北関東人が熱愛するハンバーグ~外食レジェンドが再登場
北関東で熱狂的に愛される「フライングガーデン」。詰めかける客のお目当ては、ほぼ同じメニューだという。「爆弾ハンバーグ」(1078円/キング)という丸々としたハンバーグ。目の前に置かれた熱々の鉄板で仕上げるのは、ステーキとして使う肉をぜいたくに挽いたジューシーな味わいだ。
現在61店舗を展開、売上高71億円の「フライングガーデン」。しかし人気の理由は、ハンバーグだけではないというと言うのは、「高倉町珈琲」を経営する外食レジェンドの横川竟(80)。随分と低姿勢で横川を待ち受けたのは、「フライングガーデン」社長の野沢八千万さんだ。横川は、最近の好業績を聞いてやってきたという。
「ファミレスで3年間の既存店の売り上げの伸びが1位ですね。すごい」(横川)
そして運ばれてきた「今どきのシーザーサラダ」(399円/税抜き)を見るなり、「これだと580~600円でしょう、普通は」。さらにその場で炒める「ガーリックライス」(309円/税抜き)には、「鉄板で炒めて熱いまま出すのはここだけだと思います。以前はこんなにこだわってなかったのに、こだわっていますね」。
実は人気の理由はこのサイドメニューにあるという。
「原価はもっと高いんです。でもハンバーグを食べていただく方は、付け合せを安くしたほうが喜んでくれるだろう、と。金額が張らずに満足感が増す。それができているから売れるんです」(横川)
野沢社長は今まで、横川の意見を大切にして店作りをしてきたという。「大げさに言うと、日本のお客様代表の言葉といっても過言ではないと思います。そうでないとあれだけの大チェーンはできないです」と、横川を評した。
横川は1970年にファミレスの元祖「すかいらーく」を創業。その後、様々なチェーンを展開し、巨大外食企業を作り上げた、いわば日本の外食を産業にした男なのだ。
横川は76歳にして郊外の珈琲店戦争に殴り込みをかける。それが「高倉町珈琲」。関東を中心に19店舗を展開。わずか数年で大行列を作る人気チェーンへと急拡大させた。横川が作ったフワフワの「特製クリームのリコッタパンケーキ」(1000円)が客を虜にしているのだ。
外食で勝ち続けてきた横川が欠かさないのが、独自の視点で作るランキング。隠した指の下にはここ数年で急拡大した企業の名前があった。
「いい企業でいうと、『マクドナルド』さんが103%、『串かつ田中』さんが106%、ラーメンの『山岡家』さんが101%……。売り上げではなく、客数です。分析して良い悪いを言えるのは客数だけだと思っているので。逆に20%近く落ちているのが2社あります」(横川)
どんな外食が勝ち残れるのか、横川がある弁当を例に教えてくれた。「升本」の「すみだ川季節」(1383円)。横川はこの弁当にいつも感心させられるという。客を喜ばせたいという思いを感じるというのだ。
「おかずを取ると、その下からシイタケとレンコンが出てきます。いろいろと隠して入っているんです。クラゲなんて普通は表に置くじゃないですか。そういう見てくれではなく、食べて満足できる弁当を作っている。食べているうちにどんどん驚く。儲けるよりいいものを作り、会社が生きていければいいという社長の思いが弁当に表れています」(横川)
外食レジェンドのアドバイス~繁盛店を作る裏側に密着
この日、横川は、最近注目している東京・港区の店の偵察にやってきた。行列を作っていたのは、人気のつけ麺屋「舎鈴」だ。ひとり店に入るなり、早速、店内の観察を始める。
店員を見て、「お客さんを待たせないように回転を早める。そういう動きができる顔です。相当ベテランの顔をしています」と、横川。しかも顔を見ただけで「1億8000万円~2億円を売れるぐらいの人材ですね」とまで言う。
「つけ麺」については「売れますよ。一口目はうまいけど全部食べるとしつこいのはダメ。食べ終えて『ちょうどいい』というのがいい料理。この味はいいと思います」と言う。
「舎鈴」を経営するのは、つけ麺店「六厘舎」など68店舗を展開する松富士食品という外食企業。他にない味にこだわり年商57億を稼ぐ成長株だ。
店の視察を終え、80歳とは思えない身のこなしで車に乗り込む横川。すると「六厘舎」を成功させた三田遼斉社長が満面の笑みで駆け寄ってきた。三田社長はかつて横川に、会社存続の危機を救ってもらったという。
「お店が20店舗ぐらいのときに、会社が潰れそうになったんです。ただ店を出せばいいだろうという考えでやってきてしまった。そのとき『こうした方がいい』と、それまで僕がやってきたことは全て間違っていたと気付かせてもらったんです」(三田社長)
それ以来、三田社長はことあるごとに横川のアドバイスを仰いできた。横川が招かれたのは、埼玉県所沢市に「六厘舎」向けに新たに作った最新鋭のセントラルキッチン。ここでスープ作りを一手に担うという。
「いい設備だ。よくできている」と横川。ところが、スープを運ぶ台車を見るなり「これは無駄遣い、僕に言わせると。低コストで、働きやすく、おいしいものができる工場を作るという考え方がないといけない」と言う。
横川は、豊富な経験を若手経営者に伝えていくことで、外食業界にいい会社を増やしたいのだという。
「いい店を作ってお客さんに喜んでもらって、働く人もいい仕事ができて、人生が豊かになって夢が持てるように動いているなら、僕もそうだから、同じ思いの人にはいくらでも時間も知恵も協力します」(横川)
最も見つけにくい繁盛店~絶品「野菜串焼き」の秘密
そんな外食業界に、今までにない手法で繁盛店を作る新勢力がある。
都内・西麻布の寂しい住宅街にある民家のような「ごりょんさん西麻布店」。中をのぞくと大きなオープンキッチンのカウンターが。新鮮なレタスを幾重にも巻いた「レタス巻き串」(486円)、チーズとニラの組み合わせの「にら玉チーズ」(324円)など、豚肉で様々な野菜を巻いた野菜串焼きの店だ。 一方、渋谷区の人気のない路地にある「てやんでい渋谷店」は絶品の沖縄料理店だった。このように、驚くほど寂しい立地で次々と繁盛店を作り上げるのが、注目の外食企業「ベイシックス」。東京を中心に9店舗を展開する。率いるのは、もう20年、都心の立地で勝ち残ってきた岩澤博社長だ。
岩澤は日々、自分の店を「客」として訪ねている。この日は運ばれてきたパクチーサラダを見るや「もっと大げさにパクチーを乗せて」。昨日は盛りつけが酷いと怒ったという。完全な客目線で日々細かく改善を指示するのが、岩澤流なのだ。
「究極の客目線にならないとダメですよね。自分の店の一番の常連でありたいと思います。自分の店をどんどん回る。多い日は5~6軒回ります」(岩澤)
1時間弱、滞在して店を出た岩澤が到着した次の店、東京・六本木の「バードマン757」は、お客が店だとは「分からない(笑)」という扉が入り口。客が発見しにくい立地にあえて店を出すことが、実は繁盛店を作る秘訣だという。悪い立地が人材を鍛えるからだ。
「商業施設や飲食ビルに入ったら、最初から集客できる。でもここはどうなるか分からない。その不安がいいんです。そこからがお客さんを呼ぶための闘いなんです。だから大手の飲食店で働いている従業員がうちの人間に勝てるわけがない」(岩澤)
スタジオで横川は「ごりょんさん西麻布店」について、「いい店」と印象を述べている。
「繁盛しているのは、“店づくり”と“商品づくり”ができているからです。レタス巻きは商品開発の想像力が全然違う。このお店はそういう基礎ができている」(横川)
外食レジェンドが直伝~客を魅了する繁盛店の作り方
東京・四谷に1年前にオープンしたカジュアルなフレンチの店「アラブテイユ」。オーナーはソムリエの資格を持つ阿井祐典さん。珍しいワインを取り揃え、店の売りにするべく頑張ってきたのだが、経営はかなりの厳しさだという。
その理由を阿井さんは2つ挙げる。ひとつは内装。それなりにお金をかけたが、内装が無機質に感じるという。何とか改善しようと、ワインをイメージさせる写真をかけ、机も味わいのある木製のものに変えてみた。
もうひとつの悩みは料理。一流レストランにいたシェフが調理を担当。「ホワイトアスパラのポシュ」(1944円)、「スズキとぶどうの葉のパイ包み焼き」(2268円)など、旬の食材を出すことにこだわっているのだが、その一方で、目立った看板メニューがないのだ。「どこをうたっていくか明確ではない。結局どこが売りなのか、と」
これに対してスタジオの横川は、「内装は、売れないから気になるんです。看板メニューがないというのは、それはそうです。ワインにこだわり過ぎると、“ワインがメイン”で“料理が添え物”になってしまう。ワインがもともと料理を引き立てるものだとすれば、料理に合わせて用意するのがワインだと思う」とアドバイスを送った。
一方、東京・吉祥寺の表通りに面した地下の店も悩みを抱えていた。狭い階段を下りたところにある「ポルポ吉祥寺シーフードマーケット」。白を基調にした店内は意外に広々としている。看板メニューは「生ウニとあおさ海苔のウニクリームパスタ」(1383円)。こだわりの生パスタと魚介類を使った濃厚なソースが特徴だ。
オーナーの志村一篤(38)さんによると、オープン1年目は赤字で、2年目の今も厳しい状況が続いている。志村さんは不調の原因を、1階の入り口にあると考えていた。通行人から店が見つけにくいのではないかと、最近、立て看板を設置。また、シーフードの店なのに、イタリアンだと思われていた。そこで魚介類を全面に押し出したメニューを追加。さらに内装も海のイメージを強調し、手作りでなんとか改善をしてきたが、「売り上げは目標の60~70%」と言う。
実際に店にやってきた横川が真っ先に指摘したのは、入り口が見えにくいことではなかった。「看板に値段が書かれていない。値段が分からなかったら初めての人は不安でしょう」と言う。客目線で情報を出せば、客は店に入ってくれるはずだという。 店に入ると、早速、運ばれてきたウニクリームパスタを食べ、「うまい」。さらに「ガーリックシュリンプ」(1058円)も。シーフードを打ち出すための新メニューだ。「ソースがうまい、大丈夫」と言う。ところがメニュー表を見て、「メニューがダメ。デザイン的に格好よくても、商品が頭にイメージできないとダメです。いいものを知らせられるメニューにしないと」と指摘した。
横川は志村さんに、シーフードを選んだ理由を聞いた。
「開業前に日本を自転車で旅したことがあるんです。その時農家や漁業関係の方と仲良くなり、『担い手が減っている』と。せっかくおいしい食材が日本にはたくさんあるのに、なくなってしまうのは悲しい。それでシーフードでやってみよう、と」
それに対して横川は「そうすると1店や2店じゃダメ。30、50とやっていくと、漁港に揚がった魚を全部メニューにすることが可能じゃないですか。それは多くの人が喜ぶことで、やる価値がある」とエールを贈った。
志村さんは「もっと店舗を増やして、日本のためにやっていきたいと思いました」と言う。外食で世の中を良くしたい……そんな若い人材に、横川もうれしそうだった。
絶品肉が食べ放題~知られざる最新顧客主義
今、そんな横川でさえ知らない全く新たな外食ビジネスが生まれている。場所を明かせないという東京・新宿区にある会員制の「29ON」。客を魅了するのは、他では味わえないといううま味たっぷりの赤身の肉だ。しかもその絶品の肉が食べ放題。1万4000円の年会費を払えば、1回5000円で何度でも来店できるという。
肉の圧倒的なうまさの秘密は独自の調理法にある。まず、肉は真空状態になっている。これを60度程度でゆっくりと加熱する低温調理だ。焼かないことで肉汁が外に出ず、うま味を極限まで閉じ込めることができる。
しかも、来るたびに客の喜ぶメニューが追加されている。その高い満足度を支える秘密が会員制という仕組みにある。
実は運営しているのは、外食でなく「ファビー」というネット企業。オフィスで行っていたのは会員からとった来店データの分析。何を注文したかを分単位でデータに残し、店作りに生かしているという。一方、会議室で話し合われていたのは、酸味を意識したメニューに客がどう反応したか。会員制だからこそ、客のデータが収集でき、精度の高い客目線の店作りができるのだ。
高梨巧社長は「会員制で年会費をいただくことで、『こんな人が来て、こんなものが好きなんだ』と、ある程度分かって接客できる。飲食店はこういうデータを持っていませんが、データを蓄積してきちんと分析できれば、店舗の改善に使えるので、データを貯めるために自分たちの店を活用しています」と言う。
いかに客のニーズに応える店を作り上げるのか。そこに最新技術が加わり、客の奪い合いはさらに激しくなっている。
~村上龍の編集後記~
「外食」で生き残るのはとてもむずかしい。「食」はなくてはならないものだが、賢くなった消費者は、自由に業態や店を選び、飽きるのも早い。話題の店の行列はいつか終わり、あっという間にトレンドは変わる。誰も市場を読めない。マスとしての市場は、すでに存在しないに等しい。個としての客がいるだけだ。
外食を「産業化」した横川さんの考え方は、シンプルだ。味、店舗デザイン、接客、それだけでは客は来ない。客に何を提供するのか、提供したいのか、提供できるのかと問い続けること。だから、外食に「ゴール」はない。
<出演者略歴>
横川竟(よこかわ・きわむ)1937年、長野県生まれ。1954年、築地「伊勢龍」で修業。1964年、兄弟4人で「ことぶき食品」開業。1970年、「すかいらーく」国立店開業。1980年、「ジョナサン」社長就任。2008年、「すかいらーく」CEO解任。2013年、高倉町珈琲開業。
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