来る職業半減時代に備え、40代ビジネスマンが今すぐすべきことは?
環境の変化や技術の進歩などで、今後必要がなくなる職種・スキル、逆にニーズが高まる仕事とはどのようなものだろうか。そして、40代ビジネスマンは今から何を心がければよいのか、岩崎氏と水野氏に引き続き話をうかがった。
現存する職業の約半分がAIに置き換わる!?
前編にて、今後10年間の日本経済と各業界について予測してきた。では、これらの変化は個人の仕事や働き方にどのような影響を与えるのだろうか。
岩崎氏は、こんな研究結果を紹介してくれた。
「2015年、野村総合研究所はオックスフォード大学でAIの研究に携わるオズボーン准教授たちと共同研究を行ない、『日本に存在する601の職業のうち、49%が人工知能やロボットに代替される』と試算しました。つまり、現存する職業のほぼ半分がAIなどに取って代わられるということです。
とくに代替可能性の高い職種としてリストアップされた仕事のうち、目立つのが一般事務員や医療事務員などの『事務員』。要するに、机に座って事務作業をしているだけの人は、今後コンピュータに置き換わるということ。また、銀行の窓口係やスーパーの店員など『販売・接客』の職種も多く含まれています」
前編で「AIは脅威ではない」と話した水野氏も、「もし完全にテクノロジーに置き換えられるとすれば、極めて単機能の仕事しかしていない人だろう」と話す。よって、「毎日データ入力だけをしている」「毎日レジ打ちだけをしている」という人がいたら、確かに10年後は自分の仕事はなくなっている可能性が高い。
だが、「こうした変化自体は、AIが登場する以前から常に起こってきたこと」と水野氏は指摘する。
「昔のオフィスでは、皆が紙と鉛筆で仕事をしていました。もちろん今より作業の手間がかかるので、資料を作るにしても『調べもの担当』『手書き担当』『ワープロで仕上げる担当』など、複数の人が作業を分担していたわけです。でも、パソコンやネットが普及したら、これらを全部1人でできるようになった。つまり、いつの時代も個別の作業はテクノロジーにどんどん置き換わってきたわけです。
ただ、いくら作業が人間以外のものに置き換わっても、そのテクノロジーを使いこなす人間は必要です。前述のとおり、万能と思われがちなAIでさえ、現時点では一つの作業に特化している。つまり、現在AIと呼ばれるものは、『人に使われることが想定されているAI』だということを理解すべきです」(水野氏)
あなたの仕事を奪うのは実はAIよりも「人」
そう考えると、現在働く人にとって、自分の雇用を奪う脅威になるのはAIそのものではない。「AIを含む最新テクノロジーを使いこなし、他の人より優れた業績を上げる人」こそが、脅威になる。これが水野氏の意見だ。
「そもそも世の中には、『仕事を作る人』と『仕事を実行する人』の2種類しか存在しません。そして作る人は、その仕事をどんな手段で実行するかを選択することができる。人間の労働力を使うのか、もっとコストの安いITやAIを使うのかも、自分で決められるわけです。
一方、実行する人は『君の担当業務は、今日からITに任せる』と言われたら従うしかない。ですから、自分が何者かに仕事を奪われないためには、常に仕事を作る側にいるよう努力しなければいけません。そのためには、当然テクノロジーを理解し、活用できるだけのスキルや知見が必要になります。
今後はどの会社や業界でも、新しい仕事はテクノロジーの周囲で生まれてくる。自社の事業が直接ITやAIに関係するものでなくても、常に『テクノロジーを使って何をするか』を考えなくては、『仕事を作る人』にはなれません」(水野氏)
今の小学生の6割は現存しない仕事に就く
技術革新が加速する中、新しい仕事が作り出されるスピードも、かつてないほど高まっている。岩崎氏も、こんな仮説を紹介してくれた。
「ニューヨーク市立大学大学院センターのデビッドソン教授は、著書の中で『2011年に小学1年生になる子供たちの65%は、今は存在していない仕事に就く』と述べています。確かに、ここ10年ほどを考えてみても、ウェブデザイナーなんて職業は少し前まで存在しなかった。でも、インターネットが普及した今は、大勢の人がこの仕事に就いています」
もちろん、これは裏を返せば、今ある仕事の多くが消えていくということでもある。これを「自分の仕事もそのうちなくなるのか」とネガティブに捉えるか、「時代に応じて必要なスキルや知識さえ身につければ、新しい雇用のチャンスはいくらでもある」とポジティブに捉えるかで、その人の未来は変わって来ると言えるだろう。
岩崎氏も、「今は誰もがリスクに直面しているが、別の見方をすれば、誰にとってもチャンスは訪れる時代が来ている」と話す。
「あるテクノロジー系の大企業の役員は、『能力の高いエンジニアほど、もっと良い職場を見つけてどんどん転職していく』と話していました。実際、優秀なプログラマーとそうでないプログラマーでは、生産性に100倍も差があるそうです。それでも、その役員は『こちらも優秀な従業員は、2年くらいで辞めると覚悟して採用する。それでも、優秀ではない人を長く雇う以上の成果を十分出してくれるから』と話していました。それくらい必死で優秀な人材を雇わないと、競争に負けてしまうという危機感を会社側も持っているということです。
これはつまり、会社に滅私奉公する時代は終わったということ。実際にすぐ転職するかどうかは別として、他でも通用する能力を磨き続けなければ、会社から必要とされなくなります。40代からプログラミングを学んだって、決して遅くない。大事なのは、自分を変えていこうとする意識を持つことです」(岩崎氏)
会社の外へ出て世間の動きを体感しよう
水野氏も、40代ビジネスマンにこうアドバイスする。
「『仕事を作る人』になるには、常に世の中の動きを勉強することが不可欠。AIを含むテクノロジーが自分の仕事や業界にどう影響するかは、新聞を読んでいればいくらでも情報が見つかります。一つの会社で長く働いていると、社会と自分の間に“自社”というワンクッションがある。自分の会社の中で最先端の仕事をやっているつもりでも、同じことを他の会社では皆が当たり前のようにやっている、ということは多いのです。今後は、会社の外の人や情報と接する機会を増やしていく人と、そうでない人の差はどんどん広がるでしょう」
常に先を読み、必要なスキルやマインドをいち早く磨いていけば、どんな時代が到来しても働き続けることができる。変化の激しい時代には、自分を変えることをためらわない前向きな姿勢が何より重要になりそうだ。
岩崎日出俊(いわさき・ひでとし)経営コンサルタント/インフィニティ[株]代表取締役
1953年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行に入行。スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得。22年間の興銀勤務後、J.P.モルガン、メリルリンチ、リーマン・ブラザーズの各投資銀行でのマネージング・ディレクターを経て、2003年に独立。『残酷な20年後の世界を見据えて働くということ』(SBクリエイティブ)など著書多数。
水野 操(みずの・みさお)[有]ニコラデザイン・アンド・テクノロジー社長
1967年、東京都生まれ。米・Embry-Riddle Aeronautical Universityで航空工学の修士課程を修了。1990年代のはじめから、CAD/CAE/PLMの業界に携わり、大手PLMベンダーや外資系コンサルティング会社で製造業の支援に従事。2004年に独立し、独自製品の開発の他、3Dデータを活用したビジネスの立ち上げ支援などを行なう。著書に、『あと20年でなくなる50の仕事』(青春新書インテリジェンス)など。(取材・構成:塚田有香)(『The 21 online』2018年1月号より)
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