これまで世界経済が好調だったのも、アメリカ経済が長く拡大してきたからこそ続いてきた部分も大きい。アメリカ経済は景気が拡大を始めてから8年以上が経過している。しかし、過去のアメリカの景気回復期間の平均は5年程度であることからすれば、そろそろアメリカ経済も景気回復の終盤に差し掛かっているとの見方もある。当然、アメリカも景気後退期に入れば金融緩和の方向に向かうため、ドル安円高により株価が下落し、日本経済の足かせになる可能性があるだろう。

米景気と五輪効果の持続性

実は、近年のアメリカの景気循環には法則がある。アメリカのGDPギャップのデータによれば、需要が供給能力を上振れすると物価が上がるため、FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレの加速を抑えるために金融引き締めを強化することにより、GDPギャップがプラスになってから2~4年後に景気後退に入っている。

リーマン・ショックで大変な需要不足が生じたため、8年間景気回復が続いてもGDPギャップはマイナスが続いていた。しかし、2017年7-9月期にいよいよ米国のGDPギャップもプラスに転じた。

従って、2018年に法人税減税やインフラ投資の効果が出現すれば、需要が刺激されることになるため、需要が供給を上回ることになる。従って、その後の金融引き締め方次第では、早ければ2019年後半頃にアメリカ経済が景気後退に入ってもおかしくないという見方もできる。

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五輪特需のピークアウト

日本経済を考えても、東京オリンピック・パラリンピックの効果は主に建設投資であり、ピークは開催年の1年前の2019年半ばに訪れる可能性が高い。このため、2019年10月に消費増税も予定されているが、本当に上げられるのかわからない。ただ、景気に関係なく消費税を上げてしまう可能性もあり、これが目先の日本経済の最大のリスクだと思われる。

また、安倍政権の政権基盤の揺らぎが市場を通じて日本経済に悪影響を及ぼす可能性もある。日本株の売買は約6~7割が外国人投資家であり、安倍政権の政権基盤が盤石なほど、外国人投資家が日本株を買い、基盤が揺らぐほど日本株は売られる。従って、2018年9月の自民党総裁選の行方次第では、アベノミクスが終了する可能性があり、そうなれば日本経済も後退を余儀なくされる可能性がある。

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朝鮮半島情勢と保護主義リスクも

アメリカ経済のリスクは引き続きトランプ政権の政策運営だろう。法人税減税やインフラ投資により経済が良くなれば金利が上がってドル高になり、レパトリ(海外に投資されていた資金が本国に還流すること)により経常赤字の新国が経済危機、通貨危機に陥る可能性もあろう。

また、北朝鮮や中東諸国とアメリカの関係も地政学リスクとしてとらえられる。特に北朝鮮と日本は地理的に近いため、万一ミサイルにより国内で被害が出るようなことがあれは、経済へのマイナス影響が大きくなろう。

実は、リーマン・ショックの79年前には世界恐慌があり、それ以降の流れが現在と似ているという事実がある。世界恐慌の後は、世界中がデフレになったため、デフレを克服するために、金本位制からの離脱をして通貨流通量を増やし、通貨の価値を下げた。リーマン・ショックの後も同様に先進国は量的緩和政策で通貨の量を増やし、デフレを克服した。

ただ、いずれも100年に1度の金融危機の後遺症は大きく、現在も表面上経済は戻ったかもしれないが、所得格差の拡大等で国民の不満は解消されていない。

また、今回の2016年のイギリスの国民投票結果やトランプ政権誕生もある意味で保護主義の台頭といえるが、実は世界恐慌後の1932年にもブロック経済により、イギリスから保護主義の台頭が始まった。今回、この点に関しては、むしろ2017年の日欧EPA(経済連携協定)やTPP11の基本合意のように抵抗する動きもあるが、やはり保護主義の台頭には注意が必要であろう。

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金融政策の出口もリスク

一方、日銀行っている10年国債利回り0%をターゲットにしたイールドカーブ・コントロールや、ETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)を買い入れる金融政策は、金融機関や金融市場への副作用も大きいと捉える向きもある。のため、今後は日銀が金融政策の出口に向かう可能性もあろう。

日銀の金融政策については、2018年3~4月に執行部が交代することから、枠組みが変更されるリスクもあり、マーケットにとってネガティブになるとの見方もある。従って、米国FRBも金融政策の正常化を市場の見通しより加速させるという見方が強まれば、日本の長期金利上昇を通じて円高・株安の圧力がかかる可能性もあることには注意が必要だろう。

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永濱利廣(ながはま としひろ)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 1995年早稲田大学理工学部卒、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年4月第一生命入社、1998年4月より日本経済研究センター出向。20004月より第一生命経済研究所経済調査部、2016年4月より現職。経済財政諮問会議政策コメンテーター、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事兼事務局長、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使。