要旨

共働き・子育て世帯,消費実態
(画像=PIXTA)
  • 共働き・子育て世帯の消費支出は「食料」が最多で、「交通・通信 」、「教育」、「教養娯楽 」と続く。なお、専業主婦世帯では「教育」を「教養娯楽」が若干上回る。

  • 消費内訳の推移では「通信」や「光熱・水道」、「住宅購入」、2013年頃から「食料」、足元は「教育」など『必需的消費』が増え、「教養娯楽」や「こづかい」、「交際費」などの『選択的消費』が減っている。

  • 『必需的消費』のうち、「住居購入」は収入が減る中で増えているわけだが、住宅ローン減税や贈与税等の税制改正など政策の好影響と見られる。また、「食料」は円高による輸入食材の高騰によるもので、物価を考慮した実質増減率では若干減少し、むしろ買い控えている可能性がある。

  • 『選択的消費』のうち、娯楽費については、スマートフォンの普及でテレビやパソコンなどの家電や書籍の支出が減る様子が見えた。共働き世帯では、娯楽費を全体では抑えながらも、アベノミクス景気による収入増等によって日帰りレジャーより旅行を楽しむ傾向が見られた。一方で専業主婦世帯では比較的収入が少なく、教育費負担も増しているために食費や娯楽費の抑制傾向が強い。

  • 経済不安の強い現役世代では、できるだけ『選択的消費』を減らし、貯蓄へつなげる様子が見えた。一方、強いニーズのある消費領域に適切な措置がなされれば、高額でもお金を振り向ける傾向や、可処分所得に比較的余裕のある世帯では『選択的消費』に振り向ける傾向も見えた。

  • 子育て世帯をはじめとした現役世代の消費を活性化するためには、可処分所得の底上げをはかるとともに、住宅に加え、教育や保育など強いニーズのある領域において、現役世代の経済的負担を軽減するような政策を実施することが有効だ。

はじめに

共働き・子育て世帯の消費実態(1)-少子化でも世帯数は増加、収入減で消費抑制、貯蓄増と保険離れ」では、2000年以降の世帯数や家計収支全体の変化を確認した。世帯数については、少子化で子育て世帯は減っているものの、子育て世帯では専業主婦世帯が減り共働き世帯が増えているため、共働き・子育て世帯とすると、その数は若干増えていた。家計収支については、景気低迷を背景に、収入が減る中で支出を抑えて預貯金を増やしていた。経済不安が広がり、「とにかく手元にお金をとどめておきたい」という様子がうかがえた。

本稿では、消費支出の内訳について見ていく。なお、子育て世帯を「夫婦と未婚の子二人から成る核家族世帯」と定義し、共働き世帯と専業主婦世帯を対比する。

消費内訳の全体像~1位食料、2位交通・通信、3位共働き世帯は教育、専業主婦世帯は教養娯楽

総務省「家計調査」によると、子育て世帯の消費内訳は、「その他の消費支出(1)」を除くと、共働き世帯では「食料」(2016年で23.3%)が最も多く、次いで「交通・通信(2)」(15.5%)、「教育」(12.6%)、「教養娯楽(*3)」(10.1%)と続く。専業主婦世帯でも「食料」(25.3%)が最も多く、次いで「交通・通信」(13.9%)、「教養娯楽」(10.9%)、「教育」(10.3%)と続く。共働き世帯と専業主婦世帯では、上位2つは同じだが、3位と4位が入れ替わっており、共働き世帯では「教育」が、専業主婦世帯では「教養娯楽」が多い。とはいえ、2000年以降、専業主婦世帯では「教育」は上昇傾向にあり、直近では「教養娯楽」と同程度となっている。なお、いずれも諸雑費を含む「その他の消費支出」も多い。

共働き・子育て世帯,消費実態
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)諸雑費(理美容用品や理美容サービス、身の回り品、たばこ等)やこづかい、交際費、仕送り金が含まれる。
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2)交通費や自動車関係費、通信費が含まれる。
(*3)教養娯楽用耐久財(テレビやパソコン、カメラ、楽器、学習机等)や教養娯楽用品(文房具や運動用具、テレビゲーム等)、書籍・雑誌、教養娯楽サービス(宿泊料やパック旅行費、月謝類等)が含まれる。
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消費内訳の推移~「選択的消費」低下・「必需的消費」上昇、スマホ普及で家電や書籍支出が低下

◆共働き世帯の消費内訳の推移~アベノミクス景気で余暇は日帰りレジャーからじわり旅行へ

消費内訳の推移を見ると、共働き世帯でおおむね上昇傾向にあるものは「交通・通信」(のうち「通信」)や「光熱・水道」、また、2013年頃から「食料」、足元は「教育」があげられる(図1・2)。

「食料」の上昇は、円安による輸入食材の高騰等で物価が上昇している影響と見られる。「食料」の消費者物価指数(CPI)は2013年を100とすると2016年は108.9であり、2016年の支出額は実質増減率で見るとわずかに減少している(対2013年で▲0.5%)。つまり、物価高で食費がかさみ、割高感から若干買い控えている可能性もある。

また、「交通・通信」は2014年頃の上昇が目立つが、内訳を見ると「自動車関係費」(主に「自動車等購入」)の上昇によるもので、消費税率8%への引き上げと自動車税制の改正の影響のようだ。一方、「交通・通信」のうち「通信」は2000年以降、上昇傾向にある。この間、「通信」のCPIは低下しているため(2000年=100とすると2016年=78.2)、実質増減率では消費支出に占める割合で見る以上に増えており(対2000年で+117.0%)、通信ニーズの強まりがうかがえる。

共働き・子育て世帯,消費実態
(画像=ニッセイ基礎研究所)
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(画像=ニッセイ基礎研究所)
共働き・子育て世帯,消費実態
(画像=ニッセイ基礎研究所)

一方、おおむね低下傾向にあるものは「住居」や「その他の消費支出」(うち「こづかい(使途不明)」や「交際費」)、2010年以降では「教養娯楽」である(図1・6)。

共働き・子育て世帯,消費実態
(画像=ニッセイ基礎研究所)
共働き・子育て世帯,消費実態
(画像=ニッセイ基礎研究所)
共働き・子育て世帯,消費実態
(画像=ニッセイ基礎研究所)

なお、ここで言う「住居」は賃貸住居の家賃・地代を指しており、子育て世帯では持ち家率が上昇している(図7)。前稿で見た通り、2000年以降、子育て世帯の可処分所得は減少傾向にある。可処分所得が減る中で、住居という非常に高額な支出が増えていることになるが、この背景には、住宅ローン減税の拡充や結婚・子育て資金の贈与税非課税枠措置(*4)などの影響があるだろう。つまり、可処分所得が減り消費を抑制する中でも、強いニーズのある消費領域に適切な措置が成されれば、高額でもお金を振り向ける様子が読み取れる。なお、子育て世帯の持ち家率は、共働き世帯が専業主婦世帯を上回るが、これは共働き世帯の方が可処分所得は多いことがあるのだろう(2016年で月+8.5万円)。

また、2010年以降、おおむね低下傾向にある「教養娯楽」については、内訳を見ると、微細な値ではあるが、テレビやパソコンなどの「教養娯楽用耐久財(*5)」や「書籍・他の印刷物」が低下している(図3)。この時期はスマートフォンやタブレット端末の普及が加速した時期である。スマートフォンが1台あれば、パソコンやテレビの代替となるとともに、常に情報と接することができる上、電子書籍等の利用も可能となるため、従来の情報端末や紙の雑誌・書籍離れにつながる。よって、近年の「教養娯楽用耐久財」や「書籍・他の印刷物」の低下は、スマートフォン普及の影響と見られる。

一方、「教養娯楽サービス(*6)」については、さらに内訳を見ると、2012年頃までは遊園地入場料等を含む「他の教養娯楽サービス」は上昇傾向にあるが、2013年以降、低下傾向にある(図4)。一方で、「宿泊料」や「パック旅行費」など旅行費用につながる費目は、じわりと上昇している。図5で改めてみると分かりやすい。なお、物価を考慮した実質増減率で見ても同様の動きである。つまり、共働き世帯の余暇支出では、2012年頃までは遊園地などの日帰りレジャーが多かったが、近年では日帰りレジャーから旅行へ向ける割合が増えている可能性がある。

家計分析の経験的に余暇支出は世帯収入と比例しやすい。共働き世帯の世帯収入は、2000年以降、減少傾向にあるが、2012年以降はアベノミクス景気もあり前年を上回る年もある。

なお、「教養娯楽」全体としては低下傾向にあるため(実質増減率も減少傾向)、共働き世帯では娯楽費を全体では抑えながらも、アベノミクス景気による賞与等の増加に加えて、スマートフォンの代替による家電製品等の支出減少の影響もあり、余暇では日帰りレジャーより旅行を楽む意識がじわりと広がっているという認識が正しいだろう。

以上をまとめると、共働き世帯の消費内訳は「通信」や「食料」、「住居(購入)」など『必需的消費』の割合が上昇する一方、「教養娯楽」や「こづかい」、「交際費」などの『選択的(嗜好的)消費』の割合が低下している。なお、『必需的消費』のうち「食料」は物価上昇によるものでニーズの高まりではない。また、アベノミクス景気による収入増等により娯楽費の中で旅費を増やす傾向はあるようだが、全体的には『選択的消費』は減らし、貯蓄につなげている様子がうかがえる。

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(4)2015年4月1日から2019年3月31日までの間、20~49歳の者に親や祖父母が金銭により金融機関に信託等をした場合、1人あたり1,000万円(結婚資金のみは300万円)までの贈与が非課税。結婚費用には結婚式・披露宴費用や結納費用、新居の住居費、引越費用等が、子育て費用には不妊治療費や出産費用、産後ケア、子供の医療費、保育費等が認められる。
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5)テレビや携帯型音楽・映像機器、ビデオレコーダー・プレイヤー、パーソナルコンピュータ、カメラ、ビデオカメラ、楽器、書斎・学習用机・椅子等が含まれる。
(*6)放送受信料や入場・観覧・ゲーム代が含まれる。後者は具体的には、映画・演劇等入場料やスポーツ観覧料、ゴルフプレー料金、スポーツクラブ使用料、文化施設入場料、遊園地入場・乗物代、諸会費、インターネット接続料などが含まれる。
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◆専業主婦世帯の消費内訳の推移~より食費を抑え、旅行も増えておらず、財布の紐が堅い傾向

専業主婦世帯の消費内訳についても共働き世帯と同様、「交通・通信」(のうち「通信」)や「教育」、「光熱・水道」、2013年以降で「食料」がおおむね上昇傾向にある。「教育」については、もともと「教育」の割合が高い共働き世帯では足元で伸びている程度だが、専業主婦世帯では2000年以降、一貫して上昇傾向にある。「食料」については、専業主婦世帯の実質増減率は▲2.4%(対2013年)であり、共働き世帯以上に買い控えている様子がうかがえる。「交通・通信」については、共働き世帯と同様、消費増税等を背景とした「自動車関係費」の上昇や2000年以降の「通信」の上昇が見られる。

一方、低下傾向にあるものは、「住居」や「その他の消費支出」(うち「こづかい(使途不明)」や「交際費」)、2010年以降では「教養娯楽」であり、共働き世帯と同様である。

「教養娯楽」の内訳についても同様に「書籍・他の印刷物」や「教養娯楽用耐久財」が低下しており、スマートフォン普及の影響が見られる。一方、「教養娯楽サービス」は、共働き世帯のように余暇支出の一部が日帰りレジャーから旅行へうつる様子は見えず、「他の教養娯楽サービス」は上昇傾向にある。2012年以降、専業主婦世帯でも前年より世帯収入が増えた年はある。しかし、共働き世帯と比べると収入が少ないこと(2016年で月に▲8.5万円)、また、「教育」の支出割合が上昇し、教育費負担が増していることで、旅行へ振り向ける余裕を作りにくいのかもしれない。

以上より、専業主婦世帯でも『必需的消費』の割合が上昇し、『選択的消費』の割合が低下している。また、共働き世帯と比べると世帯収入が少ないことなどから、食費や娯楽費の抑制傾向が強く、専業主婦世帯では財布の紐がより堅い様子がうかがえる。

おわりに

本稿では、子育て世帯の消費内訳について分析した。子育て世帯では、共働き世帯でも専業主婦世帯でも食費や通信費、住居購入などの『必需的消費』割合が上昇し、娯楽費や交際費などの『選的消費』の割合が低下している。ただし、食費は物価高の影響で、実際には買い控えているようだ。住居購入については、可処分所得が減少傾向にある中で高額な支出を増やしているわけだが、住宅ローン減税や贈与税等の税制改正など政策の好影響と見られる。また、娯楽費については、スマートフォンの普及によりテレビやパソコンなどの家電や書籍の支出が減る様子が見えた。なお、共働き世帯では、娯楽費を全体では抑えながらも、アベノミクス景気による収入増等により、余暇では日帰りレジャーより旅行を楽しむような傾向も見られた。一方で専業主婦世帯では共働き世帯と比べると世帯収入が少ないことや教育費負担が増していることなどから、食費や娯楽費の抑制傾向が強いようだ。

景気低迷を背景に賃金カーブが低下し、高齢化も進むことで、現役世代では経済不安が強まっている。子育て世帯の消費内訳からも、できるだけ消費を抑制し(選択的消費を減らし)、貯蓄へつなげる様子が見えた。一方、強いニーズのある消費領域に適切な措置がなされれば、高額でもお金を振り向ける傾向や、可処分所得に比較的余裕のある世帯では『選択的消費』に振り向ける傾向もある。

子育て世帯をはじめとした現役世代の消費を活性化するためには、可処分所得の底上げをはかるとともに、住宅に加え、教育や保育など強いニーズのある領域において、現役世代の経済的負担を軽減するような政策を実施することが有効だ。

次稿では、消費内訳について、さらに個別品目の分析をすることで、共働き世帯の特徴を捉えたい。

久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員

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