シンカー:6月FOMCの議事要旨から多くの新しい情報は得られなかったが、景気については、来年の比較的遅くまで金利を引締め的にすることが必要となるぐらい「非常に力強い」という見方が参加者の大勢を占めているようだ。米国のインフレ率も引き続き2%程度とFRBの政策目標近くで推移している。英国では新しく月次GDPデータが発表され、堅調な経済活動が確認されるだろう。貿易戦争のリスクは資産クラス全体のバリュエーションに影響を及ぼしているが、経済指標にはそのリスクがまだ目に見える形で顕在化していない。主要国の中央銀行関係者は景気見通しに対するリスクに注視しながら、政策の正常化を続けていくようだ。一方、新興国経済では、金融政策正常化・引き締めによるグローバルな金利上や貿易戦争のリスクなどが景気の先行き不透明感を強め、資金流出につながっているようだ。しかし、今後、先進国のの金融政策引き締めが緩やかなものになるとの見方が強まり、また、貿易摩擦などの先行き不透明感が後退すると、新興国へ資金フローは再び再開する可能性があるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

●米国経済(7/10):6月CPI…総合、コアとも上昇は控えめの見込み

米国の6月消費者物価指数(CPI)の上昇率は、前月比では「総合」が0.1%、コアが(低水準といえる)0.2%になった可能性がある。これらが実現すれば前年同月比の上昇率は、「総合」が2.8%から2.9%に押上げられるが、「コア」は(2.3%に小幅加速する余地も残っているものの)2.2%になるとみられる。なお6月総合CPIの原指数(季節調整前)は、252.037になると弊社は見込んでいる。

●英国経済(7/9):月次GDPデータで、Q2の景気回復を確認へ

ONS(英国立統計局)は7月10日に、月次のGDPデータを初めて発表する。成長率は、2月の前月比マイナス0.2%から、5月は力強く回復して同プラス0.6%になったとみられる。3カ月/3カ月で比較した成長率も、0.1%と低迷した4月から、5月は0.3%に復調するだろう。6月も大幅に力強くなったと見込まれる。こうしたデータによってBOEは、経済活動が第2四半期に回復したこと(これは8月に利上げを行うために必要な条件)を再確認するだろう。

●米国経済(7/6):FOMC議事要旨…リスクが高まる中で、FFレートが景気抑制的な水準になると示唆

6月FOMCの議事要旨から多くの新しい情報は得られなかった。だが景気については、来年の比較的遅くまで金利を引締め的にすることが必要となるぐらい「非常に力強い」という見方が参加者の大勢を占めた(景気見通しに対するリスクが高まっていることも認めていたが)、という印象が残った。

6月FOMCの議事要旨によると、徐々に引締めを進めることが、引続き適切な行動になると「多くの」参加者が感じていた。その理由は、(財政政策に関係する)上方リスクと(関税や海外動向の推移に根差した)下方リスクをバランスさせるからだ。金融政策引締めを徐々に進めることは、動きが過度に速い・遅いのいずれでもないため、高官達の大半は、徐々に引締めを進めることに引続き傾いている。しかしFRB高官達は、引締めを徐々に進めても、FFレートはおそらく来年のある時点で、景気抑制的な水準に達するとも見込んでいた。実際、景気が「非常に力強く」、インフレも中期的に目標並みで推移すると見込まれる中、「FFレート誘導目標を引続き徐々に引上げ、2019年か2020年までに(FOMC参加者が推定する)長期水準並みか、やや上回る水準にすることが適切になろう」という。よって金融政策は(FRB幹部も、貿易に関するものを始めリスクが高まっていると明らかにしているが)、今後18-24カ月は多少引締め的となる方向に、引続き進んでいる。

●外国債券(7/9):笑って耐えよ

貿易戦争のリスクは資産クラス全体のバリュエーションに影響を及ぼしているが、経済指標にはそのリスクがまだ目に見える形で顕在化していない。一方で、欧州のリスクは市場のセンチメントを圧迫しつつある。債券市場はまるで凍りついたかのようだ。ユーロ金利のペイヤー・スワップションとレシーバー・スワップションの売買高比率は、欧州中央銀行(ECB)の利上げ観測が極めてハト派的であるにもかかわらず、いまだ金利の方向に確信が持てない市場の現状を表している。

貿易戦争への懸念は、債券ポートフォリオにおいて物価連動債をオーバーウエートすることを正当化している。弊社は、先行き不透明感と流動性状況の悪さを踏まえ、年末に向けてイタリア国債への投資には慎重な姿勢で臨むことを推奨する一方、ユーロ圏の準中核国を対象としたロング・スプレッド・ポジションを選好する。最後に、ユーロ短期金利のリスクが上下に非対称であることは、低コストのベア・トレードに投資妙味があることを示し、条件付きタイプのキャリー・トレードが望ましいということを示唆している。

●アセットアロケーション(7/4):MutualFund&ETFWatch:新興市場からの資金流出がファンダメンタルズを凌駕

新興市場資産からの大規模資金流出で弊社のポジティブな見方に試練:ストラテジストは誰しも、時に自身の判断が試練に晒されることを予期している。弊社は直近のMULTIASSETPORTFOLIO(MAP)で新興市場資産のウェイト引き上げを決定した際、新興市場資産からの資金流出に直面しながらそうすることを承知していた。しかし、米国の金融政策引き締めは緩やかなものとなり、米10年国債利回りの上昇余地は限定的で、米ドルの上昇モメンタムは失われる、というシナリオの中で、弊社は新興市場資産に選択的な投資を行う余地があると考えている。

弊社は新興市場ファンドのフローが大きく改善すると予想:2016年5月以降、新興市場ファンドは2,560億ドルの純資金流入を記録し(下左図)、弊社の月次データベースで追跡している運用資産額(AUM)は2.2兆ドル(運用されている全ファンドの8.6%)に増加している。この力強い成長を勘案すると、過去4週間での資金流出(新興市場債から86億ドル、新興市場株から53億ドル)はドル高と貿易戦争の脅威に影響された一時的なポートフォリオ調整と考えられ、既にピークを過ぎた可能性がある(下右図)。また、資金流出が個別の新興市場国ファンドではなくグローバル新興市場ファンドに集中していることも、このリスクオフ行動が一時的なものであることを示唆している。実際、新興市場資産の中での資産間の相関は依然プラスのままである。

「優良な新興市場」というストーリーはさらに続こう:混乱が落ち着けば、利回り向上の可能性、良好なファンダメンタルズ、一部の資産の割安感、および今後の新興市場指数の入れ替え(新興市場資産、特に中国株・債券のウェイトが拡大する見通し)に惹き付けられた投資家が新興市場資産(特にアジア)に戻ってくると弊社は予想している。これは新興市場資産への新たな関心を引く一方で、投資家がその列に並ぶ時間をほとんど与えないと思われる。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司