「貿易戦争」の懸念高まり 金融・資本市場も動揺

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(画像=PIXTA)

トランプ米政権は中国からの輸入品に高関税を課す制裁措置を発動する方針を決めた。

制裁対象の製品リストは近々公表されるが、1300品目で総額500億~600億ドルに達する見込みだという。

これに先立ち、同政権は鉄鋼とアルミニウムの輸入制限措置を発動した。

鉄鋼に25%、アルミに10%の関税を課す。

暫定的にカナダや欧州連合(EU)など7カ国・地域を適用除外とするが、日本は対象国となり、対米輸出品に関税が適用される。

「貿易戦争」の懸念が高まり、金融・資本市場も大きく動揺した。

中国製品に高関税を課す対中制裁。

その背景にあるのが知的財産権の侵害だという。

電気自動車など国際競争が激しい分野で中国に先端技術を奪われており、その被害額が年間500億ドルに相当するとトランプ政権は主張する。

それが制裁対象品の総額500億~600億ドルの根拠だ。

いったい誰のための制裁措置なのか

この対中制裁を巡ってはすでにあれこれ言われているが、僕がいちばん疑問に思うことは、「誰のために」おこなう制裁なのか?という点だ。

知的財産権を侵害されたから制裁を科すというなら、知的財産を侵害されたひと(企業)のためだろう。

では、中国からの輸入製品に高関税を課すことが、知的財産を侵害されたひとの「ため」になるかと言えば、まったくそんなことにはならない。

先に電気自動車という例を挙げたが、それは知財のほんの一例で、米国の知財の代表といえば、やはりITである。

中国からのIT製品などが高関税の制裁リストに載りそうだが、実は中国から米国へのIT製品輸出というのは米国のIT企業の受託製造先の製品である。

すぐに思い浮かぶのはアップルのiPhoneだ。

「デザイン・イン・カリフォルニア、メイド・イン・チャイナ」はもうだいぶ前から国際的な分業体制の代名詞である。

そうしたモノづくりの効率性が米国IT企業に巨額の利益と市場シェアをもたらしてきた。

その過程で、ノウハウの一部が中国に流出するのは避けられない。それは承知のうえで米国企業はコストを重視したのである。

中国からIT機器に高関税がかけられれば、結局は米国のユーザーのコスト増になり、困るのは米国の消費者であり、米国の企業だ。

こうなると知的財産権の侵害という「お題目」は、米国と中国の大国としての覇権争いの材料にされているだけのように思える。

それはグローバルに展開する米国のIT業界にとっては迷惑このうえないに違いない。

"通商政策での人気取り"は 全く効果なし

前段の「誰のために」おこなう制裁なのか?という点に戻ろう。

結局はトランプ大統領の支持率アップ、秋の中間選挙をにらんだ選挙対策のパフォーマンスなのだろう。

わかりやすいのは鉄鋼とアルミニウムの輸入制限措置である。これがペンシルバニア州で実施された下院補欠選挙を意識してのものであったのは明白だ。

鉄鋼産業で知られるペンシルバニア州には、有権者の中に鉄鋼業界関係者が多く、補欠選が実施された選挙区は、鉄鋼の街ピッツバーグに近い。

トランプ大統領はこうした地域の有権者の取り込みを狙い高い輸入関税を課す方針を打ち出したのであろう。ところが、結局、そこまでしても共和党候補は民主党候補に敗れてしまった。

この選挙区は大統領選でトランプ氏がクリントン氏を20ポイントの大差をつけて勝った場所であり、トランプ氏の支持基盤だ。

そこで共和党候補が敗れた現実から、通商政策での人気取りなどまったく効果はないと普通の人であれば学ぶはずである。

大きな拳を振り上げた対中制裁だが、まだ二転三転するだろう。

最終的にどのような落としどころになるか要注目である。

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト

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