「slurp」をご存知だろうか。食事の際に「音を立てて食べる」「すする」という意味の英語だ。例文などでは「ズルズル」と訳されることもあるが、欧米では幼い頃から音を立てて食事をするのはマナーに反することだと教え込まれるという。

最近は都内のラーメン店でも欧米からと見られる観光客が、静かにおしとやかに食べている姿を見かけることがあるが、正直美味しそうには見えない。筆者としては思いっきり「ズズッと」音を立ててすすったほうが、麺やスープの香りが一層引き立つように感じられるのだ。

そうした中、世界中の人々にラーメンの「ズズッと」すする楽しみを伝えるべく取り組んでいるのが、一風堂を運営する力の源ホールディングス(HD) <3561> である。今回は東証マザーズ市場で人気銘柄の一つでもある同社の魅力に迫ってみよう。

「ラーメンおたく」の筆者も我を忘れる衝撃

力の源,株価
(画像=プレスリリースより)

筆者は自他ともに認める「ラーメンおたく」だ。もう30年近く前になるだろうか。プロ野球観戦の帰りに千駄ヶ谷の「ホープ軒」で出会った背脂こってりスープの味は感動的な旨さだった。その後、恵比寿の「香月」であっさり醤油にはまり、三田の「ラーメン二郎」で大盛りの洗礼をうけた。そして、忘れもしない1995年、運命的な出会いとなったのが行列の絶えない店「一風堂」だった。ここで博多豚骨ラーメンを初めて味わったのであるが、気が付いたら「替え玉」を2回お代わりし、スープが足りなくなって3回目を断念したものだ。いまなら替え玉とスープの配分を考えながら冷静に対応できるのであるが、初めて食べた当時は我を忘れてしまうほどの衝撃だった。

それはさておき、たとえ有名店でもチェーン店化すると味やサービスなどの評判を落とすケースが珍しくないのであるが、一風堂は国内店舗が80店を上回っても相変わらず旨い。本稿を執筆する前にも一風堂で一杯いただいたのであるが「運命的な出会い」のときと変わらぬ美味しさなのだ。

ちなみに、ラーメン店で上場している企業といえば幸楽苑ホールディングス <7554> 、日高屋を運営するハイデイ日高 <7611> 、丸源ラーメンの物語コーポレーション <3097> 、ラーメン山岡家の丸千代山岡家 <3399> などがある。好みは人それぞれであるが、筆者はそれらと比較して「一風堂」の味は別格であるように感じられる。

昨年3月のIPOで話題に、公開価格から7倍以上

力の源HDが東証マザーズ市場にIPOしたのは2017年3月のこと。東証マザーズ市場といえば、ITやバイオなど時代の最先端技術の研究・開発等に携わる企業が人気化しやすい傾向にある。そうした状況で、筆者はラーメン屋の同社がどのような初値を付けるか注目していた。結果は公開価格300円(1対2の分割調整後)の3.7倍となる1115円の初値を付けたのだ。その後も力の源HD株の人気は加速し、1827円まで急騰。現在の株価は公開価格から7倍以上、初値で買っていたとしても約2倍になっている計算だ。

ちなみに、力の源HDの2018年3月期の売上は9.0%増の245億円、本業の利益を示す営業利益は51.0%増の9億2000万円といずれも過去最高益を更新する見通しだ。国内の既存店は伸び悩んでいるが、原価や人件費のコストコントロールが奏功した。加えて海外では特に欧州が好調で売上、利益とも期初計画を上回っているという。力の源HDは海外展開に積極的なラーメン屋でもあるのだ。

「ヌーハラ批判」に負けるな! 「ズズッと」文化を世界へ

力の源HDは2017年9月末時点で欧州に4店、米国に7店、アジアに56店、オセアニアに4店を出店しており海外店は71店舗に達している。国内では一風堂以外のブランドを含め136店舗あるが、海外のウェイトも着実に高まっている。中間期時点のセグメント別売上では、国内売上が4.0%増の75億円なのに対し、海外の売上は19.4%増の27億円と国内の伸びをはるかに凌いでいるのだ。力の源HDの海外戦略は、他の上場ラーメン会社には見られないほど積極的といえる。

ところで、近年はネット上で「ヌードルハラスメント(ヌーハラ)」なる言葉が生まれている。ラーメンなどを音を立ててすする行為が、外国人など周囲に不快感を与えるとして批判する意味合いを込めた和製英語らしい。筆者としては、何ともやりきれない気持ちだ。

そうした状況の中、力の源HDはWebサイトで「2008年のNY進出を皮切りに、 一風堂は世界各国へ積極的に展開しております」「これからも日本の豊かな食文化や、 麺を“Zuzutto”すする楽しみを、世界中の人々へ伝えてまいります」とのメッセージを示している。ラーメンをこよなく愛する一人の人間として、同社の心意気に敬意を表したい。美味しいラーメンとともに「ズズッと」文化を世界に発信する力の源HDの取り組みを、今後も見守り続けていきたい。(ZUU online 編集部)