今から約1年前の2017年3月27日、格安海外旅行会社てるみくらぶは東京地裁に破産申請、同日に手続き開始決定を受けた。破産申請の数日前より、同社主催の海外旅行で航空券が発券できないトラブルが続発し、観光庁にも問い合わせが殺到していたという。

負債総額は151億円に達し、8〜9万人に影響を与えたこの事件は社会問題となり、メディアでも大きく取り上げられた。あれから1年経って、事件の記憶も風化しかけてきたが、今こそ「てるみくらぶ事件」を振り返り、現状と再発防止に向けた課題を考察する。

てるみくらぶ
(画像=てるみくらぶ)

「てるみくらぶ」はなぜ破綻したのか

「てるみくらぶ」は1998年の創業以来、東京渋谷に本社を置き、大阪・名古屋・福岡に営業店を持ち、韓国・台湾・ハワイ・グアム・サイパン行きの募集型企画旅行を展開していた旅行会社だ。主にインターネット上で格安旅行を販売し、業績を伸ばしてきた一方、近年はシニア向けにも力を入れていた。

2017年11月6日、破産管財人の弁護士から発表された債権者集会資料によると、2012年頃からLCCの台頭に伴い、格安旅行の価格競争が激化し、航空券仕入れに伴うリベート収入も激減した。加えて、訪日外国人の急激な増加に伴い、格安航空券を大量に手に入れることが難しくなった。

経営環境が厳しくなるなかで同社は、原価率を十分に検証せず、格安ツアーを赤字販売し続け、ますます経営状況が悪化した。その悪循環の背景には、当座の運転資金を集める必要があったためと指摘しており、2015年1月以降は、月次ベースの粗利益が全て赤字になっていたという。そんな自転車操業も長くは続かず、倒産に至ったというわけだ。

粉飾と詐欺の発覚

同社は、金融機関からの融資継続や旅行業免許の更新のため、平成25年9月期から粉飾決算にも手を染めていたという。4期にわたり当期純利益が赤字だったにも係わらず、黒字に見せかけている。

また、複数の銀行から融資を引き出すために、審査資料も偽装した。この件に絡んでは、社長と経理担当者が逮捕されている。

弁済されたのは債券総額の3.5%

弁済業務保証金制度は、業者と取引をした旅行者が債務不履行などの被害を受けた場合に、一定の金額を弁済する制度だ。旅行業法に基づき、日本旅行業協会(JATA)が運営する。業者は、旅行業の登録種別(1~3種)と年間取引額に応じて分担金を支払う。弁済限度額は、分担金の5倍までだ。旅行者には、債権額に応じて弁済額が按分される。

同社に債権を有する旅行者は、3.4万件に上る(JATA確認)。そのうち協会に申し出があったのは1.1万件で全体の1/3だが、それでも債権総額は34.2億円に達する。本件の場合、弁済限度額は1.2億円、弁済率は3.5%に過ぎない(2017年11月16日に一般社団法人日本旅行業協会が発表した資料より)。

再発防止策としてガバナンス強化へ

JATAが再発防止策検討の一環として実施したパブリックコメントでは、弁済分担金の引上げを求める意見も寄せられた。ただし、今までの倒産ケースのうち8割近くは100%の弁済がなされており、制度自体に問題は無さそうだ。にもかかわらず、業者にこれ以上負担をかけることは現実的ではない。

行政やJATAでは、今回の問題は弁済制度の欠陥ではなく、てるみくらぶ経営者の暴走にあると捉えており、被害発生後の救済策強化より、事前予防策の充実に重点を置き再発防止を図る。

2018年4月より、業者が観光庁に提出する決算書の頻度を5年から毎年に変更、出発60日以上前に20%以上の前金を受け取る場合の説明義務の他、通報窓口の設置により旅行業者のガバナンス強化を図る。ただし、監査の厳格化や外部による経営監視といった抜本的なコンプライアンス規制強化は、旅行業の活力を奪うことになりかねないので今回は見送るようだ。

資産を隠し持っていた社長が4度目の逮捕

2018年2月、久しぶりに「てるみくらぶ」の名前が新聞紙面に躍った。警視庁捜査2課は7日付けで、山田容疑者を破産法違反容疑で再逮捕(4度目)した。個人としても自己破産手続き中の山田容疑者は、債権者集会で「貯蓄はnい」と説明していたが、現金1000万円を差し押さえられないよう自宅に隠し持っていたとのことだ。

被害総額からすると微々たる金額なのかもしれないが、なんとも往生際の悪い話である。被害者の多くは、久しぶりの旅行を楽しみにしていたことだろう。なかには人生の節目を祝う旅行もあったかもしれない。この事件は風化させず、全容を解明し、二度と起こらないよう対策を施してもらいたいものだ。(ZUU online 編集部)