世界中でアップル関連銘柄が急落している。それは、日本、台湾、韓国、香港市場に限らず、本土市場でも同様である。

本土にはアップル関連と称される銘柄が50程度上場しているが、11月以降、はっきりとした下落トレンドが形成されている。同花順では、関連の50銘柄で構成されるアップル関連指数といったセクター指数を算出しているが、その値動きをみると、昨年11月13日の終値は2906.99ポイントであったが1月30日には2352.92ポイントまで下落、この間の下落率は19.1%に達している。一方、同じ時期の上海総合指数は1.2%上昇しており、アップル関連銘柄の下落は際立っている。

その最大の要因はiPhone Xの販売不振である。

iPhone Xは失敗作?

iPhoneX
(画像=Drop of Light / Shutterstock.com)

今回のアップル新製品は発売前からいろいろな問題を抱えており、異例なことが沢山あった。まず、新製品はiPhone Xだけではなく、iPhone 8、iPhone 8Plusの3製品であった。また、それぞれ発売日が異なり、前者は10月27日予約受付開始、11月3日発売、後者は9月15日予約受付開始、9月22日発売となった。

iPhone Xはアップルとしては初めて有機ELを使用した。また、指紋認証ではなく、3D技術を利用した顔認証を採用した。技術的な変更点が多かったこと、有機ELなどの主要部品につて供給が追い付かなかったことなどから、通常なら毎年9月である新製品の発売日を1か月以上伸ばした上で、前年の新製品であるiPhone 7、 iPhone 7Plusとスペックがほとんど同じiPhone 8、iPhone 8Plusも今回の新製品として売り出すことになった。

iPhone Xは発売当初は強烈な品薄状態となったが、それは数週間で解消、12月の時点で既に、販売が伸び悩んでいることが判明した。本土マスコミが報じたところによると、アップルは2018年第1四半期の販売台数見通しを引き下げ、これまで5000万台を発注していたが、それを4割減らし3000万台に落としたようだと報じている。

また、iPhone Xの組み立てを一手に請け負う鴻海科技集団傘下企業の本土鄭州工場は、12月9日の時点では、求人活動を行っていたが、その後ストップしている。新製品発売後は求人募集活動がしばらく続くのが恒例だが、12月25日には全面的に求人をストップしたと同社は正式に発表している。

さらに、アップルはTSMC(台湾の世界最大の半導体ファンドリー)に対して、iPhone Xに搭載されるA11プロセッサーの発注を大幅に減らし、2018年第1四半期におけるA11プロセッサーの投入量は2017第4四半期よりも30%減らすと報じている。

1月21日のアメリカ「フォーブス」では、「iPhone Xは販売不振で生産量が減少しており、アップルは製造を2018年夏に終了するだろう」といったKGI証券の郭明池アナリストの分析レポートを紹介している。

iPhone Xの最大の欠点は、上部に3次元センサーなどが格納された切り欠きがあることである。世界最大のスマホ市場を誇る中国では、ディスプレイ部分の形状が齋劉海(前髪を垂らした髪型)だと揶揄する声が多い。ただ、カッコ悪いというだけではなく、横倒しで映像を見た場合、前髪(切り欠き)部分がスクリーンから切り取られてしまい、反対側と非対称となってしまう。せっかくのきれいな映像も、これでは台無しである。これなら、iPhone8Plusの方が良いと考えるユーザーも多い。また、価格が高すぎる、せっかく3Dセンサーを使っていながらAR、VRなどの用途開発が遅れているといった点を指摘する声もある。

アップルは、収益重視、技術重視に走り、顧客ニーズをしっかりとつかみ切れていないのではなかろうか?

アップルはiPhone Xの生産停止を発表したわけではない。会社側の説明を聞きたいところである。アップルの収益構造は単純で、iPhoneの新製品が収益の柱となっている。2月1日に予定されているアップルの決算発表の内容次第では、下方修正が相次ぐ可能性もありそうだ。

スマホメーカー、中国勢が台頭

iPhone Xが部品メーカーに与える影響は確かに大きい。しかし、部品メーカーの納入先は、アップル1社ではない。台湾Trend Force社が昨年11月9日に発表したデータによれば、2017年7-9月期の世界のスマホ生産台数は6%増だが、中国ブランドは20%増であった。台数シェアはサムスン電子、アップル、華為、OPPO、VIVO、小米の順である。3位以下は中国ブランドであり、アップルのシェアは第2位に過ぎない。iPhone Xが売れない分、競合他社の販売量が増えるのであれば、本土の部品メーカーにとってはアップル減産の影響はその分相殺される。

スマホ全体で見れば需要の拡大は、今後も続くとみられる。5G、AI、LEDなどに関する技術はこれから大きく発展する余地がある。また、スマホによる決済が急拡大中であり、ショッピング、ホテル予約、タクシー予約をはじめいろいろな用途開発が急速に進んでいる。もう少し短期的で見れば、2018年4-6月期には各社の新製品発売が相次ぐ見通しである。アップル関連銘柄の下落は最終局面に入っている。ここからの下げは買場だとみている。

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP:http://china-research.co.jp/