“徳島のシリコンバレー”として脚光を浴びる四国の山あいにある徳島県神山町。町全体に光ファイバーが敷かれている過疎の町に、次々とIT企業が集まるニュースは全国的に注目を集めました。いまなお、全国からIT企業やクリエイター、若手アーティストが集まる神山町には、移住者が地元住民と共に町の新たな未来を描こうとする動きが活発になっています。そのなかで話題となっている「しずくプロジェクト」には町をこよなく愛し、町を守っていきたいという住民たちの熱い想いがありました。

“徳島のシリコンバレー”神山町

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(写真=PIXTA)

過疎化が急激に進む徳島は、県として移住促進を進めてきました。なかでも神山町はベンチャーIT企業を中心にサテライトオフィスがいくつも誕生し、古民家への移住者も増加するなど、その成功例として全国に知られています。

神山町に次々と企業がやって来たのには、IT企業の運営で欠かせないブロードバンドが町中に張り巡らされていたことが大きく影響しています。アナログテレビ放送時代、視聴困難地域を解決するために光ファイバーを導入したことでケーブルテレビとインターネットの高速通信が町のすみずみまで一気に普及しました。

光ケーブルによるブロードバンド、そして田舎で暮らしたいという都会の若者たちのニーズがうまくマッチして、“徳島のシリコンバレー”と言われるほど、いまなおIT企業が進出し続けているのです。

神山町が移住促進に成功した背景

神山町の移住者が増えた理由に、NPO法人グリーンバレーによる町の移住支援が挙げられます。地域づくりの活動を積極的に広げているNPOによって、海外からアーティストを呼んで課外授業を行う「アーティスト・イン・レジデンス」のように住民交流の機会を生み出し続けていることが特徴です。行政主導ではなく民間に移住促進を任せたことで、多彩なチャレンジが生まれました。

古くから住む地域住民と移住者との交流も草の根レベルで広がっていきます。レストランやカフェ、商店街に人が集まるようになり、日々の暮らしや仕事を通して次第に町全体が打ち解け合っていきました。やがて、移住者の側から中山間地域である神山町の抱える問題を何とかできないかという声が上がるようになりました。

「しずくプロジェクト」とは?

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(写真=PIXTA)

山が持つ保水力をもう一度取り戻し水源を守りたい。そのためには杉の人工林をかつてのように活用し、木工製品や薪として利用する取り組みが必要でした。

過疎化による人手不足で森林の管理が難しくなった神山町では、川の水量が30年前の約3割に減っています。管理の行き届かない人工林を放置していると太陽光が地面に届かず、土を固くして雨が降っても地面に染みこまないまま流れてしまいます。

そこで生まれたのが「しずくプロジェクト」です。神山町へ移住したあるデザイナーのアイデアが始まりでした。町の大半を占める森林のほとんどは植林で生まれた杉の人工林。林業の衰退や過疎・高齢化によって山の管理ができなくなっていることを知ります。このままでは森が育む大切な水源を守れないばかりか、土砂崩れや洪水など災害のリスクも高まります。こうした事態に対して、デザイナーの視点から町に貢献したい。それが「しずくプロジェクト」の始まりです。

手づくりの木の器は徳島から世界へ

まず、徳島でいまなお活躍する熟年の木工職人にお願いし、間伐材を現代的なデザインで作り出す取り組みが始まりました。杉は柔らかい木材で、熟練の加工技術が求められます。時間も手間も掛かる手作業で作られた木の器は、コップ1個で1万円を超す高額な商品です。

そこで町内のIT関連企業が手づくりならではの職人の技を巧みに伝えるため情報発信を進めたことで、全国から注文が増え続け2015年9月にはミラノ万博にも出展するほどまで知名度が上がりました。

熟練の職人技を後世に

「しずくプロジェクト」の取り組みのおかげで、木の器づくりにあこがれる若者も増えました。町内に新たに開設された木工工房では、貴重な職人の技術を教わりながら木工職人を目指す若者の姿が神山町の未来を明るく照らしています。

水源を守りたいという想いから始まった「しずくプロジェクト」。森を守り、伝統技術を残し、若者の夢をふくらませる新たな活動として今後も注目されるでしょう。(提供:JIMOTOZINE)