後継者に事業を託すための構成要素は「人(経営)」「資産」「知的資産」の3つだ。このうち、知的資産の承継には「知的資産経営報告書」などの作成が非常に有効となる。経営者の思いや企業価値を伝え、事業価値を高めるレポートの作成ポイントを見ていこう。

知的資産や知的資産経営とは何か

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(写真=turgaygundogdu/Shutterstock.com)

知的財産は、財務諸表などに表れないが競争力のもととなるものだ。知的資産経営報告書は、企業価値の源泉である「知的資産」を明確に認識し、それらを活用するために作成する。知的資産・知的資産経営について、経済産業省は以下のように定義している。「知的資産」とは、人材や技術、組織力、顧客とのネットワークなど企業が独自に保有する目に見えない資産のことである。

特許やノウハウなどの「知的財産」だけではない。組織や人材、ネットワークなどの企業の強みとなる資産を総称する幅広い考え方になる。企業固有の知的資産を認識することも重要だ。うまく組み合わせることにより収益につなげていく経営を「知的資産経営」と呼ぶ。1998~2001年にかけて欧州で実施された「MERITUMプロジェクト」では、知的財産の以下の3分類に分けて考えている。

・人的資産(human capital)
退職したときに従業員が持ち出す資産
例)イノベーション能力、想像力、ノウハウ、経験など

・構造資産(structural capital)
退職したときに従業員が企業内に残留する資産
例)組織の柔軟性、データベース、文化、システムなど

・関係資産(relational capital)
対外的関係に企業が保有するあらゆる資産
例)イメージ、顧客ロイヤリティ、顧客満足度など

一方、日本の製造業の強みといわれる以下のような項目も、他国との競争に打ち勝つための知的財産だ。

・製品の細部へのこだわり、技術やノウハウ
・顧客とともに問題解決を図り、製品開発に生かそうとする意識やコミュニケーション能力
・レベルの高い消費者の存在とネットワーク
・品質への信頼に裏打ちされた商品、サービス、企業のブランド力
・従業員の能力・スキルの高さ、安定した雇用や組織
・技能者の裾野の広さや技術力

日ごろ「当たり前」と思って意識していないことが、実は競争力や差別化につながっているというケースは少なくない。こうした強みを見逃さないためにも、知的資産経営報告書をしっかりとまとめておこう。

知的資産経営報告書の書き方

知的資産経営報告書に決まった書き方はない。参考までに、経産省が「事業価値を高める経営レポート(知的資産経営報告書)作成マニュアル」の中で記載事項として取り上げている項目は以下の通りだ。

1.企業理念
2-1.企業概要
2-2.企業の沿革
3-1.環境と自社のポジション・機会・脅威・業界環境と自社のポジション
3-2.内部環境とビジネスモデル・ビジネスモデル・自社の強み・自社の課題
4.価値創造ストーリー・過去から現在のストーリー・現在から将来のストーリー
5.今後のビジョン
6.知的資産活用マップ

難しいことは考えずとも、下記のような内容は身近なところから落とし込んでいきたい。

・自社の技術で他社に負けない部分はどこか
・高いスキルを持つ職人はいないか
・これまで培ってきた技術を他分野に応用できないか
・技術の応用で新事業にチャレンジできる可能性はあるかなど、

次のステージへ飛躍するためのきっかけづくりに

経営者の交代は、企業が次のステージへ飛躍するためのきっかけにもなりえる。事業価値を見つめ直し、最大化して次世代に引き継ぐのは、経営者の最後の務めだ。知的資産経営報告書作成のプロセスを通じて、自社の強みを改めて確認するとともに、後継者や周囲の従業員と共有し、金融機関や取引先などへのアピールにもなる。

また、知的資産経営報告は、会社案内やスローガンよりも企業の特徴や強みを直接訴求できることから、事業承継にあたっての資金調達や取引先の新規開拓にも有効活用できるだろう。(提供:百計オンライン


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