今、世の中で叫ばれている「空き家問題」。2013年時点における日本の空き家は820万戸にのぼり、空室率は13.5%と先進国最高水準となっている。この問題に対し、空き家を再生させ人気物件にすることで解決に取り組んでいるのが、ハウスリンクマネジメントの菅谷社長だ。一方、ソーシャル・マーケティングの専門家として、マーケティングの視点から社会問題の解決を目指しているのが、東京経済大学の小木教授だ。今回、その小木教授のゼミに菅谷社長が参加し、空き家問題や不動産業界の現状について討論。その様子をレポートする。

取材・構成:編集部
写真撮影:長谷川博一

どんな物件も工夫次第で「再生」できる

空き家物件の再生
(画像=The 21 online)

小木 菅谷社長はこの東京経済大学を卒業後、エネルギー関連企業、不動産会社を経て独立。市場に流通していない「空き家」を大規模修繕し、人気物件に再生することで、不動産の流通とビジネスをうまく融合されています。今日は学生が不動産業界の実情を知る貴重な機会ですので、ぜひ、いろいろとお話をお聞かせください。

菅谷 ぜひオープンな議論ができればと思いますので、よろしくお願いします。

学生 最初にうかがいたいのですが、なぜ「空き家」に注目されたのですか。

菅谷 私が不動産業界に入ったのは、前職でのお客様が不動産投資をしていたのがきっかけです。自分でもやってみようと500万円の物件を取得し、セルフリフォームしたところ、相場より高く賃貸ができました。「工夫すれば、喜んで住んでくれる人がいる」と考えるようになりました。リニューアルで必ず魅力ある物件になると考えているのです。

学生 最近、全国的に空室が増えているそうですが、どんな物件が空室になってしまうのですか。

菅谷 建物側の問題として築年数と設備の老朽化がありますが、運用側の問題として、何もしないオーナーが非常に多いことがあります。賃貸経営は需要と供給のバランスで空室が埋まります。新築など賃貸が増える中、部屋を魅力的に見えるような工夫を継続しなければ、空き部屋は埋まりません。

学生 どんなリフォームをしたら、空室が埋まるのですか?

菅谷 いろいろありますが、最近特に求められているのは、豪華さや便利さより「全体的にきれいな部屋」ですね。それも、入った瞬間にひと目で「清潔感があるかどうか」が重要です。

ただ、実際には空室の理由は、部屋によってさまざまです。だから私が重視しているのは、まずは「なぜ入居者が入らないのか」の理由を考え、その理由を「変えられるもの」と「変えられないもの」に分けることです。

たとえば、駅から遠いという立地は変えられませんが、内装の汚れや設備は変えられる。そうして、変えられるものを変えていくという発想をしています。

小木 これはとても大事な発想です。物事の解決策を考えるうえで、いきなり「空き家を埋めよう」と考えると、どうしても小手先の対策になってしまいがち。まず理由を考え、それに基づいた解決策を出し、実行する。ソリューションはその一連の流れからしか生まれません。

「保育所」「社宅」……空き家再生のアイデア

小木 そもそも空き家問題はなぜ起きているとお考えですか。

菅谷 やはり大きいのは人口減少だと思います。また、今までは3世代で暮らすのが普通だったのが、核家族化で1世帯の人数が減り、広い家が必要なくなってきた。そうしたニーズの変化も一因だと思います。

学生 空き家はどんな問題を生むのでしょうか。

菅谷 たとえば一軒家で一人暮らしの方が亡くなり、相続の問題等で空き家のまま放置されると、家は当然、荒れてしまいます。結果、景観が悪くなり、災害で倒壊することもあります。放火される恐れもある。

小木 また、空き家ばかりになるとその地域にコミュニティが形成されないという問題もありますね。

学生 たとえば待機児童の問題を空き家の活用で解決できるのではないですか。

菅谷 確かに可能だと思いますが、残念ながら家は個人資産であるため、行政がとやかく口出しできません。ただし、危険な建物は行政が差し押さえのうえ、処分できる仕組みもできてきています。

学生 社宅として空き家を使うという手もあるのでは?

菅谷 これもいいアイデアです。実はバブル崩壊後、企業は経費節減で社宅減の傾向にあったのですが、最近また見直されているのです。企業としては福利厚生の充実で優秀な社員を確保したいという狙いもあります。

ユニクロやマックのある街は空室が少ない!?

学生 以前、ユニクロやマクドナルドのある街は空き家が少ないと聞いたことがありますが、本当でしょうか。

菅谷 いい目の付け所です。こうしたトップクラスの小売企業は売上のために詳細な市場調査をしますから、出店された街は消費があり、不動産も流通し、空室も少ないと考えられます。

小木 そういう意味では、街の魅力を高める視点も重要ですね。実は私のゼミも学校の地元を盛り上げるために、「国分寺物語」というサイトを立ち上げ、街の魅力を物語という手法で伝える活動をしています。すでに6期目に入り、最近では市役所とも連携しています。

菅谷 行政と協力して街の魅力を育てていくというのはいいですね。今、国分寺駅のそばに高層ビルが建てられていますが、この低層階には国分寺市役所の分署が入るそうです。元々不便な場所に市役所があることに対し、不動産会社が場所の提供を申し入れ、市も規制緩和や補助金で応じたとのことです。

一方、空室率が高い地域は、街が寂しく感じます。今、日本で一番空室が多い県は山梨県なのですが、これは賃貸需要を無視したアパートの建設が多かったことと、若者の流出により街が高齢化し、家が継承されないことなどが要因です。

学生 私たち学生が、空き家問題に対して何かできることはあるのでしょうか。

菅谷 私がぜひお願いしたいのは「自分の故郷を愛する気持ちを持つ」ことです。自分が育った、お世話になった街を愛していれば、なるべくその街で消費をするようにするとか、街の魅力を発信したいと思うはずです。こうした思いがその街の魅力につながり、住む人を増やしていくのではないでしょうか。

小木 今日のお話で、不動産業界も大きく変わってきていることを痛感しました。今日はありがとうございました。

授業を終えて──編集部より

当初、学生の間には「不動産業界は高額な商品を売りつけるというイメージがあり、ちょっと怖い」という印象があったというが、今回の授業で、中古物件を再生したり、管理をしたりする仕事もあると知り、印象が変わったという。小木教授が話すように、不動産業界が大きく変わってきていることを印象づけられた。

空き家物件の再生
(画像=The 21 online)

小木紀親(東京経済大学教授) 写真右
1968年、名古屋市生まれ。慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程・博士課程修了後、松山大学、日本福祉大学を経て、現在、東京経済大学経営学部教授。専門は、マーケティング、医療・地域・行政のマーケティング、ソーシャルビジネス。主な著書に『マーケティング・ストラテジー』、『マーケティングEYE』がある。病院・診療所の戦略づくり、さらには地域活性化やソーシャルビジネスに造詣が深い。

菅谷太一(ハウスリンクマネジメント株式会社社長) 写真左
1976年、東京都生まれ。株式会社ミツウロコにてプロパンガスの営業、不動産リフォームに約10年携わり、仙台、埼玉で約500名の大家、約200社の不動産会社のサポートを行なう。その後、武蔵コーポレーション株式会社に転職。約1,000件の賃貸管理、4,500件のリフォーム提案を行ない、賃貸管理、収益不動産のノウハウを学ぶ。2014年、ハウスリンクマネジメント株式会社を設立。宅地建物取引士、液化石油ガス設備士、丙種ガス主任技術者の資格も持つ。

(『The 21 online』2018年03月18日 公開)

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