不動産投資を始めて経営が軌道に乗ってくると、税理士や管理会社、投資仲間などから法人化をすすめられるケースが増えてくるでしょう。なかには、法人化のメリットや適切なタイミングなどを理解しない状態で、すすめられるがままに法人化してしまう人もいます。

法人化の主なメリットは、何といっても節税です。利用できる節税方法を理解しておくと、毎年の所得税・住民税や相続税・贈与税などの額が大きく変わってきます。今回は、不動産投資や物件運営の法人化のタイミングや具体的な節税内容などについて解説します。

法人化のタイミングは課税所得○○円以上

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(写真=Syda Productions/Shutterstock.com)

不動産投資である程度収益が出るようになると、法人化の時期を検討し始める人が多いのではないでしょうか。「法人を設立すれば、個人で経営するより節税になる」という知識を小耳に挟んでいる人が多いかもしれません。税率の差だけを基準とすると、課税所得900万円以上で「個人>法人」となるため、ここが法人化のタイミングとして一つ考えられます。

以下の表の通り、個人だと課税所得900万円超で「所得税率+住民税率が43%」です。一方、法人だと「法人税率+地方法人税率+法人住民税率+法人事業税率+地方法人特別税率が約33.6%」と逆転するポイントになります。900万円以下の水準でも、税率が「個人>法人」となるケースはありますが、900万円を超えてくると、累進課税である個人の税率の方がどんどん高くなってしまうのです。

課税所得額 所得税率+住民税率 控除額
195万円以下 15% 0円
195万円超330万円以下 20% 9万7,500円
330万円超695万円以下 30% 42万7,000円
695万円超900万円以下 33% 63万6,000円
900万円超1,800万円以下 43% 153万6,000円
1,800万円超4,000万円以下 50% 279万6,000円
4,000万円超 55% 479万6,000円

※復興特別所得税は考慮せず

課税所得額 法人税率+地方法人税率+法人住民税率+法人事業税率+地方法人特別税率
400万円以下 約21.4%
400万円超800万円以下 約23.2%
800万円超 約33.6%

法人化の節税メリット

法人化による節税メリットの中でも最も分かりやすいのは、経費の幅が広がる点でしょう。個人事業主でも経費申請は可能なのですが、不動産投資につながった経費しか認められず、その範囲はごく限られています。それに対して不動産投資法人を設立すると、法人の活動に関する費用を広く経費として申請できると考えられます。

もちろん、その範囲に制限はありますが、それでも個人より幅広いのは間違いありません。たとえば、自分や家族を役員として役員報酬を支払うと、その分が法人の経費として認められます。退職金も同様です。さらに、生命保険や自動車費用なども経費として認められるなど、節税の可能性が大きく広がります。

また、不動産からの収入を役員報酬として分散できるため、個人レベルでも所得税・住民税の節税につながるでしょう。相続財産を事前に家族と分配できるため、相続税の節税にもなります。退職金も、勤続20年以下で40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は、80万円)の退職金所得控除につながるため、節税効果が高いです。

損益通算の観点からも、法人の方がより広い可能性を持っているといえるでしょう。個人の場合は、家賃収入に代表される不動産所得と、不動産の売却による譲渡所得は別々の所得とみなされます。そのため、売却損が出たとしても家賃収入と損益通算できない仕組みになっています。それに対し、法人ならばすべての事業の利益と損金を損益通算できるため、売却損やその他事業の損失を不動産所得で埋め合わせることができます。

加えて、不動産投資で赤字が出た場合は、法人のみ翌年度から9年にわたって繰り越せます。個人だと原則は繰り越せない(事業規模とみなされた場合は3年まで繰り越し可能)ことを鑑みると、これも法人化する大きなメリットの一つといえます。節税方法については他にもありますので、後ほど経費・小規模企業共済・倒産防止共済の3つに分けて詳しくご説明します。

融資がらみでも法人化にメリット

節税以外で見ると、融資に関連する部分でも個人より法人の方が有利です。これは、信用度という面で、法人は個人にまさると考えられているためです。たとえば、個人には寿命があり、亡くなると相続の問題が発生します。このため、個人の場合は75歳までに返済終了するよう制限されるケースが一般的です。

子育てが終わってキャッシュフローに余裕の出てくる50代以降になってから不動産投資を始めようとしても、年齢と寿命がネックになって思うようにお金を融資してもらえないかもしれません。一方、法人には寿命がありませんから相続税も発生しません。また、融資以外の手段で資金調達できる手段があります。株式の発行や増資などです。当然、こうした手段は個人では活用できませんから、法人ならではのメリットです。

法人化の注意点

法人化にはメリットばかりでなく、いくつかデメリットもあります。まず、法人設立の手続きには手間と費用がかかります。行政書士など専門家に法人設立を依頼することになるでしょうが、20万~30万円程度を見込んでおいた方がよいでしょう。また、会計処理が煩雑であり、毎年申告をするのも大変です。特に会社員を本業とする不動産投資家の場合は、税理士に作業を依頼するほうが無難かもしれません。

その金額が、毎年最低でも10万円程度か発生します。日常的な経理処理までお願いしようとすると、それ以上の費用が必要です。また、赤字でも「法人住民税の均等割」と呼ばれる税金を支払わなければいけません。自治体によって異なりますが、毎年最低7万円(資本金1,000万円以下の中小企業の場合)かかってしまいます。

設立できる3つの法人の形態

不動産投資で法人化する場合の法人の形態には、大きく分けて「不動産管理法人」と「不動産取得法人(不動産所有会社)」の2つがあります。不動産管理法人とは、他の個人や法人の所有する不動産の管理を行う法人です。不動産管理法人自体は、不動産を所有していません。自分の不動産を管理する会社を自分で設立してしまい、不動産からあがる収益を不動産管理法人に「管理料」として移せば、所得の分散になるという考え方です。

しかし、管理料として移せる利益には制限があります。厳密な上限があるわけではありませんが、一般的には家賃収入の5~10%が目安です。そのため、節税効果は限られています。一方、不動産取得法人とは不動産を自ら所有する法人です。家賃収入を法人の売り上げとして計上するため、不動産管理法人よりも節税対策の幅が広がります。

先ほど紹介した役員報酬・生命保険などの節税メリットは、不動産取得法人に当てはまるものです。また、個人で融資を受けて買い進められなくなっても、法人として新たに借り入れを行えるのもメリットとなります。もう一つ、サブリース(一括借り上げ)と呼ばれる方式もあります。不動産管理法人と同じように、法人自体では不動産を所有しないのですが、自分(個人)と賃貸借契約を締結して一括借り上げを行い、法人に家賃収入を移すという方法です。借り上げの金額は家賃総額の85~90%程度であり、残りの10~15%程度をサブリース法人の利益とします。

最も節税メリットを享受できるのは不動産取得法人ですが、手続きが難しいため税理士に相談した方が賢明です。

法人設立の方法

不動産投資法人を設立するステップは、おおむね以下の通りです。

作業内容 担当者
社名、会社の住所、発起人・取締役、事業目的などの決定 自分
印鑑(社印・実印・銀行印など)の作成 自分
定款の作成・認証 司法書士・公証役場
出資金振り込み 自分
就任の承認承諾書の作成 司法書士
登記申請書の作成 司法書士
登記申請 司法書士・法務局
青色申告承認申請書の作成・提出 自分・税務署

上記の大まかな流れを頭に入れて事前に準備していれば、10日から2週間ほどで法人設立の作業を終えることができます。社名や事業目的の決定、印鑑の作成が早めに(定款ができる前に)できていれば、簡単に設立可能です。ただし、各種手数料や登録免許税、印鑑作成費用などを合わせると20万円以上かかるケースも多いので、資本金とは別にまとまったお金を用意する必要があります。

法人設立の流れは定型化されており、それほど複雑ではありません。自分ですべてを手配することも決して困難ではありませんし、代行業者も数多くあります。時間がないようであれば外注も可能ですが、上記の説明を踏まえて自分でやることをおすすめします。

法人化による節税方法1:経費の幅が拡大

法人化による節税メリットについては、すでに役員報酬・生命保険・退職金など紹介しました。他にも節税の方法はありますので、もう少し詳しく解説します。まず、経費や所得控除の幅が個人より拡大する点です。個人だと、保険金の支払いの中から控除(生命保険料控除)できるのは年間12万円までと決められています。生命保険、個人年金保険、介護医療保険でそれぞれ4万円が上限です。

注意したいのは、経費として認められるわけではなく、所得控除であるという点です。また、生命保険の死亡保険金は相続税の課税対象なので、万が一の事態に家族を困らせてしまう可能性もあります。しかし、法人だと生命保険や医療保険などの保険料を経費(損金)として扱えるのです。自分(社長)に対する保険を契約する際、契約者と受取人を会社にしておけば、場合によっては保険料の全額を経費にできます。

ただし、経費化できる割合は商品によって全額、2分の1、3分の1と異なっているので注意が必要です。法人で加入する保険が節税方法として便利なのは、決算直前でも2週間程度という短期間で契約できる点です。思った以上に利益が出て税額が大きくなってしまっても、滑り込みで保険加入から損金計上までできます。スケジュール的に融通が利くのは、法人経営者として大きなメリットといえるでしょう。

法人化による節税方法2:小規模企業共済

小規模企業共済は、小規模企業(常時使用する従業員が20人以下)の個人事業主や法人の役員が対象です。事業の廃止や退職などの際に、あらかじめ積み立てておいた掛け金に応じて退職金(共済金)を受け取れる制度になります。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)によって運営されています。要するに、小規模企業共済は小規模企業の退職金制度といえるでしょう。

掛け金は毎月1,000円から7万円までの範囲(500円単位)で決められ、拠出した分が全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となります。残念ながら会社員は加入できないので、副業として不動産投資を行う「サラリーマン投資家」は小規模企業共済を利用できません。あまりいないかもしれませんが、不動産投資専業の個人事業主であれば利用可能です。法人化して、自分を役員にした場合でも利用可能です。

掛け金は定期預金のように積み立てられ、個人事業の廃業や法人の解散、役員の退任、あるいは65歳以上になった場合に退職金として受け取れます。退職金には退職所得控除が認められているので、掛け金を払い込んでいるときだけではなく、受取時にも所得税および住民税の節税を図れます。

法人化による節税方法3:経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)

小規模企業共済と同様に、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するのが経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)になります。これは、取引先事業者の倒産によって中小企業が連鎖的に倒産したり経営難に陥ったりする事態を防ぐために設けられた制度です。企業が掛け金を払い込むことで借り入れや節税などのメリットを享受できるようになっています。

不動産投資法人には取引先という概念がありませんので、連鎖的な倒産や経営難に襲われる心配もありません。しかし、きちんと法人としての実態があって税金を納めていれば、経営セーフティ共済に問題なく加入できます。掛け金を払っていると、その全額を損金として参入できるため節税効果があります。また、掛け金は毎月5,000円から20万円の範囲で自由に決められ、最大で800万円まで積み立てることが可能です。

40ヵ月以上掛け金を納めていれば、解約の際に全額が戻ってきます。ただ、このときに税金がかかるので、解約の際には大規模な経費を発生させて節税を図ることが必要です。(提供:Incomepress

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