戸建住宅を保有しているが、居住しておらず、その活用に頭を悩ませている人もいるのではないだろうか。購入したものの、転勤となってしまったケースや、相続したものの、住む人がいないケースなどがあるだろう。そうした戸建住宅の活用に関して、賃貸に出すというのも一つの方法だろう。戸建住宅を賃貸に出す際には、戸建住宅特有のメリットや注意点がある。それらをしっかりと把握した上で、資産の有効活用を図りたい。
空き家率は増加傾向 戸建の活用は進んでいない
総務省の「住宅・土地統計調査」によると、2013年の空き家数は820万戸で、総住宅数に占める割合は13.5%と過去最高を記録している。空き家数は20年間で約1.8倍増えた事となる。その内、戸建住宅は300万戸となっており、空き家全体の3分の1強を占めている。戸建住宅の活用は空き家問題と密接に結びついていると言える。
戸建住宅の空き家についてであるが、居住していない理由は様々であろう。居住用として購入したものの、転勤等により、空き家となってしまうケースもあれば、相続によって譲り受けたものの、居住者がいないままとなっているケースもあろう。いずれにせよ、空き家のまま、固定資産税を払い続けているのは、資産の価値を活かせていない事となる。
戸建住宅を資産として活用させる事を考えた場合、賃貸に出す事が一つの選択肢となろう。
戸建住宅を賃貸に出すメリットとは?
戸建住宅を賃貸に出すメリットについて、当たり前の話ではあるが、賃料収入が得られる点が重要だ。空き家のまま放置しておいたのでは収入は生まれない。
また、それだけでなく固定資産税や修繕費を経費として計上できる点も重要だ。さらに、物の購入費用についても、減価償却費として費用計上を行う事が可能である。居住用として保有していた場合では、支払うのみであったこれらの費用が経費算入できる為、賃貸に出す事で、単純な賃料収入以上のメリットが生まれ得る。
戸建住宅ならではの強みも
先程述べた点はあくまで不動産を賃貸に出す場合のメリットである。これらのメリットは戸建住宅にだけでなく、他の不動産でも基本的に同様である。これとは別に、戸建住宅を賃貸に出す場合に特有の強みもある。
戸建住宅を賃貸に出す際の強みとして、周辺の不動産相場よりも高い賃料にて賃貸契約を結べる可能性が挙げられる。不動産賃貸市場においては、その供給の大部分が共同住宅となっている。戸建住宅の賃貸物件はそれだけで市場価値が高くなるケースがある。もちろん、周辺環境や築年数など住宅自体の価値にも左右されうるものの、需要と供給のバランスで見れば、共同住宅よりも希少価値が高くなるケースは多いと言えよう。
また物件の立地環境においても共同住宅とは異なる価値が求められるケースも多い。共同住宅の場合、駅から近い場所が好まれる傾向にあるが、戸建住宅の場合、駅周辺の喧騒から離れた落ち着いた立地を好むファミリー層の需要も視野に入れる事ができるだろう。駅からの立地環境は多少悪くとも、落ち着いた住宅街の中にあるなどの付加価値をアピールする事も可能である。
さらに、戸建の賃貸物件はファミリー層に需要が高いと見られるが、そうした層は長期間の賃貸を行う場合も多い。子どものいる家庭では、転校等の問題もある為、比較的長く同じ物件に住むケースもあるだろう。もちろん、間取り等にもよるが、ファミリー層の需要を取り込む事ができれば、空室期間の少ない運用も可能だろう。
自身で再び居住する場合は「定期貸家契約」を
転勤などで持家である戸建住宅を賃貸に出す場合、いずれ自身が戻る事を視野に入れている人もいるだろう。そうした場合には「定期借家契約」を結んでおく必要がある。
賃貸借契約には、「普通借家契約」と「定期借家契約」がある。普通借家契約の場合は、契約期間を1年以上で設定する事となるが、借主が契約のさら新を望む場合、正当な理由がある場合を除き、拒絶する事はできなくなっている。つまり契約のさら新は借主に左右される事となり、自身が戻りたいタイミングで借主がいる場合には、スムーズに事が運ばない可能性もある。
一方、定期借家契約とは、予め定められた契約期間が満了すれば確実に明け渡しを受ける事が可能となる。自身が再びその家に戻るタイミングが分かっている場合には、定期借家契約を結んでおき、期日が来れば確実に賃貸契約が満了するようにしておきたい。
ただし、定期借家契約を結ぶ場合、普通借家契約と比べ、その市場価値が低くなるケースが多い事は頭に入れておく必要がある。借主の立場からすれば、契約さら新の有無を選択できる普通借家契約を結びたいと考える人が多い。定期借家契約での賃貸を行う場合には、そもそもの需要が少なくなり、空室リスクが高まる恐れがある点には注意しておきたい。
戸建住宅の賃貸 住宅ローン利用時には要注意
戸建住宅を賃貸に出す事により、賃料収入というメリットを得る事が可能となるが、注意すべきポイントはどのようなものであろうか。
最も注意すべき点は、住宅ローンを借りている場合である。住宅ローンは基本的に本人が居住する事が前提となる。転勤などの理由があろうとも、融資物件が自身の居住以外の用途で使われる場合には、融資契約の違反となり得る。
まずは金融機関との金銭消費貸借契約書の契約内容を確認する必要がある。対応は各金融機関へ相談する必要があるが、金利条件の変さらや賃貸住宅ローンへの切り替え、また、借り換えが必要となるケースも多いだろう。賃貸に出す事で、住宅ローン金利が変さらとなる可能性がある点には十分注意したい。また、住宅ローンの切り替えや借り換えが必要となるケースでは、それに伴うコストも見逃せない。特に借り換えの場合には、事務手数料や印紙税等で何十万円という費用が掛かる可能性がある。
なお、フラット35では事情によらず融資物件を賃貸に出す事が可能となっている。もちろん、借り入れ当初から融資目的で借り入れる事はできないものの、その後の状況の変化には柔軟に対応できるようになっており、転勤等の可能性が高い場合には、フラット35での借り入れを検討する手もあるだろう。
住宅ローン控除が受けられない点にも注意
戸建住宅を賃貸に出す場合、住宅ローンの融資契約違反に注意すると同時に、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)が適用されなくなる点にも注意が必要だ。
住宅ローン控除とは、自身の居住用住宅に関する住宅ローンについて、一定期間、その年末残高の一定割合を所得税額から控除する税制上の特典である。
この住宅ローン控除を受ける為には、当該物件の取得から6ヵ月以内に入居し、控除を受ける年の年末まで引き続いて居住している事が要件となっている。つまり、賃貸に出す場合においては、この控除の適用を受ける事ができなくなる。
戸建住宅を賃貸に出す場合には、このような税制上の特典が受けられない事も頭に入れておく必要があろう。
他にもある 戸建住宅を賃貸に出す注意点
戸建住宅を賃貸に出す場合、住宅ローンに絡む点以外にも注意すべきポイントはある。
まずは、戸建住宅に限った話では無いが、賃貸物件では空室リスクが常に存在する点だ。戸建住宅を1棟のみ賃貸に出す場合、得られる賃料は0か100となる。戸建住宅は、共同住宅よりも空室リスクの分散が効きにくい為、空室リスクも十分に考慮した上で収支を計算したい。
また、修繕費用も考慮に入れておきたい。特に戸建住宅の場合、マンション等よりも修繕費用は高くなる傾向にある。戸建住宅を長期間に渡って賃貸に出す場合には、修繕費用も十分に計算に入れる必要があろう。
さらに、賃貸に出す事により、事務処理負担も発生する。確定申告を始め、不動産会社との契約や、物件の維持管理に掛かる手間も忘れてはいけないだろう。
民泊での利用 6月施行の民泊法を遵守
戸建住宅の活用にあたり、賃貸と並んで民泊での活用も選択肢の一つとなろう。宿泊料の設定次第では、賃貸に出すよりも高い収益を得る事も可能である。
ただ、民泊での利用に当たっては法律で定められた要件に注意を払う必要がある。
民泊を巡っては、2018年6月15日に施行される住宅宿泊事業法、いわゆる民泊法をまず頭に入れておく必要があろう。同法では、民泊を行うに際し、自治体への届出が必要となる。
建物に関する要件も重要だ。家主が同居しており、宿泊室が50平方メートル以下の場合を除き、非常用照明器具や自動火災報機等の設置も義務付けられる事となっている。居住しなくなった戸建住宅を民泊向けに貸し出す場合、これらの設備投資も必要となる。
また、同法により、年間の営業日数にも180日が上限という制限が設けられた。営業日数も踏まえた上で、賃貸に出す場合とのメリットを比較する必要があろう。
民泊は各自治体の条例にも注意
民泊を行う場合、民泊法以外に、各自治体の条例にも注意が必要だ。民泊法は国が定めた民泊のガイドラインの位置付けであるが、多くの自治体では、それに上乗せする規制を定めた条例を設けている。民泊法だけで無く、各自治体の条例での規制を加味した上で、自身の物件での民泊運営が可能であるかを判断したい。
また、民泊では、騒音やゴミ出し等による周辺住民とのトラブルが起こる事も考えられる。法律の遵守だけで無く、こうしたソフト面での対応も考慮しておくべきであろう。
さらに、賃貸に出す場合と同様に、住宅ローンの契約に抵触する可能性にも注意が必要だ。一度でも民泊に出してしまうと居住用として認められないケースも起こり得る。住宅ローン利用者が民泊を行うに当たっては、事前に借入金融機関に相談を行うようにしたい。住宅ローン控除についても同様である。こちらも、状況によった税務判断が必要となり、事前に税理士や税務署へ確認を行う事が重要であろう。
居住していない戸建住宅について、賃貸や民泊での活用によって収益を生みたいと考える人は多いだろう。賃貸や民泊での活用に伴う注意点を洗い出し、最適な判断をしたい。(ZUU online編集部)