2018年上半期のドル円相場は「1ドル=104円〜114円」で推移した。この6カ月の展開を振り返ると、日米金利差もしくは日米金融政策の方向性の違いを反映した「円安要因」と、中東情勢等にみられる地政学的リスク及び世界的な貿易戦争への懸念といったリスクオフの「円高要因」の綱引きだったように見受けられる。

問題は年後半の展望であるが、目下のところ「円安要因」優勢の展開が続いている。7月第2週には112円台に突入したが、これは約半年ぶりの円安水準だ。今年3月には一時104円台まで円高が進んだものの、同月と6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)の利上げ等が円安の推進力になったと考えられる。実際、ウォール街の市場関係者からは米利上げスピードの加速観測が根強く、そうしたセンチメントも円安を後押ししている側面もあるようだ。

それでも「米利上げ=円安」と考えるのは危険か?

為替,見通し
(画像=Evan El-Amin / Shutterstock.com)

もっとも「中長期的」に見ると米利上げが必ずしも円安を支援しているわけではない。たとえば、FRB(米連邦準備制度理事会)が9年半ぶりに利上げを決定した2015年12月のドル円は121円前後だった。また、2016年12月から今年6月にかけてFRBは6回の利上げを実施しているが、この間のドル円は118円から110円とむしろ円高が進んでいる。

FRBは年内にあと2回の利上げを実施する見通しで、来年以降も継続的な利上げが見込まれている。こうした状況から為替市場では年末までに115円、あるいは120円までの円安を予想する向きもあるようだが、前述の通り「中長期的」には米利上げが円安トレンドをもたらしているとは言い難いのが実情だ。したがって「米利上げ=円安」と単純化して考えるのは危険なように感じられる。

「日米金利差」を重視する風潮は根強いが

市場では日米金利差を重視する風潮があることは確かであるが、一方で「日米インフレ格差」の拡大を見落としがちな点に留意する必要がある。たとえば、米国のCPI(消費者物価指数)は昨年6月の1.6%から今年5月には2.8%まで上昇しており、右肩上がりのトレンドを形成している。その一方で日本のCPIは今年2月の1.5%から5月には0.7%と急速に低下している。その結果、日米のインフレ格差は2月の0.7%から5月は2.1%へ「1.4%ポイント」拡大している。FRBは今年3月と6月で合計0.50%の金利を引き上げているが、その上げ幅は日米のインフレ格差拡大の半分にも満たないのだ。

そもそも理論的には「インフレ率の高い通貨は下落する」傾向にある。したがって、日米のインフレ動向からするとドル安・円高が進んでもおかしくない。ちなみに、IMF(国際通貨基金)の試算によるとドル円の購買力平価は1ドル=98.87円となっている。為替レートは常に購買力平価付近にあるわけではなく、10%程度までのかい離は珍しくないのだが、20%を超えるとほとんどの場合で持続性がない。既に購買力平価に対して10%を超える円安水準にあり、ここからさらなる円安を望むのは大きなリスクを伴うようにも感じられる。

米中間選挙が最大の波乱要因になりそう?

重要なのは今後の見通しであるが、年内の最大のポイントは何といっても11月6日の米中間選挙であろう。ウォール街でも波乱要因として「米中間選挙」を警戒する向きは多い。

現在、米上院は共和党51議席、民主党49議席と拮抗しており、一見すると逆転のチャンスが大きいように見える。だが、今回の改選35議席の内訳をみると民主党が26議席を占め、共和党は9議席となっている。したがって、民主党は圧倒的に多い改選議席を死守したうえで、守りを固めやすい共和党から2議席を奪取する必要があり、これは意外と難しいのではないかと考えられている。

また下院に目を移すと、共和党の235議席に対し民主党は193議席とかなり劣勢である。ただ、大統領1期目の中間選挙では与党が下院で議席数を落とす傾向にあることから、下院では与野党が逆転するのではないかと見る向きも少なくない。全議席(435議席)が改選となるが、共和党は過半数の218議席を17議席上回っているものの、過去の例を振り返るとこの程度の数字ではまったく安泰ではないからだ。たとえば、オバマ政権1期目の中間選挙では、民主党は256議席から193議席へと激減し、共和党は179議席から242議席へと躍進している。現時点では共和党が202議席、民主党が199議席、激戦区は34議席となっており、逆転の可能性は十分にありそうだ。

現在は両院ともに共和党が支配しているので法案も通りやすいのだが、共和党が下院を失うといわゆる「ねじれ議会」となり、決められない政治に逆戻りとなる。

トランプ大統領は昨年末に成立した減税法案で支持率が回復傾向にあり、それに気を良くしたのか「今年10月までに減税の第2弾を成立させる」と鼻息も荒い。米中貿易戦争にみられる米国第一主義と減税はもっぱら選挙対策と見る向きもあるが、情勢はあまりにも不透明だ。

民主党が下院奪回なら「弾劾手続き」も

ところで、民主党が下院を奪回した場合、ロシア疑惑に絡んで大統領の弾劾手続きの開始が見込まれている。上院で3分の2の支持が必要なことから罷免の可能性は低いとみられるが政治的な混乱は避けられず、状況によっては為替のドル急落(円急騰)をもたらす恐れもある。

モラー特別捜査官の捜査も進んでおり、トランプ大統領の弁護士チームの一員であるジュリアーニ元ニューヨーク市長は中間選挙への影響を避けるために9月までに捜査を終了すべきとの考えを示している。2016年の大統領選挙でクリントン候補の私用メール問題への捜査が選挙結果に影を落としたことは記憶に新しい。中間選挙までにロシア疑惑がクリアになるのかどうか、選挙の行方とともに目が離せない。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)