日本を代表する経営者の三木谷浩史氏が率いる楽天は、携帯キャリア事業への参入を表明した。格安スマホではない。基地局を始めとした通信網を整備して、既存キャリア3社に殴り込みをかけようというのだ。
家計に占める通信費負担は年々増加し、家計全体を圧迫している。ただし料金値下げについて各社の抵抗は激しく、一筋縄ではいかない。既存キャリア3社は、上場企業の中でも突出して高い利益を上げている。寡占なので競争原理も働かない。
あえて挑戦する楽天だが、壁は厚い。そこにはどんなハードルがあるのか、それでもあえて勝算ありとする楽天の戦略は何かを探る。
家計に重くのしかかる通信費負担
政府発表の家計調査によると、2000年の可処分所得(2人以上の勤労者世帯)は月47.4万円、うち通信費は10.5万円で支出に占める割合は2.2%だった。その後、長期的な経済不況の影響や社会保険料負担増等の影響で消費支出は低迷し、2016年には43.4万円にまで落ち込んだ。
一方で通信費負担は毎年増え続け、2016年には1.67万円、支出に占める割合も3.9%に達した。内訳を見ると、固定電話分が漸減しているのに対して、携帯電話分は増加傾向にあり、2016年時点で携帯は固定の4倍に達している。
更に通信費は、低所得世帯に重くのしかかる。所得第Ⅴ分位(上位20%)の通信費負担(対可処分所得)が2.8%なのに対し、第Ⅰ分位(下位20%)は6.7%だ。
寡占利潤を享受する既存キャリア3社
携帯市場のプレーヤーは、周波数帯の割当てを受けて自前の通信網を抱えるMNO(Mobile Network Operator)3社(NTT・ソフトバンク・KDDI)と、MNOからネットワークを借りてサービスを提供する、マイネオなどのMVNO(Mobile Virtual Network Operator)に大別される。
総務省は公正な競争の実現をめざしMVNOの参入を促しているが、MNO3社の壁は厚く、契約総数1500万件のうちMVNOのシェアは4.7%に過ぎない。
一方で、MNOは何千億もの設備投資を要するビジネスであり、新規参入は容易ではない。そうした事業環境下でMNO3社間の競争原理が働かず、「協調的寡占」と呼ばれる状況が生じてしまった。
各社の料金プランは横並びなうえ、スマホ料金は諸外国に比べても高止まりしている。一方で、3社の営業利益は1兆円近くに達し、上場企業ランキングではいずれもベスト5に入っている。
第4の携帯キャリア勝算と課題
リリース資料によると、楽天はMNO事業参入により今の寡占市場に風穴を開けて競争的環境を生み出し、低廉な携帯料金実現と、社会全体の便益向上を目指している。課題は、周波数割り当てと基地局設置などの投資負担だ。 楽天はMNO事業のために新たに1.7GHZ帯と3.4GHZ帯で周波数の割り当てを受けようという腹積もりだ。この周波数帯域は、従来防衛省や放送事業者が使用していた。この枠を総務省は移動通信網に開放する。理由は、増大する携帯電話トラフィック(通信量)への対応だ。
この枠を巡ってはNTTも申請済みだが、割当審査に当たっては新規事業者を加点するとしており、楽天にも十分勝算はある。設備投資だが、楽天は基幹網の効率化などにより6000億円に抑える計画だ。一方で、NTTドコモを例にとると、LTE・伝送装置・情報システムの改善・拡充で年間6千億を使っている。投下資本の合計は、土地を除いても2.8兆円に及ぶ。
こうした中で、楽天の投資額を非現実的とみる向きも多い。楽天が携帯キャリア算入をリリースした12月14日、楽天の株価は急落した。厳しい事業環境に市場が懸念を示した格好だ。ただし楽天だけではなく、既存携帯キャリアも株価を下げている。「楽天の参入で寡占によって価格競争が発生し、超過利潤が失われる」というのが投資家の見方だ。
競争の激化は、既存キャリアにとってマイナスだが、通信費負担に苦しむわれわれユーザーにとっては朗報だ。健全な競争環境下で、携帯料金が適正プライスに下がることを期待したい。(ZUU online 編集部)