世界の株式市場が活況に沸く中、中国本土市場は出遅れが目立つ。

2016年最終取引日と2017年1月12日の終値を比べると、ハンセン指数の上昇率は42.8%に達しており、NYダウ指数は30.6%、TOPIXは23.5%である。一方、上海総合指数は10.5%に留まっている。2015年最終取引日と2017年1月12日の終値を比べてみると、NYダウ指数は48.1%、ハンセン指数は43.3%、TOPIXは21.3%であるのに対して、上海総合指数は▲3.1%である。

各国の株式市場を単独で見てしまうと、足元の業績が良いとか、政策により今後の業績見通しが良いとか、ファンダメンタルズの影響を意識しがちである。しかし、経済成長率、企業業績について各国を比較した場合、中国が劣るわけではない。経済成長率などはアメリカ、日本を大きく超えている。また、香港市場の主要銘柄は中国関連となって久しい。ファンダメンタルズでこうした株価上昇率の差を説明することは難しい。やはり、需給要因の差が大きいとみるべきであろう。

株価上昇、過剰流動性が主要因

世界経済
(画像=PIXTA)

アメリカでは2015年12月、9年半ぶりの政策金利引き上げを行い、2008年末から続いたゼロ金利政策を解除した。その1年後となる2016年12月に1回、2017年は3回、それぞれ利上げを行った。金融システムの正常化が着実に進んでいるが、利上げ幅は小さく、その速度は緩やかである。アメリカ国内の資金流動性は十分余裕があった。

欧州中央銀行は2015年1月からから量的緩和政策を導入、2017年4月、2018年1月にはその規模を縮小させたとはいえ、依然として世界に流動性を供給し続けている。また、日本は2013年4月、異次元緩和政策を導入、欧州以上に世界の流動性供給に貢献している。全体としてみれば、世界の資金流動性は高く、アメリカを含め世界中で資金が循環することで、先進国の株価は大きく上昇した。

一方、金融市場が依然として閉鎖的である中国は特殊である。そもそも、中国の金融政策はどうなっているのだろうか?

2017年の金融政策は既に緩和から中立、或いは引き締め気味へと転換している。銀行間市場金利をみると、2016年11月あたりから上昇し始めている。2017年3月に行われた全人代では、2017年の経済運営方針として、社会経済の安定確保を大局としている。「不良債権の増加、債券のデフォルト、当局の管理の網を潜り抜けたシャドーバンキングや無秩序なインターネット金融の拡大など、金融リスクの累積を警戒、金融監督管理体制改革を推し進め、突出したリスクを秩序立てて解消・処理し、金融秩序を整理・規範化し、堅牢な金融リスクの防火壁を作る」としている。

2017年12月に開催された中央経済工作会議では2018年の経済運営方針のほかに、2020年までの経済運営計画が示された。「重大なリスクの解消、貧困からの脱却を正しく進めること、環境汚染防止といった3つの課題があり、それらを解決することが急務である」としている。

重大なリスクの解消については、「金融リスクを防ぎ、コントロールする。金融サービスは供給側構造性改革のサポートをメインの役割とする。金融と実体経済、金融と不動産、金融体系内部において、良好な資金循環の形成を促進する。重点領域のリスク防止、処理をしっかりと行い、違法な金融活動を断固として打ち砕き、弱い部分の監督管理制度構築を強化する」などと説明している。

中国銀行業監督管理員会は1月13日、「さらに一歩進んで深く銀行業界、市場の乱れを整理し、正すための通知」を発表した。この通知では、「マクロコントロール政策に対する違反行為の取り締まり強化、シャドーバンキングや業界を跨いだ金融商品リスクの縮小などが2018年の監督管理業務の中心になる」と説明している。

中国の金融政策は資金流動性をややひっ迫させると同時に、投機に繋がるような行為を厳しく管理しようとしている。株式市場にとっては厳しい環境にあることは間違いだろう。

人民日報、米株下落リスクを懸念

金融リスクを強く意識する中国は、アメリカの株価上昇をどのように評価しているのだろうか?

中国の政府系メディアである人民日報が1月11日付で「美股 火爆背後有風険(アメリカ株 暴騰の背後にあるリスク)」と題して、中国社会科学院世界経済政治研究所の研究員(匿名)による小論文を掲載している。今後、アメリカの株価指数が20%前後下落する可能性もあると警告している。

その要因として、次の3点を挙げている。

1.市場平均PERが高い。今年初めのCAPE(ノーベル経済学賞受賞者であるシラー教授が考案した指数で、過去10年間の物価変動を調整したPER、Cyclically Adjusted Price Earnings Ratio)は33.38倍に達しており、これは2001年のITバブル崩壊前の最高水準に次ぐ値であり、1929年世界恐慌前のバブル時期の水準を超えている。

2.アメリカ経済について、今回の景気回復サイクルは既に後半に差し掛かっている可能性があり今後、景気回復速度が更に高まるといった可能性は低い。足元では、消費が景気を支えているが、それは株高による資産効果と密接な関係がある。一旦株価が下落すると、アメリカ経済は、はっきりとした減速感が出てくるであろう。

3.アメリカ経済の成長速度は潜在成長率を超えている。供給力の不足は物価上昇を招く可能性がある。一旦コアCPIが上昇すれば、FRBは金融引き締めを加速するだろう。流動性のひっ迫、金利の上昇が株価に悪影響を与えるだろう。

景気の回復が永遠に続くことはない。上がり続ける株など存在しない。今年心配すべきは中国経済のハードランディングではなく、アメリカ経済、株式市場の変調である。

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP:http://china-research.co.jp/