自社の株価が気になるのは上場会社の経営陣だけではありません。特に事業承継を考え始めたオーナー会社の経営者にとって自社の株価は重大な関心事です。
上場会社の経営陣の関心は安定した株価の上昇にあるのに対して、事業承継を控えた経営者の関心は「いかに株価を下げるか」にあります。以下では、事業承継時の株価にも大きな影響を与える不動産の活用方法と対応方法について紹介しましょう。
事業承継の考え方と不動産の関係
事業承継の中で相続税対策は重要な位置を占めています。個人事業の事業承継では、預金、機械、不動産など個々の事業用資産が相続の対象となります。これに対して、法人の事業承継では、事業用資産は株式会社などの所有となっていますので、オーナー社長が保有している株式が相続の対象となります。
●個人の財産は不動産で相続対策
個人が所有する財産については、現預金や有価証券で保有するよりも不動産で保有する方が相続税対策になることはよく知られています。これは、不動産の相続税評価額が実勢価格より2~3割低くなることによるものです。また、賃貸不動産の建物は「貸家」、土地は「貸家建付地」としてさらに評価額が下がります。
それに加えて、事業で使用する土地であれば「特定事業用宅地等」として400平米まで80%減、賃貸で使用する土地であれば「貸付事業用宅地等」として200平米まで50%減となる「小規模宅地等の特例」が適用できるため、節税効果はより高まります。
●会社の事業承継は株価評価がポイント
一方で、会社の事業承継については、相続税の定める方法にもとづき株価を算定することになります。実は、株価の算定も会社の財産をもとにするため、会社が不動産を保有することにより、個人財産を扱う際の考え方と同様に相続税評価額を下げることができる点では共通しています。
そのため、まずは会社の財産にはどのようなものがあるのかを把握するとともに、オーナー名義の不動産で事業に使用しているものはないか、会社とオーナーとの間で借入金、担保設定、経営者保証がないかなど権利義務関係を明確にすることが大切といえます。
●法人の不動産活用にはさまざまなメリットがある
法人で不動産を取得するパターンとしては、賃貸用のアパートやマンションなどを建設する以外にも、将来の事業拡大を見越して新工場を作るなど積極的な設備投資が考えられます。また、社宅を保有して「賃貸料相当額」(給与課税されない程度の賃料)を役員や従業員から徴収するのも一法です。
こうした設備投資では「少額減価償却資産制度」や「中小企業等投資促進税制」などの優遇策を最大限活用すると良いでしょう。
また、事業承継に際して一部の部門を相続人以外の第三者に事業譲渡することも考えられます。もし、譲渡価格で折り合わない場合には保有している不動産を除外するなど価格調整弁として活用する方法もあります。
なお、こうした事業譲渡や会社分割を利用する際には、主要事業から撤退して収益用不動産だけを残す方法、特定の事業で使用されている事業用不動産だけを残す方法などさまざまなパターンがあります。
複数の後継者に事業承継するための手段として活用できるほか、非後継者に事業用資産以外の不動産を承継させ、不動産賃貸収入を確保するといった方法もあるでしょう。
法人の事業承継で不動産を活用する際の注意点
事業承継を目的に法人で不動産を取得する際に気をつけておかなければならない点が3つあります。
●注意点1 取得時から3年以内は「通常の取引価格」で評価
1つ目は、取得時から3年以内の不動産は上記のような相続税評価額ではなく「通常の取引価額」で評価されるという点です。「通常の取引価額」というのは時価を意味しますので、事業承継が取得時から3年以内であれば節税効果はほぼ期待できないということになります。
●注意点2 3年経過後でも、価格が高騰していれば逆効果
2つ目は、不動産の取得時から3年経過後であっても、それまでに地価が高騰している可能性がある点です。保有不動産の価格が上昇しているのは喜ばしいことでもありますが、株価を低く抑えようという目的からすると逆効果ということができます。
なお、地価が上昇トレンドにある場合には、不動産全体の中で建物価格の占める割合を高くするという対処方法もあります。
●注意点3 「特定資産」は状況次第で納税猶予制度の対象外になる
3つ目は、株式や不動産などの「特定資産」について、総資産に対する保有比率が70%以上、あるいは総収入に対する収入割合が75%以上になると、中小企業経営承継円滑化法における納税猶予制度の適用対象外となる点です。
そのため、過度に不動産などを保有して「資産保有型会社」や「資産運用型会社」と認定されないように留意する必要があります。
事業承継は評価を下げることだけでなく、納税資金対策も考える
事業承継で相続税対策をするときには評価額を下げることだけに終始していてはいけません。納税資金の確保を怠ると、不必要な融資に依存することになったり、資産売却の憂き目にあったりする可能性があります。
こうした事態を避けるためには、被相続人の財産の中で事業用不動産や自社株式など換金可能性が低い財産の比率を一定範囲に抑える工夫も必要です。
保有資産のバランスや事業承継スキームの検討は一般的に高度な判断が伴います。書籍や雑誌の記事を読んで基礎知識を身につけたり、セミナーに参加して事例を聞いたり、情報収集をするのも大切ですが、金融機関や税務専門家などに相談をして、信頼関係を結び、できるだけ早い時期に対策を講じることが重要といえます。(提供:企業オーナーonline)
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