アリババグループの金融会社アント・フィナンシャル(螞蟻金服)の個人貸付残高が6000億元(1兆380億円)を超えた。ただしアント・フィナンシャルはこれで満足しているわけではない、とニュースサイト「鳳凰網」が伝えた。アリババグループの金融業務はどこまで進み、どこへ向かっていくのだろうか(1元=16.73日本円)。
消費者金融で大銀行超え
中国人民銀行(中央銀行)による、国内の個人向金融に関する統制はやむことがない。アント・フィナンシャルもその例にもれず、貸借サービスが危険水域に陥らないよう常にチェックを受けている。そうした中、驚くべきニュースが伝えられた。アント・フィナンシャルの消費者金融貸出規模が、6000億元を超えたというのである。
この金額はどう評価すべき金額なのだろうか。時期は少しずれるものの2017年6月末における、各銀行の消費者向け貸付残高データがある。(貸付残高/2016年末比伸び率)
光大銀行(国務院、光大集団系)3723.52億元 ▲17.0%
平安銀行(中国平安保険集団系)2770.90億元 データなし
工商銀行(国有四大銀行の首位)2600.48億元 ▲5.3%
農業銀行(国有四大銀行の2位)1644.70億元 ▲7.3%
建設銀行(国有四大銀行の3位)1580.76億元 ▲110.66%
招商銀行(民営、富裕層の支持)840.77億元 ▲31.19%
以上のようになっており、国有四大銀行、企業グループ系銀行、すべての銀行を大幅に上回っている。アント・フィナンシャルの顧客はこの1年で1億人増え、5億人に達した。そのうち花唄(商品名)顧客は、月平均700億元、借唄(商品名)顧客は月平均3000億元借りている。すでにアント・フィナンシャルは、完全に銀行システムを備えている。そして2017年初めから現在にいたるまでの期間、アント・フィナンシャルはどこよりも融資を拡大した。
それぞれの主力商品
アリババグループには、淘宝(C2Cネット通販サイト)天猫(B2Cサイト)支付宝(モバイル決済アリペイを運営)などから巨額の現金が流れ込む。さらに「余額宝」「余利宝」などの貯蓄商品で現金を引き寄せている。
・余額宝……支付宝から出し入れ自由のMMF。年率換算4%前後の高い利息。人気沸騰のため新規預入は10万元に制限されている。
・余利宝……アリババ系の天弘基金と網商銀行が共同運営する投資信託。個人限度額1000万元、企業5000万元まで。主要顧客は中小企業や中小企業経営者。利率は余額宝を上回る。
これに対して貸出商品の中心は以下の2つ
・花唄……2016年8月、ABS(Asset Backed Securities)資産担保証券化融資の商標として、上海証券取引所の認可を受ける。500~5万元までの限度額を設定し、この範囲内なら先に消費し、後から借りることも可能。淘宝、天猫の出店業者は誰でも利用できる。
・借唄……利用申請できるのは芝麻信用(アリババグループの信用調査機関)600点以上の人。限度額は1000元から30万元。貸付期間は最長12カ月。
中国の資産担保証券市場の90%以上は、アリババ系で占めている。ただしこれらの主力商品の合法性については、完全に決着がついていない。規制のリスクは高い。
アリババの次なる目標は
大銀行の中では中国建設銀行が、消費者向け貸出残高を大きく伸ばしている。その建設銀行は、真っ先にアリババと提携した銀行だ。アリババの持つ消費者のデータが貢献していると見られる。また多くの地方銀行グループとも提携関係にあり、もはや金融界の盟主的な存在といってよい。
2017年の後半から「次にアマゾンが手中に収めるのは金融街か、銀行がアマゾンに敗北するのはいつか」などのアマゾン関連記事が目に付くようになった。しかし中国では、とっくにアリババが金融界を席巻し、そうした状況に突入している。
次の目標は、アント・フィナンシャルを上場させさらに資金を調達することだろう。今年Pre-IPO融資が実現すれば、アント・フィナンシャルの市場価値は少なくとも1000億ドルと見積もられている。
ともかく、規制をかいくぐりながら貸付を6000億元にまで増やした手腕は、驚くべきものだ。記事は、今後どこまで消費者金融の成長空間が残っていいるのか、言い当てるのは困難としている。
全人代による新人事、規制当局の組織変更(銀監会と証監会の合併?)などを控え、国内金融の動きは、上半期に関しては平穏に推移しそうだ。アリババグループの注目点は、ニュースの絶えない、O20融合新小売業の進展ではないだろうか。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)