注目企業の決算まとめ 後編
③川崎汽船< 9107 >
売上高は前連結会計年度比7.9%増の1兆2,241億円となり、営業利益は同93.8%増の289億円、当期純利益は56.0%増の166億円となりました。日本郵船、商船三井同様、順調な決算内容となり、独占禁止法違反の課徴金約57億円を損失計上したにもかかわらず増収増益の好決算となりました。川﨑汽船においては海運業の順調な回復のほか、コスト削減効果や一部事業におけるのれんの償却負担がなくなったことが好決算の要因となっています。
④第一中央汽船< 9132 >
売上高は前連結会計年度比17.6%増の1,651億円となりましたが、前年に引き続き66億円(前期は183億円)の営業損失および154億円(前期は319億円)の当期純損失という決算内容でした。海運業界の業績回復により営業利益ベースでは緩やかな回復基調を辿っていますが、特別損失約60億円を計上したことが最終利益に大きく影響しました。
これは平成22年に提訴された座礁事故に関する第一審判決で、平成25年7月に英国高等法院より約166万ドルの支払い命令を受けたことにより訴訟損失繰入金を計上したものです。この裁判は第一中央汽船が控訴し、今後も徹底的に争う姿勢を表明しましたが、賠償金の支払いリスク等に備えて資本性のある資金の調達も同時に発表しています。
⑤NSユナイテッド海運< 9110 >
売上高が前連結会計年度比17%増の1,536億円、営業利益は同653.8%増の88億円、当期純利益は107億円となり最終利益が黒字に転換しました。特別利益に計上した船舶売却益の38億円を除いても十分な黒字を確保しており、上記の大手3社(日本郵船・商船三井・川﨑汽船)に続き海運事業の回復ぶりを印象づける好決算となりました。
海運業界、今後の展望
海運業界の各社では業績回復による堅調な決算内容が目立ち、独占禁止法違反による多額な課徴金支払いも特別大きな影響を及ぼしていません。市況回復が顕著に表れていますが、今後の見通しは決して楽観できるものではありません。定期船事業では新造船の竣工増により供給圧力が高まり、運賃の市況は低下傾向にさらされています。
また、外部環境が業績に多大な影響を及ぼす業種なので、安定的な収益確保が至上命題だといえます。そこで大手が新たに戦略を発表したのが、シェールガス革命に伴い需要増加が見込まれる液化天然ガス(LNG)分野です。最近発表された日本郵船、商船三井の中期経営計画の中では、シェールガス革命によって需要拡大が予測されるLNG関連事業に多大なコストを投じる計画を発表しました。将来のシェールガス革命により需要拡大が見込まれる液化天然ガス事業において中長期的に安定的な収益を得るためです。
また、海洋開発事業も新たな収益基盤として注目されています。近い将来に日本近海でメタンハイドレードなどの海洋資源開発が期待される中、海洋開発事業へ参入する意義は非常に大きいです。しかし、資金負担が過大になるため新規参入に課されるハードルは相当高くなっています。このような事業環境下で海外の巨大資本と競争し生き残っていくためには、安定的な収益基盤を確保し、財務基盤を安定させたうえで収益性の高い長期案件を獲得できる力が必要になります。現在は一時的な回復局面にありますが、中長期的には海運業界における日本企業の苦戦は続くと予想されます。