創業126周年の米ゼネラル・エレクトリック(GE)は、かの発明家トーマス・エジソンが設立したエジソン電気照明会社の流れを汲む、名門のコングロマリット(複合企業)だ。米ニューヨーク株式市場の最高優良株を集めた30種のダウ平均銘柄に110年以上君臨し、景気後退の時でさえ投資家の期待を裏切らないパフォーマンスで知られる、安定安全の企業であった。

そのGEが今、苦境に陥っている。経営の神様のように崇められたジャック・ウェルチ元最高経営責任者(CEO)の下で拡大した金融・保険事業が大幅赤字になっているほか、ウェルチ氏の後任であるジェフ・イメルト前CEOが資産悪化を糊塗するため次々と仕掛けた大型買収で組織が過度に複雑化したツケが、一気に回ってきているからだ。GE株は過去1年間に50%も値を削っている。

こうしたなか、前任者たちの失敗の尻ぬぐいを強いられているジョン・フラナリーCEOが、注目を浴びている。2017年8月に就任したフラナリー氏は、GEを立て直すことができるのか。それとも、伝統と栄光の歴史は二度と取り戻せないのだろうか。米国での期待度を探ってみた。

優良株クラブのダウ銘柄から外れる?

GE,フラナリー
(画像= testing/Shutterstock.com)

フラナリーCEOは就任以来、常に投資家やメディアから疑いの目を向けられている。次々と悪い発表が相次ぐためだ。主力の一つである電力事業は火力発電向け発電機の需要が冴えず、2017年通期の部門利益は前年比45%減で、市場を失望させた。さらに悪いことに、主に医療費高騰や長寿命などで、保険事業での保険金支払いが当初の想定を大幅に超過し、連結ベースでの損益が98億2600万ドル(約1兆700億円)の赤字に膨らんだのだ。

イメルト時代から続く保険部門での過大な収入計上に関連して、米証券取引委員会(SEC)の調査も入った。SECは保険だけでなく、発電機やジェットエンジンの修繕をめぐる長期契約についても調べる意向とされる。

これに加えて、61万9000人を超えるGE社員の310億ドル(約3兆3900億円)という年金積み立て不足も発覚した。元社員の寿命が想定以上に延びるなか、GEの負担増は悪化するばかりである。次々と発覚する、エリート企業らしからぬニュース。叩けば、まだまだホコリが出そうであるため、投資家たちは将来が見通せないGE株を敬遠している。

加えて、110年以上にわたり「エリート優良株クラブ」の30社からなるダウ工業株30種平均(一般にはダウ平均として知られる)の構成銘柄であったGEをリストから除外するよう求める声が高まっている。ベル電話会社を源流に持つ名門AT&Tが2014年3月にこのエリートクラブから追い出されて、代わりにテクノロジー界のトップランナーであるアップルが加入したことは記憶に新しい。GEが放逐される日も近いかも知れない。

だが、フラナリー氏の悩みはそれだけではない。2008年のリーマンショックに端を発する金融危機時に、経営難に陥ったGEに30億ドルの融資を行って助けてくれた「投資の神様」こと、米保険・投資会社バークシャー・ハサウェイを率いるウォーレン・バフェット氏にさえ、とうの昔に見捨てられたからだ。バークシャー・ハサウェイは2017年3月末時点でGE株を約1058万株保有していたが、同年4~6月期の見切り売りで保有していたGE株をすべて売却している。

ブルームバーグ通信は2月7日、一連の「ドラマ」を評して、「GEの存在意義の危機だ」とまで言い切った。まさに四面楚歌である。

退くも地獄、進むも地獄

こうしたなか、火中の栗を拾う役目を引き受けたフラナリーCEOは、どのような戦略を持っているのであろうか。市場関係者の間で囁かれているのは、「財閥解体」ならぬ「GEコングロマリット解体」である。

電力部門、特に2016年に買収した仏アルストムなど、お荷物になっている弱い部門を切り、儲かっている航空機エンジン部門、エネルギー部門、ヘルスケア部門に集中する案だ。強い部門の足が引っ張られることがなくなり、株主価値を高めることができるとされる。 だがGEの場合、解体前の年金不足の規模があまりにも大きく、分離後の事業部門が最終的に履行不能になるような事態が起こりかねない。進むことも、退くことも容易ではないわけだ。

フラナリーCEO は電力部門の経営陣を入れ替え、従来GEの「将来のメシのタネになる」とされてきたGEデジタルを縮小して「既存の顧客にもっと焦点の合った戦略」を追求する一方、合併や買収を控えるとしている。

コングロマリットの形態がシナジー効果やコスト抑制ではなく、ムダや過度な冗長性をもたらし、収益に悪影響が出ているとの認識であり、従来の経営方針からの180度の転換だ。

投資家の関心はすでに、GEが向こう数年間にわたって譲渡する部門の200億ドルという巨額収益をフラナリーCEO がどのように使うのかに移っている。ちなみに同CEOは、「5年、10年、20年後の繁栄に向け、何がベストか検討している」と語るものの、具体的な戦略の詳細の発表は春先になるものと見られる。将来のメシのタネの再構築どころか、GEの危機を招いた企業文化の改善から始めなければならない。前途は多難だ。

聖域なき改革

一方、GEの各部門は想像以上に事業関係が深く、分割すれば研究開発や収益に悪影響があるとする見解もある。そのなかでも最も大切なのが、「GEの株価にはコングロマリットのプレミアがついており、『解体』すれば、プレミアが吹き飛ぶ」(モーニングスターのアナリスト、バーバラ・ノベリニ氏)との主張だ。

ただ、GEの株価はすでに値を半分削り、ダウ平均銘柄から外れそうになっており、そのようなプレミアにこだわる必要性は薄れてきたかもしれない。年金問題解決で何らかのウルトラQの技を出せれば、分割は現実味を帯びる。

フラナリーCEOが実際にGE解体に乗り出せば、GEの業容は複雑さのない、投資家にわかりやすい構造となり、「普通の会社」に生まれ変わる。米『ビジネスウィーク』誌は、フラナリー氏の改革でGEがイノベーションや経営技術といった先端的な文化を売り物にするのではなく、良質のジェット機のエンジンや、ガスタービン、医療機器を製造する企業になると予想する。

GEがフラナリーCEOの下でエリートの地位を捨てることは、GEを自由にするとさえ『ビジネスウィーク』誌は言う。2018年に痛みを伴う解体を行った後、2019年には同CEOが成長に向けた新たな方向性を示せるようになるとする予測もある。

フラナリーCEOがGEを復活させられるかは、未知数だ。だが、過去の栄光にしがみつかず、GEの得意分野に集中していけば「フラナリー改革」が成功する可能性はあると、多くの米アナリストは見ている。その期待が、春先に発表されると予想されるコングロマリット解体計画で、さらに高まりそうだ。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)