやドカ食いをしてしまうと、血糖値が急激に上昇し、さらによくありません。最近の研究では、「決まった時間に食事をし、よく噛んで食べる」という食習慣が、オレキシンの分泌を整え、それに伴い血糖値の上昇を抑えることがわかってきました。覚醒状態を続けるためには、血糖値の上昇をできるだけ緩やかにする。つまり、よく噛んでゆっくり食べることが大切なのです。
そこで大切なポイントは、ランチの店と席を賢く選定することです。その条件は3つ。「隣
のテーブルと距離がある店」「椅子の座面が広い店」「入り口が見えない席」を選ぶのが得策です。これなら、リラックスしてゆっくりと食べることができるからです。
混雑したカウンター席や立ち食いソバの店などで、周囲が常にせわしなかったり、座り心地・居心地が悪かったり、入り口付近に次の客が待っているのが見えたりすると、「さっさと出よう!」という意識が働いて、早食い・ドカ食いにつながってしまうのです。
最後に、これらの工夫を長続きさせるコツとして「週に1回のご褒美ごはん」をお勧めします。環境的にも健康上も、何かと制限の多い食生活を送る40代。そのストレスをリセットするためにも、週に1回くらいは好きなものを、好きなように食べましょう。こうした「心のピットイン」も、長く健康に働き続けるためには不可欠なのです。
裴 英洙(はい・えいしゅ)ハイズ〔株〕代表取締役社長/医師/医学博士/MBA
1972年、奈良県生まれ。金沢大学医学部卒業後、金沢大学第一外科に勤務。医師として働きながら、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應ビジネス・スクール)を首席修了。ビジネス・スクール在学中に、医療機関再生コンサルティング会社を設立。現在も医師として臨床業務をしつつ、医療機関経営に関するアドバイスを行なう。著書に、『一流の睡眠「MBA×コンサルタント」の医師が教える快眠戦略』(ダイヤモンド社)など。(取材・構成:林加愛 写真撮影:まるやゆういち)(『The 21 online』2017年6月号より)
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