近年、企業数の目減りが続いています。2009年には421万社あった企業数は、2014年には382万社にまで減っており、大多数を占める小規模企業の廃業がその原因であると推測されています。小規模企業の廃業が増加した要因に、中小企業経営者の高齢化が進む一方で、後継者への事業承継が進んでいないことが挙げられます。
事態を憂慮した政府も、事業承継を進めるため、経営承継円滑化法を元にあらゆる施策を行っています。2018年も事業承継税制の改定に伴い、経営承継円滑化法の改正が行われました。本稿では、2018年における法改正の内容や中小企業の事業承継への影響について解説いたします。
経営承継円滑化法とは
経営承継円滑化法とは、中小企業の円滑な事業承継を支援するための基礎に当たる法律であり、2008年10月より施行されました。
多くの中小企業において株主は経営者本人であり、また、経営者としても、個人資産に占める自己株式の割合が大きいといわれています。そのため、中小企業で相続が発生すると、①民法上の遺留分による制約、②経営者交代による中小企業の経営不安、③事業承継時の資金調達の困難性と税負担、といった課題に直面する可能性があります。
経営承継円滑化法では、上記の解決のため、3つの特例が設けられています。
遺留分に関する民法の特例
遺留分減殺請求によって自社株式を後継者に集中できるよう、民法の特例が創設されました。金融支援制度
分散した自社株式の買取や相続税、遺留分の減殺請求へ対応するための資金調達を支援する制度で、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を条件に融資を受けることができます。相続税・贈与税の納税猶予の特例(事業承継税制)
自社株式を後継者が引き継ぐ際に生ずる贈与税の全額、相続税の80%部分の納税が猶予される制度です。
経営承継円滑化法の改正内容
2008年より始まった経営承継円滑化法は、納税猶予制度の手続が煩雑で、かつ納税猶予制度そのものも複雑でした。その結果、2013年時点における事業承継税制の認定件数はわずか195件に留まりました。そこで2013年および2017年、経営承継円滑化法の改正を行い、事業承継税制の適用範囲に親族外承継を加える、相続時精算課税の併用を可能にする等の対応を行いました。そして2018年、経営承継円滑化法の再改正(正確には、経営承継円滑化法の法律施行規則の改正)を行い、現行の事業承継税制に加え、2018年1月1日から2027年12月31日までの特例制度が創設されました。
改正内容は、主に以下となります。
- 最大3名までの後継者への承継も可能になります。
- 代表者以外の者からの贈与で非上場株式を取得する場合も、5年以内に当該贈与等に係る申請書の提出期限が到来する者に限り、特例制度の対象となります。
- 雇用確保要件(5年間平均8割の雇用維持)を満たせない場合も、納税猶予の期限は確定しません。
- 特例制度において、後継者が贈与者の推定相続人以外の者(その年1月1日に20歳以上の者に限る)であり、かつその贈与者が同日で60歳以上の者である場合は、相続時精算課税制度が適用できます。
- 後継者が承継会社の代表者以外の者から贈与等により取得する承継会社の非上場株式も現行制度の対象になります。
経営承継円滑化法の改正の影響
経営承継円滑化法の改正が与える影響について、主に以下の点があります。
- 対象者および非上場株式の取得元の対象が広がるため、承継パターンも拡大されます。
- 雇用確保要件が特例制度に限り、緩和されます。
- 相続時精算課税制度の適用範囲が拡大されます。
改正に伴い、事業承継税制が有効に活用されない要因であった、雇用確保要件等の制約の多さと適用対象範囲の狭さが改善され、事業承継税制がより活用しやすくなります。
進め方に悩む場合は専門家に相談を
経営承継円滑化法の改正に伴い、事業承継税制はより活用しやすいものになりましたが、事業承継を進める上で、税金や金融支援、遺留分減殺請求をどう行うかは必ず課題になります。事業承継の進め方がわからない場合は、税理士等の専門家に相談しましょう。(提供:みらい経営者 ONLINE)
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