ドル円予想レンジ111.50-113.90
「信ぜよ、さらば救われん、と言うつもりもないのですが、信じないのでは、物価も上がらないのではないかと思っています」-。これは6/15に黒田日銀総裁が述べた“長短金利操作付き量的質的金融緩和”の効果に対するジレンマである。
米中暗闘の人民元に左右される日銀・円
同日の会見で黒田総裁はこの状況に対し、7/31の日銀会合、経済・物価情勢の展望レポートに向けて分析や議論を深める、と述べつつも、インターネット通販の影響とした見解を示唆。3日後の6/18に日銀調査統計局は“ネット通販拡大が消費者物価指数(CPI)の上昇を抑えている”との分析を公表した。日銀が目指す2%の物価上昇率目標の壁はネット通販の拡大だ、との位置付けである。7/20に6月全国CPIが公表されるが、鈍化や横ばいの場合、7/31の日銀会合では新たな説明や総括検証が黒田総裁に求められそうだ。従前通り「モメンタム(勢い)は維持」とする日銀の強弁や、6/15の閣議決定“骨太の方針”で挙げられた各種インターネットの活用との整合性が問われよう。市場対話力の低下は、追加緩和催促とした形で投機筋による円買い攻めの口実になりかねないのだ。
もっとも、トランプ大統領が選挙公約「MakeAmericaGreatAgain)」を実現するにあたり、対中国、対主要国との通商協議摩擦が高まる一方で、7/11に円は急落し1ドル112円台を示現。テクニカル観点では2015年6月からの下降抵抗線を突き抜けた格好だ。理由は何か。筆者は、日銀現策に円安助長力が感じられなくなったものの、7/3に中国人民銀行正副総裁が「元の安定維持」「米国との通商問題で人民元を武器として活用することはない」と相次ぎ表明した点に注目している。表明とは裏腹に現況はドル高元安が進行し、円安浮揚力に加担している可能性があるからだ。「ドル買い/元売り/元買い/円売り」≒「ドルロング・円ショート」、とした邪推的な仮説である。米財務省による為替操作国の誹りも招きかねない諸刃のリスクだが、“製造強国”を掲げる中国政府、人民銀による覚悟のシグナルかもしれない。
7/6時点での6月末における我が国の外貨準備高は約1兆2587億ドル。7/9に中国は6月末外貨準備高を約3兆1120億ドルと公表している。“急激な元安誘引は中国からの資本流出に転ずる”とした見解もあるが、日本の約3倍となる外貨準備なら抑制管理も容易いのではないか。元安≒円安浮揚力が試されそうだ。
7/16週ドル円焦点
7/17にパウエルFRB議長は議会証言を予定。不確実性が高まるトランプ政策を睨み、景気減速対応への先手として利上げテンポの抑制を示す可能性に警戒。上値焦点は1/10高値112.80、1/9高値113.19、1/8高値113.40。昨年の12/21高値113.625、12/21高値113.76、11/14高値113.92。下値焦点は111.50、111.00、今回の上昇トレンド起点7/11安値110.75。最終橋頭堡は110.25-35と推考。
武部力也
岡三オンライン証券 投資情報部長兼シニアストラテジスト