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(画像=髙橋明宏)

みずほ銀行とソフトバンクの共同出資により、2016年11月に設立されたのが「株式会社J.Score」だ。2017年9月25日には「日本初」となるAIスコア・レンディングサービスをローンチした。個人向けの融資サービスである。

従来の個人向け融資との最大の違いは、ビッグデータとAI技術を駆使して個人の「信用力」とその人の将来の「可能性」をスコア化し、それぞれの顧客に見合った条件でレンディングを行うことだ。この新しい金融サービスの特色や開発の背景、日本社会と金融業界に与えるインパクトについて、株式会社J.Scoreの代表取締役社長CEO 大森隆一郎氏に聞いた。(インタビューは2017年12月13日に行われました)

若い人たちの「未来への投資」を応援したい

──どのようなコンセプトの元に開発されたのでしょうか。

当社J.Scoreは、「より自分を高めたいという気持ちをもったすべての人が、安心して挑戦できる新しい日本をつくる」というビジョンを掲げています。

「夢をかなえるために留学したいけれども、資金がない」「キャリアアップのために資格を取りたいが、手持ちのお金では足りない」という人生やキャリア上の課題を抱える方、特に20代・30代の若い方々の「挑戦したい気持ち」や「未来への投資」を、最新のテクノロジーを駆使したFinTechサービスでサポートしたいと考えました。

例えばアメリカなどでは、思い描く将来のキャリアパスのためにまずは融資を受け、希望の大学へ行き、学位や資格を取りにいくことが一般的です。それによって卒業後、就職した際により高い収入を得られるようになり、その一部を返済にあてるという考え方なんですね。

日本でも、若者が何かに挑戦したい、夢を持ってそれをかなえたいと思った時に、お金を必要とする場面は多いと思います。でも、たいていは「地道にお金を貯めてからにしなさい」と、しばらく我慢の期間を強いられるような風潮があります。つまり、日本では借入に対してネガティブな考え方が強いと感じていました。

そういう状況に対して、「お金を借りて、未来に向けた投資をする」「時間をお金で買う」という、新しい前向きな選択肢を提示したいという思いがありました。若い方々の挑戦したい気持ちを、お金の問題だけでしおれさせてしまうのは、非常に残念なことです。そのような前向きなチャレンジを支援することが、今後の日本の活力を高めるためにも必要だと考えています。

──「AIスコア・レンディング」サービスの特色、これまでの個人向けサービスに比べて新しいのはどのような点でしょうか。

まず一番は、サービス名称の一部でもあるように、ビッグデータ・AI技術を活用して「スコア」を算出している点でしょう。このスコアが高い人は、より良い条件(融資額、金利)で融資を受けることができます。

そしてスコアに「将来年収」という概念を持ち込んだことが、これまでと大きく違う点です。

従来の個人向け融資では、主に「現在の収入」をもとに信用力を審査して、融資の条件を決めています。それに対してJ.Scoreでは、その時点での信用力に加えて、その人の将来の収入を予測して、その可能性をスコアに組み入れているのです。

では、どのように将来の収入、その人の「未来の可能性」を測るのか。J.Scoreでは、スコアを算出するために、個人のお客さまにチャット形式でさまざまな質問をしていきます。

その際、現在の年収や勤続年数、住宅の形態などのような従来の融資サービスでも聞いていた情報に加えて、これまでの審査では聞かなかったような「趣味」「性格」「普段の生活における行動パターン」や「お金に対する考え方」などパーソナルな質問を聞いていきます。

これらの質問への回答は任意で、答えなくてもスコアは出るのですが、より多く答えるほど、スコアアップするようになっています。そうして回答いただいた情報を元に、「こういう趣味の人は堅実に生活する傾向がある」とか、「こういう性格の人は着実に年収が上がっていく」というような相関を解析して、スコアに反映していくのです。

「将来年収」という概念を持ち込んだことには、理由があります。これは日本だけでなく、レンディングビジネスが進んでいるアメリカでもそうなのですが、若い人は、現在年収が比較的少なかったり、勤続年数も短かったりすることから、どうしても融資を受けにくい状況があります。

でも、J.Scoreのレンディングは、そうであってはならない。なぜなら、夢に向かって挑戦したい、自分を高めたいと考える「若い人たちの可能性をスコア化して未来への投資」をサポートしたいと考えているからです。

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(画像=髙橋明宏)

自ら希望してリテールの世界へ

──「AIスコア・レンディング」サービスの開発に至った背景についてお教えください。

もともと、みずほ銀行はソフトバンクのメインバンクということもあり、共同で何か新しいビジネスをやりたいという話は以前からずっとありました。

一方、これは私個人の話になりますが、みずほ銀行で2012年から、リテール部門の個人向けローン商品開発の部長を4年ほど務めました。私は元来、新しい商品やサービスをつくるのが好きで、まだ20代の本部企画担当の時代からいろいろな新しい商品、世の中にないサービスをつくってきました。

さかのぼると、1990年代後半の金融ビッグバンの頃に、それまで私は本部で法人向け事業の企画をしていたのですが、「これからは個人金融の時代だ」という直感があり、自ら志願してリテール部門の企画に移りました。当時は法人企画をやめて個人に行くなんて馬鹿じゃないかと言われたりもしました。

金融自由化が進み、そこから10年ほどはリテール部門で、個人向けのデータベースマーケティングや、会員制サービス、資産運用・コンサルティング企画の仕事をしていました。その頃もさまざまな新しい商品・サービスをつくりましたし、大半が現在のみずほ銀行のインフラになっています。ですから個人向けの金融サービスには強い思い入れがあります。

リテール畑を長く歩んできた中でずっと課題に感じていたのは、日本では個人がお金を借りることに、ネガティブなイメージがつきまとうことです。そのイメージをどうにかしてポジティブなものに変えたいと思っていました。そうしなければ、日本の個人金融マーケットは広がっていきません。

個人向けの融資を、前向きな、未来のために使ってもらえるような商品・サービスにしたいというのが、特にここ数年の私にとっての挑戦でもあったのです。そのためにリタイア層のセカンドライフを支えるリバースモーゲージローンや、挑戦する若い女性を応援するローンパッケージを開発するなど、ローンをポジティブなものに変革するチャレンジを繰り返してきました。次々と企画案を部長が出してくるので当時の部下は大変だったと思います。(笑)

2015年頃にJ.Scoreのビジネスモデルの原案が出来上がり、自分がリーダーとしてその企画を進めるうちに、ソフトバンクと協業する環境が整いました。これにより、これまでの個人向けローンとはまったく異なる、ビッグデータ・AI技術を活用した「AIスコア・レンディング」というFinTechサービスに進化させていくことができました。このサービスなら、従来の個人ローンの概念を変革出来るのではないかと思ったのです。

──今回「日本初」のAIスコア・レンディングということですが、海外には同じようなサービスがあるのでしょうか。

アメリカの場合、従来からある銀行や金融機関ではなく、新しい会社がレンディングビジネスを展開しています。日本のように誰でも銀行口座を開けるわけではないという背景から、個人間で貸したい人と借りたい人を結びつけるP2Pレンディングが生まれ、そこからこのマーケットが始まっています。

私たちがサービスを開発するに当たって、数回アメリカへ視察に行きました。レンディング・クラブ、ソーファイ、プロスパーといった、レンディングビジネスの領域では全米トップ3の会社から、小さいながらも非常に優れたスコアリングモデルを持っているといわれるスタートアップまで、数多くの会社に話を聞きに行きました。

彼らに共通しているのは、それぞれの会社が独自の審査モデルを構築しているということです。グーグル出身者など優秀なエンジニアがAI開発に加わっているなど、どこもインハウスでモデルをつくっています。

日本の場合は保証会社に審査を依頼するのが普通ですが、彼らは自前で全てやっている。デフォルトが少なくなるようマーケティングを徹底し、自分たちで工夫して、モデルの精度を日々高めているわけです。日本でも、このようなやり方をすべきだというのがアメリカ視察での学びであり、その結果J.Scoreでは独自の審査モデルを構築し全てインハウスで対応することにしました。

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(画像=髙橋明宏)

J.Scoreで夢をかなえる人が出てくることに期待

──9月のローンチ以降、反響はいかがですか。

ローンチして2カ月半(※12月中旬の取材時点)ですから、プロモーションもそれほどやっていませんし、まだこれからです。ただ、そういう状況にもかかわらず、サイトへのアクセスでいうと、累計で50万人を超えるユニークユーザーがJ.Scoreのサイトを訪れてくださっていて、実際にスコアを算出した人もすでに何万人という単位になっています。

ビッグデータやAIといったキーワードを打ち出していることもあり、イノベーターやアーリーアダプターといった高感度層の方に認知されているのは間違いありません。従来の貸金業とは異なるまったく新しい金融サービスとして、「まず試してみよう」と考える若手のビジネスパーソンが多い印象です。数字にして20代・30代が6〜7割といったところです。

すでに融資を利用するお客さまも多数出てきており、想定以上の反響の大きさを感じています。

──なぜここまで受け入れられていると思われますか。

まずはブランドだと思います。このサービスはFinTechサービスであり、従来日本にはなかった先進性が大きな関心を集めていると思います。また、スマホでチャット形式に、気楽に答えていくだけでスコアが出るという手軽感は大きいと思います。任意項目は全部で百数十項目あるのですが、入れるたびにスコアアップするので、AIを体験してみるゲーム感覚みたいなところがあるのかもしれないですね。実際、そういうものを意図してUI/UXを設計しています。

「借りたいから答える」ではなく「まずは情報を提供して、スコアを出してみる、それから借りる」というように、融資の申し込みに至るまでの順番を変えた点も大きいかもしれません。「お金を借りる」「審査を受ける」と思うと、普通はそれだけで心理的ハードルが高いですよね。ありのままの自分を教えてもらうために、「まずはスコアを算出してみる」スタイルにしています。ですから、これまでの借入の意向がなかった人がこれだったら借りてみようという気になり、新たなマーケットを開拓できているという手応えがあります。

また、従来の個人向け融資に比べて、金利が低いことや、申し込みから審査、融資(振り込み)のすべてがスマートフォンで完結し、最短30分で融資できるというサービス水準の高さもあるでしょう。さらに、みずほ銀行とソフトバンクだから安心ということも、これだけ多様な質問に回答していただけることにつながっていると思います。

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(画像=髙橋明宏)

──最後に、今後の展望について教えてください。

私たちは、「スコアレンディング」をサービスとして提供し始めました。まずは、融資を受けて「未来への投資」をして、実際に夢をかなえる人が沢山出てくることを期待しています。そういう前向きな使い方が増えていくことで、レンディングに対するイメージがポジティブになっていき、日本の文化も変わっていくだろうと思います。

そして、これからデータがどんどん蓄積されることによって、「AIスコア」自体が、大きな価値を持つだろうと考えています。2018年度以降はこの「AIスコア」を流通させていく、もっと別の新しい金融や、非金融のビジネスにつなげていくということを考えています。

例えば、資産運用・コンサルティングにも使えるわけですよね。スコアが高い人は、保険料が安くなるとか、いろいろな用途に使える可能性があります。個人の「信用力」と「可能性」を定量化した「AIスコア」を事業に使いたい会社は、金融業界に限らず、おそらく世の中にたくさんあると思います。そういうところとアライアンスを組むことを考えています。

そう考えると、レンディング事業にとどまらず、このビジネスは非常に大きな成長の可能性があるといえます。私たちが「AIスコアのプラットフォーム」になるわけです。目指しているのはそういう世界です。

大切にしたいのは、当社の「より自分を高めたいという気持ちをもったすべての人が、安心して挑戦できる新しい日本をつくる」というビジョンが実現されることです。個人のお客さまの生活に密着した形で、AIスコアをより便利に活用して頂けるものにしていくことで、個人のお客さまのライフスタイルを変えていきたいと考えています。

大森 隆一郎(おおもり・りゅういちろう)
株式会社J.Score 代表取締役社長CEO。大阪大学法学部卒業後、旧富士銀行(現みずほ銀行)に入行。赤坂・福岡の支店勤務を経て、本社の業務総括部へ異動。法人の企画を務めた後、自ら志願して、リテール(個人向け事業)部門へ。リテールでの経験が長く、チャネル、データベースマーケティング、資産運用・コンサルティング、ローンなどを担当し、数々の新しい商品・サービスを生み出し、大半が現在のみずほ銀行のリテールのインフラとなっている。2015年、みずほ銀行の執行役員に就任。2016年11月より現職。

大森社長6
(画像=髙橋明宏)