少子高齢化の急速な進展・医療技術高度化・薬剤価格の高騰等を背景に、医療費は増え続けている。昭和60年には16兆円だった医療費は、10年後の平成7年には27兆円、平成17年には33兆円、30年経った平成27年には43兆円に達した。

一方で一人当たりの医療費は、俗に「大往生」とも呼ばれる老衰による死亡率と逆相関の関係にあることが明らかになってきた。加えて、米国と違って健康・寿命に地域差が少ないと言われてきた日本でも、大きな自治体格差が存在することもはっきりしてきた。

長寿化の影響で大往生は増え続けている

医療費問題
(画像=PIXTA)

死亡原因の順位は、時代の移り変わりとともに変化している。戦前から戦後しばらくの間ずっとトップだった結核(人口10万人対死亡率200人)は、今では統計データから消えている。一方悪性新生物(ガン)は、1981年に脳血管疾患を抜いてから、一貫してトップの座にあり、死亡率は300人に達する。

老衰による死亡率はガンに及ばないものの、1990年代の16人(7番目、自殺は6位)を底に徐々に増え続け、2016年度は74人に達し、順位も5位まで上昇した。死亡者数も、1990年代の3万人から、2016年には9万人に増加している。この数字は、総死亡者数131万人の6.9%に相当する。

要因は平均寿命の伸長、長生きにある。年代別に見ると75-79歳の場合老衰は10位1.3%に過ぎないが、80-84歳では5位3.5%に上昇、85-90歳では7.4%、90-94歳では3位14.4%、95-99歳ではついにトップ23.8%に躍り出る。老衰による死亡率は男女による差も大きく、比較的長生きの女性が11.0%に対して、男性は3.4%に過ぎない。

老衰とは何か

厚生労働省が発行する死亡診断書記入マニュアルでは、「高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死」の場合を老衰による死と定義している。

たとえ直接の死亡原因が「嚥下性肺炎」だとしても老衰を原因として肺炎を併発した場合には、直接の死亡原因欄にその旨を記載することとされているが、統計上は「老衰」としてカウントされる。老衰が原因かどうかの判断に関しては、多少医師のバイアスがかかると言われている。

地域によって大きく違う老衰の死亡率

こうした死亡原因は、地域によって大きく異なる。老衰による死亡原因の地域格差を、厚生労働省の統計資料「標準化死亡比・主要死因・市区町村別」に基づき検証した。

その結果、男性の場合、全国平均を100とすると茅ヶ崎市(神奈川県)の210.2なのに対し、茨木市(大阪府)では30.9であり、その格差は6.8倍に達することが分かった。茅ヶ崎は女性でも全国平均に対し170.2を記録している。ちなみに下位4位までは、茨木市の他、寝屋川市、枚方市、吹田市と大阪府郊外が独占している。

老衰死亡率が高い自治体は医療費も安い

この老衰後死亡率と、医療費とには相関関係が見られる。老衰死亡率が高い茅ケ崎の一人当たり医療費が35.5万円と、全国平均を5万円下回る。対して茨木市の場合は41.7万円と全国平均をやや上回る。75歳以上を対象とした後期高齢者医療制度に係わる医療費に絞ると、相関関係はより顕著となる。茅ヶ崎市の医療費が81.5万円で全国平均の93.4万円を、11.9万円下回る。

一方で茨木市は106.4万円と、全国平均を13.0万円も上回る。ガンに罹患すると、一般的には手術・薬剤などの加療が必要で医療費がかさむ。長期の入院を擁するケースも増え、ベッド代もかさみがちだ。老衰なら終末期を病院以外で過ごすケースも増え、医療費が抑制できる。

ちなみに全国平均を上回るような自治体が全て茅ヶ崎市並みに医療費を抑えれば、日本全体で2.3兆円の医療費を削減できる。

複合的な視点で地域差をなくす

もちろん、医療費の地域差は老衰死亡率だけが要因ではない。例えば後期高齢者一人当たり医療費のワーストには、高知市・南国市・土佐市・長崎市・指宿市など九州・四国地方がずらりと並ぶ。こうした減少の要因を解析し、解決策を見出すことが医療費削減につながる。(ZUU online編集部)