少子高齢化が進む中、経営者の年齢も上昇傾向にある。2012年11月に中小企業庁が行った「中小企業の事業承継に関するアンケート」によると、経営者の平均引退年齢は67~70歳。しかし、中には70~80代になっても事業承継問題が片付かず、リタイアできない経営者もいるようだ。特に実子や親族、従業員などを後継者とする場合、事業のバトンタッチには5~10年ほどかかるといわれている。
優良企業であるのに後継問題が手遅れになり、廃業を選ぶのは社会の損失だ。手遅れになる前に事業承継計画を策定し、後継者問題解消に向けた最初のステップを始めよう。
まずは親族・関係者や資産状況について整理
事業承継計画は、実子や親族、従業員などを後継者とする場合に必要となる。計画を策定する前に、まずは事業承継にかかる関係者の状況(親族の後継者候補や社内のキーマンとなる役員、従業員など)を整理しよう。「後継者となる実子や親族がいるか」「いる場合にも事業を引き継ぐ意欲や能力はあるか」など、経営者としての公平な視点から見ていく必要がある。
特に職業選択の自由を重視する現代では、実子にどうしても継がせなくてはいけないというわけではない。日本の老舗は、実子に後継者がいない場合は、娘婿や養子に継がせるなど柔軟に対応してきた。後継者本人の意思や意欲も大切なのだ。また、同時にこれまで会社を支えてきた社内のキーマンについても整理しよう。後継者をもり立てて番頭役となる顔ぶれでもある。
親族内承継の場合、ネックとなるのは自社株の買い取りや相続税の支払いにかかる資金だ。経済産業省の「2017年度版中小企業白書・小規模企業白書」によると、後継者の贈与税・相続税の負担が事業継承の課題と感じる人は64.5%となっている。経営者個人の資産状況のほか、会社が保有する資産についても明らかにし、相続税が発生した場合に備えてどれくらいの資金が必要となるかも試算しよう。
中長期的な経営方針や目標は後継者とともに策定する
後継者候補が具体的に決まったら、自社の中長期的な経営方針、方向性、目標をまとめよう。「事業規模はどれくらいか」「今後も今の事業領域にとどまるのか」「それとも新事業にチャレンジするのか」などといった点だ。このときに、売上高や経常利益など具体的な数値目標も掲げると、計画が具体的になりやすい。また、具体的にいつ経営のバトンタッチをするのかという時期も決めておく。
事業承継後、実際に計画をコミットするのは後継者だ。中期経営計画の策定は候補者も交えて行おう。策定した内容を共有するだけでなく、策定過程でのすりあわせを図ることで、意識の共有もできるはずだ。そして、後継者を支える幹部社員や取引先、金融機関などとも経営方針を共有しておくと、船出がスムーズになるだろう。
事業に対する経営者の「想い」も引き継ごう
経営上の事業計画とともに、事業に対する経営者の「想い」も引き継ぎたい。日本は、創業100年以上となる老舗企業が全国で3万3,069社(東京商工リサーチ調べ、2017年時点)も存在する老舗大国だ。こうした老舗は、時代が移り変わる中でも経営理念や社風を引き継ぐことでのれんを守ってきた。会社の「強み」を失わないためにも、理念の継承が必要だ。
「いつ、どのタイミングで、どういった思いから起業したのか」といった振り返りをしよう。また、事業の転機やこれまで乗り越えてきた危機があれば、そうした歴史も共に伝えることで、次世代の成長につながるはずだ。
還暦を迎えるころに始めたい事業承継計画
経営者の平均引退年齢が67~70歳ということを考えると、還暦を迎えるころには、事業承継計画の策定に着手しなければならないということになる。しかし、事業承継の大切さは理解していても、日々の忙しさの中で、何から手を着けたらいいのか分からないということもあるだろう。会社を磨き上げて次世代に引き継ぐことは、経営者の最後の責務でもある。
上記のステップを参考に、一度会社をとりまく状況や後継者に対する想いなどを書面に書き起こしてみることで、具体的に見えてくることもあるはずだ。(提供:百計オンライン)
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