シンカー:対外と財政の債務のファイナンスは、事実上「非リカーディアン型」になっていること、そして「無責任」な運営の目安は物価の高騰であるという共通点があるが、相違点もある。国際経常収支の赤字は国民が将来に向かって他国から借り手となる選択をしているということだ。一方、国内の自国通貨建ての債券によってファイナンスされた財政収支の赤字は、国民同士の現時点での資金の融通であると考えられる。政府への債権が相続されていくことが前提であるので、将来にむかっては債権が解消される逆方向の動きがあるだけで国民という枠組みでは中立的である。将来に向かってという意味、他国からという意味でも、国際経常収支の赤字の方が、財政収支の赤字よりも問題があるとすれば根が深いと考えられる。日本の財政収支の赤字を強く懸念しながら、トランプ米大統領の対外収支の赤字の問題視を、経済の本質がわかっていないなどと批判したりはできないだろう。米国の国際経常収支の赤字と日本の財政収支の赤字ともに今のところ強い懸念は必要ないというのが、シングルスタンダードな回答であろう。8月26日に安倍首相は9月の自民党総裁選に出馬を表明し、最後の3年間の任期で、デフレ完全脱却を目指すことになる。基礎的財政収支の黒字化目標を2020年度から2025年度へ先送りしたため、任期中はこの目標に縛られることなく政策を遂行することができるようになった。政府債務に対する正しい認識によりながら、財政政策の余地が大きいアドバンテージを使い、市場経済の失敗の是正、教育への投資、生産性の向上や少子化対策、長期的なインフラ整備、防災対策、地方創生、そして貧富の格差の是正と貧困の世代連鎖の防止を目的とした財政支出の増加させ、デフレ完全脱却と日本経済の再生に取り組んでいくことになるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

政府債務に対して、将来の増税や歳出削減によって完全に返済する方針を持っている政府は「リカーディアン型」である。

一方、将来の増税や歳出削減だけではなく、中央銀行のシニョレッジ(通貨発行益)、インフレ、名目GDPの拡大によって、実質的な政府債務の負担を無くしていこうとする方針を持っている政府は「非リカーディアン型」である。

「非リカーディアン型」は「無責任」な財政収支の運営につながるとして拒否反応が大きいようだ。

しかし、国内の自国通貨建ての債券によってファイナンスされた政府債務残高は、景気が過熱していて経済政策の引き締めが必要な場合を除いては維持され、GDP比率の低下が安定の目安となる「非リカーディアン型」になっているのがグローバルなスタンダードである。

事実上「非リカーディアン型」になっているにもかかわらず、景気動向やデフレ脱却の目標を軽視しならがらプライマリーバランスを無理に黒字化させるなど、「リカーディアン型」であるという建前で運営しようとして問題が発生してしまっているようだ。

「リカーディアン型」である必要は本当はないにもかかわらず、その建前の維持が困難であることが財政収支の運営への過度な懸念につながってしまっている。

対外債務は、将来の国際経常収支の黒字で完全に返済する形になっていれば「リカーディアン型」である。

一方、将来の国際経常収支の黒字だけではなく、中央銀行のシニョレッジ、または海外からの持続的な借り入れによって、実質的な対外債務の負担を安定化する形になっていれば「非リカーディアン型」である。

通貨が固定相場制となっていれば前者となるしかなく、変動相場制であれば一般的には後者となる。

この一般的な後者の形の「非リカーディアン型」が、「無責任」な国際経常収支の運営であるとして、拒否反応が起こることはあまりないようだ。

国際経常収支が持続不可能な「無責任」な運営になっていれば、通貨価値が大きく下落し、それが大幅なインフレにつながる。

財政収支が持続不可能な「無責任」な運営になっていれば、総供給に対する総需要超過幅が大きくなり、それが大幅なインフレにつながる。

両者とも、金利が高騰することも共通である。

言い換えれば、「無責任」な運営になっているのかは両者とも物価が目安である。

現状では、財政収支に対する考え方と、国際経常収支に対する考え方が、ダブルスタンダードになっているような論調が多くみられる。

米国の国際経常収支の赤字と日本の財政収支の赤字ともに今のところ強い懸念は必要ないというのが、シングルスタンダードな回答であろう。

対外と財政の債務のファイナンスは、事実上「非リカーディアン型」になっていること、そして「無責任」な運営の目安は物価の高騰であるという共通点があるが、相違点もある。

国際経常収支の赤字は国民が将来に向かって他国から借り手となる選択をしているということだ。

一方、国内の自国通貨建ての債券によってファイナンスされた財政収支の赤字は、国民同士の現時点での資金の融通であると考えられる。

政府への債権が相続されていくことが前提であるので、将来にむかっては債権が解消される逆方向の動きがあるだけで国民という枠組みでは中立的である。

将来に向かってという意味、他国からという意味でも、国際経常収支の赤字の方が、財政収支の赤字よりも問題があるとすれば根が深いと考えられる。

日本の財政収支の赤字を強く懸念しながら、トランプ米大統領の対外収支の赤字の問題視を、経済の本質がわかっていないなどと批判したりはできないだろう。

8月26日に安倍首相は9月の自民党総裁選に出馬を表明し、最後の3年間の任期で、デフレ完全脱却を目指すことになる。

基礎的財政収支の黒字化目標を2020年度から2025年度へ先送りしたため、任期中はこの目標に縛られることなく政策を遂行することができるようになった。

政府債務に対する正しい認識によりながら、財政政策の余地が大きいアドバンテージを使い、市場経済の失敗の是正、教育への投資、生産性の向上や少子化対策、長期的なインフラ整備、防災対策、地方創生、そして貧富の格差の是正と貧困の世代連鎖の防止を目的とした財政支出の増加させ、デフレ完全脱却と日本経済の再生に取り組んでいくことになるだろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司