グローバル化に伴い、中小企業の海外進出も増加しています。しかし、なかなか簡単なものではなく、うまく行ったケースもあれば、失敗したケースも多くあります。今回は、それぞれのケースから、海外事業におけるポイントを解説したいと思います。

中小企業による海外進出は増加している

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(写真=Montri Thipsorn/Shutterstock.com)

中小企業といえども、もはや海外進出を検討するのは、一般的なこととなっています。中小企業庁の調査によると、中小企業の海外直接投資は年々増加しており、2001年には海外直接投資の中小企業の割合は68.2%だったのに対し、2014年では72.4%に増加しています。

また、海外子会社を保有する割合は、1993年にはわずか6.6%だったものが、2013年時点では14.6%、製造業に限ると、20.8%まで増加しています。このように、もはや、中小企業も、海外進出を検討するのは、当たり前になりつつあると言えるでしょう。

海外進出で成功したケース、失敗したケースとは?

もちろん、海外進出は簡単なものではありません。多くの中小企業が海外進出を試みる中で、成功したケースも、失敗したケースも多くあります。では、具体的に、それぞれの事例を見てみましょう。

●成功事例:綿密なプランニングを行い、差別化で成功
美容室を中国で展開するA社は、2006年に海外に進出して以降、規模を拡大しています。創業当初からアジア市場を見据えており、2005年から現地のリサーチを行い、日本式の美容院にニーズがあることを予見していました。日本式という強みに拘り、教育やトレーニングでサービスの質をキープしていることが成功の要因にあります。

●失敗事例:販売拡大のため進出したものの、うまくいかず撤退に
工場で使用される機械・器具の卸売を行うB社は、受注先の大手企業がシンガポールに進出したことをきっかけに、1970 年代から輸出を実施しています。過去、シンガポールに販売拠点を構え、自社で営業活動を行っていましたが、現地での人材確保がうまくいかず、販売の拡大ができなかったため、現在は撤退しており、現地企業と提携をすることで、海外向け販売を拡大しています。

●失敗事例:現地の従業員からの一斉ストライキで窮地に
精密機器の製造業を営むC社は、人件費削減のため、ベトナムのある地方に工場を設立しました。当初はうまく稼働するかと思った工場ですが、従業員による、賃金の引き上げを求めたストライキに遭い、生産がストップ。従業員による過剰な要求を突っぱねた本社は、現地からの撤退を検討しました。しかし、工場の従業員や地元の人々から、現地から撤退するのであれば、すべての設備をその場に置いてゆくよう強く要求され、結局、それを呑まざるを得ない事態に陥りました。

●失敗事例:予備知識が足りない進出の結果、事業を乗っ取られ
ITベンチャーを営むD社は、IT起業に勤める傍ら、起業を志しているアメリカ人の青年を知人から紹介してもらいました。D社は彼に役員になってもらうかたちで、カリフォルニアに子会社を立ち上げ、順調なスタートを切りました。

D社は現地でのつながりが薄かったものの、役員の青年が孤軍奮闘して従業員を雇い入れ、また現地での取引にも尽力してくれたためです。青年のコーディネートは適切で、子会社は発展したのですが、中核事業が伸びだした途端、青年は現地派遣された日本人社長に対し、株式の譲渡を強く要望しました。社長は当然これを断ったのですが、すると後日、彼は現地の従業員とともに一斉に辞任し、まったく同じサービスを提供する別の会社を立ち上げてしまったのです。

海外進出におけるポイントとは?

こういった事例を踏まえ、海外進出におけるポイントを整理しました。

●まずは事前の徹底リサーチを
現在輸出をしているからといって、必ずしも現地進出が効果的とは限りません。自社の製品、サービスがきちんと受け入れられるかどうか、事前のリサーチというのは非常に重要です。

海外進出においては、あやふやな状態のまま、「きっと売り先があるだろう」と海外に行って、失敗するケースが最も多いです。また、これは、顧客ニーズだけでなく、製造業の場合は、労働力などリソースが十分かどうかなど、徹底したリサーチをすることをおすすめします。

●現地リスクを常に把握しておく
所変われば品変わると言いますが、風土が違えば従業員の気質も働き方も当然変わります。日本人ならば疑いもなく従う事柄であっても、現地の人々からすると強制的で理不尽な指示に見えるかもしれません。もちろんその逆もあり得るでしょう。また国の政策や体制によるリスクも十分把握しておかなければ、ある日突然、会社や工場を閉鎖される憂き目に遭うおそれも否めません。

●いざとなれば本社が対応できる範囲で動く
ただ、コストが削減できるからとか、業種のつながりが大きいからと言った理由で安易に海外進出をもくろむのはおすすめできません。いざという事態が生じた際、収集がつかなくなってしまうからです。海外では、何か問題が起きたことを常に想定し、万一の際にはすぐに対策が取れるよう、場合によっては危機管理チームを発足させるなど、事前の予防策を講じておくことが肝心です。

●本当に「進出」が良いかどうかも、再度検討を
海外での販売や生産拡大するのに、必ずしも海外進出は必要ではありません。B社のように、提携先を見つけ、事業を拡大するという方法もあります。

新興国では、一度進出すると、撤退するのが困難だというケースも多くあります。撤退するのに、多大なる時間やコストがかかることもあり、国内での事業に影響を与えるケースもあるかもしれません。そういうリスクも踏まえ、様々な角度から、どのように事業を拡大すべきかと検討するのがよいでしょう。

●撤退ラインを決めておく
進出するときに、「撤退ラインを決めておく」ことも重要です。海外進出は、国内事業よりさらに、事業の不確実性が大きく、何が起こるかわかりません。無駄な時間やリソースを割かないために、「ここまで損失したら、撤退」「このラインであれば事業継続」というラインを、あらかじめ決めておくことで、必要以上の損失を防ぐことができるでしょう。

海外進出、その前に落ち着いて検討を

海外進出は、新たな成長の種を見つけるということで、非常に魅力的に映るでしょう。しかし、実際は、不確実性も高く、また、一旦進出したら撤退するのに、多大なるコストがかかるというケースもあります。海外進出を志す際は、今一度、リスクとリターンをしっかり考慮し、入念に検討することをおすすめします。(提供:みらい経営者 ONLINE


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