貸出動向: 貸出の伸び率は再び2%割れ

貸出・マネタリー統計
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●貸出残高

6月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、5月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比1.92%と前月(同2.01%)から低下し、再び2%の節目を割り込んだ(図表1)。伸び率の低下は2ヵ月ぶり。地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比3.4%(前月も3.4%)と堅調に推移したが、都銀等の伸び率が前年比0.3%(前月は0.5%)と再び弱含んだ(図表2)。都銀では、M&A資金など大口貸出による押し上げ効果が一巡している模様で、伸び率が低迷している(図表3・4)。

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次に、為替変動等の影響を調整した実勢である「特殊要因調整後」の銀行貸出伸び率(図表1(1)を確認すると、直近判明分である4月の伸び率は前年比2.30%と2月の2.27%からわずかに上昇した。見た目(特殊要因調整前)の銀行貸出の伸び率は3月(1.87%)から4月(2.01%)にかけてかなり上昇していたが、上昇分のうち大部分が円高是正に伴う外貨建て貸出の円換算評価額増加であったため、「特殊要因調整後」の伸び率上昇幅は小幅に留まっている(図表1)。

5月の「特殊要因調整後」伸び率は未判明だが、5月のドル円レートの前年比円高幅は4月とほぼ変わらないため(図表4)、特殊要因調整後の伸び率低下幅は見た目の伸び率低下と大差なく、前年同月比2.20%程度になったと推測される。

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(1)特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは4月分まで。

●業種別貸出動向

3月末時点の業種別貸出動向を確認すると、電気・ガスをはじめ、宿泊、不動産、その他サービスなどサービス業の伸びが高い一方で、食料、電気機械、化学といった製造業の伸びが低い状況となっている。この構図自体は従来と変わらないが、直近は特に製造業の伸び率低下(マイナス幅拡大)が目立っている。

より長い期間における貸出の伸びに対する主な業種別の寄与度を見ても、製造業の寄与度はほぼゼロの状況が続いている(直近はマイナス寄与)。一方、近年高い寄与が続いているのが不動産業(個人のアパートローンを含む)と、個人向けである。個人向けの大半が住宅ローンであることを鑑みれば、ここ数年の銀行貸出の伸びを支えてきたのは主に不動産領域と言える。足元では伸びが一服しているが、寄与度自体は高く、超低金利が不動産貸出の追い風になっている様子がうかがわれる。

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●貸出金利

3月の新規貸出平均金利については、短期(一年未満)が0.631%(2月は0.465%)と過去最低であった前月から上昇したが、一方で長期(1年以上)が0.638%(2月は0.739%)と低下し、過去最低を記録した(図表7)。超低金利が長期化するなかで、銀行間の激しい競争が金利の低下圧力になった可能性がある。

日銀が長短金利操作によって強力に金利の抑制を続けている以上、貸出金利が明確に上向く可能性は低い。

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マネタリーベース: 9ヵ月ぶりに伸び率が上昇、減速が一服

6月4日に発表された5月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は8.1%と、前月(同7.8%)からやや上昇した。伸び率は相変わらず1桁台だが、9ヶ月ぶりに上昇に転じた。内訳のうち、約8割を占める日銀当座預金の伸び率が前年比9.4%と前月(8.9%)から上昇したことが主因である(図表8・9)。

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一方、5月末のマネタリーベース残高は493兆円で前月末から5.7兆円の減少となった。ただし、5月は季節柄、資金吸収要因である財政資金の受け超になりやすいほか、国債の発行超も大きい傾向があるため、日銀当座預金が増加しにくいという事情がある。実際、季節要因を取り除いた前年同月差では、36.7兆円増と前月(36.1兆円増)を上回り、季節調整済みのマネタリーベース(平残)も、前月比6.6兆円増と前月から増加している(図表10)。日銀の国債買入れペースは鈍化が続いてきたが、5月は前年比32兆円増(短期・長期国債合計、前月は29兆円増)とやや持ち直したため、その裏返しとなるマネタリーベースの増勢回復に繋がった(図表11)。

ただし、今後も日銀の国債買入れによって市中に残存する国債残高が減少に向かうため、日銀の国債買入れペースは中期的に縮小に向かい、マネタリーベースの増加ペースも徐々に鈍化していくと見込まれる。

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マネーストック: 投資信託は6ヵ月連続のマイナスに

6月11日に発表された5月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.17%(前月改定値も3.17%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.71%(前月改定値は2.73%)とともに前月からほぼ横ばいとなった(図表12)。

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M3の内訳を見ると、最大の項目であり、全体の約半分を占める預金通貨(普通預金など)の伸び率が前年比6.5%(前月改定値も6.5%)と横ばいになった(図表13)。それ以外では、次に残高の大きい準通貨(定期預金など、前月改定値▲1.4%→当月▲1.3%)の伸びが若干マイナス幅を縮小する一方、現金通貨(前月4.3%→当月4.1%)の伸び率が低下するなどまちまちな結果に。

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M3の伸び率は昨年10月をピークに低迷している。背景には、貸出の伸び率低下に伴う信用創造の減速があると考えられる。 なお、M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比3.05%(前月改定値は3.13%)と、やや低下した(図表12)。

内訳では、既述の通り、M3の伸び率がほぼ横ばいであったほか、残高が大きい金銭の信託(前月改定値7.3%→当月7.6%)の伸びがやや拡大したが、注目度の高い投資信託(元本ベース・前月改定値▲1.1%→当月▲2.6%)がマイナス幅を広げたため、広義流動性全体の伸び率低下に繋がった(図表14)。

5月のマーケットは概ね安定していたが、米国の保護主義政策や米朝関係の行方、欧州政治不安などから先行きの不透明感が強い状況が続いたため、リスク性資産への投資が引き続き停滞したとみられる。

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上野剛志(うえのつよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

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