全国で、老朽化したマンションや団地の建て替えが進んでいる。そのため、急に家主から立ち退きを言われ、トラブルに発展するケースが少なくない。すぐに次の物件に入居できれば問題ないが、特に高齢者の場合、保証人などの問題ですぐに見つからないケースが多いという。そこで、突然退去命令を出されたときの対処法を説明する。

退去命令につながる背景とは

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(画像=PIXTA)

多くの団地やマンションなど、集合住宅の建て替える時期に来ているという。鉄筋コンクリート造りの建物は、通常50年程度が耐用年数だから、建て替え対象の物件の多くは、1960年代に建設されていることになる。

1960年代と言えば、日本では高度成長期に当たる。当時郊外に多くの団地などが建設されたが、それらの建物の多くが耐用年数を迎えている。この結果、建て替えを行うために、取り壊しが必要となり、家主が店子に立ち退きを申し出る一つの背景となっている。

ただ、取り壊し後、新たにマンションなどを建設し、店子に再度住んでもらうのであれば、店子にとってそれほど問題ではない。取り壊しや建て替えの期間、代わりの住居を提供した上で、また入居できる保証があるからである。

問題になってくるのは、建て替えをしない場合である。店子には立退料が支払われるものの、次の住居を探すという負担がのしかかってくる。

家主の立場「建て替えたい」「取り壊して転用したい」

家主が店子に立ち退きを申し出る事情としては、どのような場合が考えられるだろうか。

まず上で触れたしたような物件の建て替えである。耐用年数を迎えているので、取り壊して新たな建物にしたい、または建物の敷地が都市開発事業によって再開発されるので、立て壊して売却したいなどである。

あるいは、マンション経営は管理が煩雑な割に、思っていたほど収入がないので、取り壊して駐車場にしたい、そうすれば管理に煩わされることなく、安定した収入が得られる、という家主もいるだろう。

家主から店子に支払われる立退料は決して安くはない。しかし、それでもメリットがあるからこそ、取り壊しや建て替えを選択する家主が多く存在するのである。

解約の申し入れは6ヵ月前までが原則だが……

突然退去命令を受ける店子としては、まさに寝耳に水の心境であるに違いない。

「借地借家法」という法律で、土地や建物の貸し借りのルールを定めている。この法律では、家主から店子に対して解約の申し入れ(退去の勧告)は、原則6ヵ月前までに行わなければならないとされている。

ただ、この法律の第28条には、その解約の申し入れには正当な理由が必要であり、それがなければ解約できないとされている。この正当な理由とは、家主が店子に住居の明け渡しを要求できる「一般社会の常識的な理由」だとされている。

しかし、理由が正当であっても、店子として最も気になることは、次の住居探しである。現役で働いている、年金暮らしでも子どもなどが保証人になってくれる場合はいいが、そうでなければ、新たな賃貸契約がなかなか成立しにくい。

このような「住居難民」が社会的に問題になっている。

対処法(1) 退去の理由やスケジュールを確認する

突然家主から立ち退きを申し渡されたときの対処方法のひとつ目は、理由やスケジュールを確認することだ。

多くの場合、家主から書面で退去命令、あるいは立ち退きのお願いをされることが多い。その書面に立ち退きの理由が明確に書かれていない場合、あるいは書かれていても納得できない場合は、直接尋ねてみる必要がある。

その際に、明確な理由はもちろんのこと、今後の具体的なスケジュールが決まっていれば、教えてもらうことも必要である。例えば、退去日が9月30日になっていても、実際に物件の取り壊し開始日が12月ということもありうる。

そうなると、最悪の場合11月まで退去を待ってもらえる可能性も出てくるので、余裕をもって次の物件探しもできることになる。もちろん退去日までに新たな住居が見つかり、引っ越しを完了することは理想的であり、家主に迷惑をかけないことにはなるが、期限がないからと焦って自分が納得できないまま契約する可能性も少なくなってくる。

対処法(2) 立退料の金額と支払予定日を確認する

家主から退去が要請される際に、多くの場合、立退料の提示がある。家主に立ち退きの理由を尋ねる際に、具体的な金額と支払予定日を是非聞いておくべきだ。

ただし、立退料自体は、正式な法律用語ではない。店子に退去を申し出るからといって、必ず家主が負担しなければならないものでもない。

しかし多くの場合、慣例として支払われることが多い。そのまま住み続けられると思っていた店子に、家主の都合で一方的に立ち退きをお願いすることになるから、迷惑料的な要素が強いのである。

立退料の金額は、個々の事情により異なるが、一般的に次の住居を探す費用として負担する場合が多い。つまり、保証金、敷金、礼金、引っ越し費用に該当する金額になるから、家賃の5~6ヵ月分程度になる。

立退料の件ははっきりさせておかないと、次に適当な物件が見つかっても支払えないなど契約がスムーズにいかなくなる恐れがある。

対処法(3) 管理会社に新たな物件探しを依頼する

退去させられる側にとって最大の関心事は「次に住む家がすぐ見つかるか」ということだ。家主を通じて管理会社に、新たな物件探しのお願いをするという方法がある。

現在働いて収入がある、リタイアしているが保証人になってくれる人がいる場合は、それほど問題ではないが、定職がなく保証人になってくれる人が見当たらないなら、次の物件探しは至難の業である。

立ち退きについて家主は管理会社と連絡を取っているから、管理会社も店子の事情を十分理解しているはずだ。

最近では、保証人がいない人向けに、契約の際に保証人になってくれる保証会社の制度もある。店子から保証会社に保証金を支払う仕組みだが、支払い時期が契約時、月々、あるいは契約更新時などと会社によって様々である。

この点も管理会社が詳しく把握しているはずだから、内容や金額などを相談できるはずである。

一度家主から退去命令が出てしまうと、多く場合住み続けることは難しくなる。それよりも、次の住居が見つかるように発想を変えた方が良い。(井上通夫、行政書士)