不動産投資は、会社経営に例えられる。毎月入金される家賃から、借入金元本や利息、水道光熱費やメンテナンス費用などを引いてキャッシュフローが回るかを常に考える必要があるためだ。その際、忘れてはならないのが「税金」の存在だ。

物件を所有する上では空室リスクや金利変動による利息金額の変動などの予測できないケースも多々あるが、税金の支払いはある程度事前に見積もることが出来る。当然のことながら所有物件からのキャッシュフローは、いろいろな税金を差し引く前でなく、税引き後の手取り金額で投資効果を測る必要がある。

不動産投資では避けて通れない税金と上手に付き合う方法とは。減価償却や個人と法人の税率差を活用した節税スキームとはどのようなものだろうか。

減価償却の上手な活用

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(画像=Devrim PINAR / Shutterstock.com)

不動産投資を行う上で、減価償却費は損益計算上とても重要な項目だ。

ごく簡単に記せば、減価償却とは不動産投資で購入した建物価格をいったん貸借対照表に計上し、それを法定耐用年数で割って費用処理していくことをいう。文字通り建物の価値を減額していく経理処理だ。

建物の法定耐用年数は、木造22年、鉄骨鉄筋RC造47年(ともに住宅用)と決まっており、損益計算書上はこれをもとに損金として計上することが可能だ。

仮に自分が所有している土地に5000万円のRC造の新築マンションを建てたと仮定しよう。もしそれを手持ちの現金でまかなった場合、現金が建物に代わったわけだが、この5000万円が建物を建てた年に一括で損金算入できるわけではない。RC造の場合は47年の償却率0.022を使用し、「5000万円×0.022=110万円」が帳簿価格1円になるまで毎年損金算入することになる。

減価償却の最大のポイントは、「お金が出ていかず、毎年損金算入できる(このケースだと110万円)点にある。キャッシュフロー表には計上されないが、税金計算の基となる損益計算書には経費として損金算入できることだ。

不動産投資の上級者ともなると複数の物件を持つケースもあるが、その場合、トータルの税引き後損益を考え、わざと木造の中古物件を購入することで、上手にタックスマネージメントを行うケースもある。木造物件の法定耐用年数は22年と短い、さらに法定耐用年数の一部を経過した中古物件の場合、下記の式で減価償却期間を算出する。

(法定耐用年数—経過年数)+経過年数×20%

例えば築18年の木造物件の場合、下記となる。

(22年—18年)+18年×20%=7年 ※小数点は繰上げ

7年という短期での償却が可能になり、帳簿上の利益を効果的に圧縮することが可能だ。

個人と法人の税率差を活用しよう 不動産経営の法人化メリット

ある一定規模以上になると、法人を設立してその法人が物件の所有者となることもタックスマネージメントの一手法だ。

不動産投資で法人化を考える理由は、当然のことながら、所得税と法人税の税率の違いだ。平成30年の税制大綱が2017年12月に発表され、所得税の増税と法人税の減税の流れが押し進められた。これは、国際的にみて高い法人税率を下げようとする目的と、所得税の中でも特に給与所得に課される税額と法人に課される税額では、構造上所得税に課税されるものが少なくなる傾向があり、それを是正する方向で法改正が行われた。この「所得税増税」「法人税減税」のトレンドはこれからも続きそうだ。

ではなぜ一定以上の課税所得となると法人化した方が有利なのだろうか、具体的に見ていこう。

現在、所得税の累進課税は5%から45%までの7段階だが、法人税は2段階とシンプルだ。 この両者の比較をする時、地方税や事業税を含めた実効税率で考える必要がある。

所得税の実効税率は、所得額が500万円で23.8%、800万円で28.6%、1000万円で31.6%となる(あくまで概算)。一方、法人税の税率は、資本金1億円以下の中小企業の場合、所得800万円以下の部分については19%、800万円を超える分については23.4%となる。法人にも地方税や事業税が課税されるので、それを踏まえた実効税率は、所得500万円で24.4%、800万円で24.6%、1000万円で27.1%となる。

実効税率ベースでの所得税と法人税の比較をした場合、所得が800万円だと、法人税の方が低い税率となる。法人化した場合、投資家自身が法人の取締役となれば、「役員報酬」という名目で会社から給与をもらうことが出来る。給与であるので、所得税法上とても有利な「給与所得控除」を受けることが出来ることもメリットだ。

また、適正額であれば、役員退職金も支給することができ、その手段として小規模企業共済や逓増定期保険、長期平準定期保険などの生命保険商品を使うことでその費用を損金として落とすこともできる。

物件を売却した時にかかる税金も全く異なってくる。所得税の場合、物件取得から5年以内に売却した場合は短期譲渡所得となり、その売却益に対して所得税と住民税を合わせて39%、5年超の場合は長期譲渡所得となり所得税、住人の合計で20%の税率で課税される。一方、法人税の場合、法人税課税所得に対して前に述べた税率で課税される。

法人化のデメリット

一方法人化する時のデメリットもある。登記などの法人設立費用がかかる、法人としての銀行口座を準備する必要がある、法人税申告書を作成する必要があり税理士などの費用がかかる場合もある、赤字でも毎年地方税の均等割がかかる、などが挙げられる。

このように、いわゆる「法人成り」を行うタイミングは、物件の規模、そこから発生する所得を考慮して決めることが重要なのだ。

マネーデザイン代表取締役社長 中村伸一
学習院大学卒業後、KPMG、スタンダードチャータード銀行、日興シティグループ証券、メリルリンチ証券など外資系金融機関で勤務後、2014年独立し、FP会社を設立。不動産、生命保険、資産運用(IFA)を中心に個人、法人顧客に対し事業展開している。日本人の金融リテラシーの向上が日本経済の発展につながると信じ、マネーに関する情報を積極的に発信。