不動産の購入を検討すべく不動産情報をチェックしている際に「再建築不可」や「セットバック要」と注記された物件を見たことがあるのではないだろうか。これらの物件は周辺相場に比べて安価な場合が多く、格安な物件もあるが、実際に購入するとなると手を出しにくいイメージがあるかもしれない。まずこれらの注記の意味をおさえておこう。
再建築不可とは?セットバックとは?知っておくべき制限事項
建物を再建築できない場合として、敷地の接道に関する規定に抵触する場合や市街化調整区域での建築制限などがあるが、圧倒的に多いのが敷地の接道に関するものだ。
建築基準法では都市環境を整備するため、道路に関する規定と建物の敷地に関する規定がある。これは消防車や救急車などの緊急車両が支障なく通行できるようにし、火災などの災害時に建物からの避難や緊急車両の敷地への侵入が円滑に行えるよう配慮した決まりだ。
建築基準法上の道路は幅員4メートル以上のものだが、建築主事を置く地方公共団体または長である特定行政庁が必要と認めて都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内では6メートル以上のものをいう。また、幅員4メートル未満の道路でも特定行政庁の指定したものは道路とみなされ、これを「2項道路」または「みなし道路」と呼ぶ。
建築基準法では建物を建てる際に敷地の接道義務を課している。まず建物の敷地は建築基準法上の道路に2メートル以上接していなければならない。ただし特定行政庁が交通上・安全上・防火上及び衛生上支障がないと認めた上で建築審査会が同意すれば、2メートル未満の接道でも許可される場合があり、これは「ただし書き道路」と呼ばれることがある。
これらの建築基準法に抵触すると、建築の確認申請をしても建築確認がおりず建物の再建築ができない。
また、再建築不可ではないが再建築に条件が付く場合がある。2項道路に接する場合のセットバックだ。2項道路は幅員が4メートル未満と狭く、緊急車両の通行や火災など災害時の避難に支障がでる恐れがある。そこで本来あるべき幅員4メートル以上を確保するための決まりがセットバックである。
2項道路に接する敷地に建物を建築する場合、その中心線から2メートルが道路境界線とみなされ、建物はその境界線の内側に建築しなければならない。また特定行政庁が6メートル以上と指定した道路の場合は、その中心線から3メートルが道路境界線とみなされて建物はその内側に建築しなければならない。これがセットバックだ。
ただし、敷地が接する2項道路の反対側が中心線から2メートル未満でがけ地・川・線路敷地などの場合は、道路の反対側の境界線から4メートルを道路の境界線とみなす。これは反対側に道路拡張が困難なため敷地側に道路拡張するための規定である。
セットバックが必要となると道路ぎりぎりに建物を建築できなくなり、利用できる敷地面積が狭くなってしまう。
再建築不可やセットバックが必要な不動産の数
総務省統計局では5年ごとに住宅・土地統計調査を行っているが、最新の「平成25年住宅・土地統計調査結果」によると住宅の敷地の接道状況は次のとおりだ。
調査総数……5210万2200件
敷地が道路に接していない……103万6700件(全体の約2%)
敷地が幅員2メートル未満の道路に接している……231万6400件(全体の約4.4)
敷地が幅員2メートル以上〜4メートル未満の道路に接している……1353万7500件(全体の約26%)
敷地が道路に接していない場合は再建築不可で、全体の約2%ある。敷地か幅員4メートル未満の道路に接する場合はセットバックが必要な可能性が高く、全体の約30%ある。これに加えらの敷地が2メートル以上接道していなければ再建築不可だ。
この数字からわかるように、再建築不可な物件やセットバックが必要な建築制限のある物件が数多く市場に流通している。
再建築不可やセットバックが必要な不動産の利用方法
再建築不可やセットバックが必要な不動産を購入して利用するには3つの方法がある。建築基準法をクリアするか、建築基準法に従って再建築するか、建築確認が不要な範囲で建物をリフォームして利用するかだ。
まず建築基準法の接道条件をクリアする場合は、建築基準法上の道路に2メートル以上接道するように周辺の用地も一緒に購入すればよい。具体的には袋地と呼ばれる道路に接していない土地は道路まで通行できるように土地を購入するか、2メートル未満の場合は2メートル以上接道するよう周辺用地を購入するかだ。
次に2項道路に接していれば、道路の中心線から2メートルまたは3メートル以上セットバックすれば再建築できる。
最後に、建築確認が不要な範囲でリフォームする方法がある。再建築不可やセットバックが必要な不動産でも、既存建物は建築確認が不要な範囲であればリフォームができるのだ。具体的に、建築確認が必要な場合について以下に説明する。
建築確認が必要となるのは新築、増改築・移転、大規模修繕・大規模模様替えや用途変更を行う場合で、建築物の種類により建築確認の要否が異なる。ここで、改築とは元々あった建物のすべてまたは一部を取り壊して建築し直すことで、移転とは同一敷地内で建築物を移動することを意味する。大規模修繕とは主要構造部(壁・柱・床・はり・屋根又は階段)の1種以上の過半を修繕することをいい、主要構造部の1種以上の過半を模様替えすることを指す。
建築基準法では特殊建築物と大規模建築物、そしてその他の一般建築物建築確認で建築確認が必要な封建が異なる。
まず劇場や映画館・病院・学校などの特殊建築物で、その用途に使用する部分の床面積の合計が100平米を超えるものは、新築、増改築・移転、大規模修繕・大規模模様替えや用途変更を行う場合、建築確認が必要だ。
次に大規模建築物の場合は、新築、増改築・移転、大規模修繕・大規模模様替え行う場合に建築確認が必要だ。ここで大規模建築物は木造と非木造で定義が異なる。木造の場合は階数が3階以上で延べ床面積が500平米を超え、高さが13メートルを超えて軒の高さが9メートルを超えるものである。非木造では、階数が2階以上で延べ床面積が200平米を超えるものだ。
その他の一般建築物は、都市計画区域内または準都市計画区域内での新築か増改築・移転の場合に建築確認が必要となる。大規模建築物にあたらない戸建て住宅はこれに該当し、大規模修繕・大規模模様替えもできるのである。
不動産購入の前に知っておきたいこと
再建築不可やセットバックが必要な建物でも、建築確認が不要な範囲内でのリフォームができる。これらの物件は周辺相場に比べて価格が安い場合が多く、格安な物件を探すことも可能だ。前に説明した通り建築確認が不要な場合は、劇場や映画館・病院・学校などの特殊建築物と大規模建築物とその他の一般建築物で異なる。この3つの場合で知っておくべき事について説明する。
まず特殊建築物は、用途変更を行わければ大規模修繕・大規模模様替えに当たらない範囲でのリフォームが可能だ。用途変更をしないという条件があるので、学校経営や病院経営などの同業を営んでいる方であれば、経営拡大の対象物件として良い選択肢となる。
次にアパートや豪邸などの大規模建築物の場合には、大規模修繕・大規模模様替えに当たらない範囲でのリフォームが可能だ。大規模修繕・大規模模様替えが不要な物件であれば、良い投資対象となる安価な物件が見つかる可能性がある。
そして、戸建て住宅などのその他の一般建築物は、大規模修繕・大規模模様替えが可能だ。居住用としても賃貸目的の購入でも購入検討の範囲が広がる。
さらに建築確認が不要なリフォームであれば、不動産の課税評価額もリフォーム前と変わらないことをあわせておさえておこう。再建築不可やセットバックが必要な物件は課税評価額も低く、毎年課税される固定資産税と都市計画税も低く抑えられる。また課税評価額が低ければ、不動産購入時の不動産取得税と登録免許税も少なくなる。このように税金を低く抑えられることもこれらの物件を購入する利点でありメリットだ。
注意しなければならない事
再建築不可やセッツバックが必要な物件については、これまで説明したように建築基準法の制限を避けてリフォームすることをお勧めする。これらの物件では建物を取り壊した後に新しく建物を建築できないからだが、もしもこれらの物件で再建築したいという場合には、注意が必要だ。
再建築不可の物件では、接道条件を満たすなどの対応で基準をクリアするかもしれないが、そもそも基準をクリアできる方法があるのか、周辺の用地購入でクリアできるとしてもそれが購入できるかなどの問題がある。また、本来の購入物件と周辺用地の購入が遅滞なく行えるかということも問題になる可能性がある。これらを間違いなく行う必要があるため、手間がかかり少しハードルが高くなってしまう。
また当然のことだが、再建築不可のままでは住宅ローンを申し込めない。再建築可能となる条件を全て整えてからでないと住宅ローンを利用できないので、留意しておくべきだ。
またセットバックが必要な物件に新築する場合、セットバック後に敷地が利用できる面積と周辺の参考価格を比較して価格的に大きなメリットがある場合に、購入検討するべきである。その場合、建物があればその解体・整地費用を加えた価格と周辺更地の価格を比べることが必要だ。
不動産購入はより広い視点で有利な物件を探すべき
不動産の購入目的は自分が住むのか売却するのか、賃貸にするのかなど様々だ。その際に目的によっては再建築不可やセッツバックが必要な物件が魅力的になる場合もある。また、再建築不可の物件にはデメリットがあるがデメリットだけに注目すると、自ら選択肢の幅を狭めてしまうことになる。
再建築不可やセットバックを理解することは、より有利な条件で物件を購入する方法の一つと考えてはいかがだろうか。(ZUU online編集部)