<<2018年5月23日にPHP総研にて開催された連続講座「PHP未来倶楽部」にて『アフター・ビットコイン』の著者である中島真志氏(麗澤大学教授)による講演が行われた。
多くの日本人に伝わっていない世界における仮想通貨の現実を伝え、示唆に富んだその講演の一部を抜粋し紹介する>>
お祭り騒ぎをしているのは、日本人だけ?
ビットコインは、夢の通貨か、邪悪な通貨か。
日本ではまだ、議論が進んでいないテーマかもしれません。
日本では、ビットコインブームが継続中です。
メディアでは、ビットコインといえば「通貨の革命」であり、ブロックチェーンという安全性を担保する仕組みも斬新で、まるで「夢の通貨」なんだ、という論調が主です。
実際、日本におけるビットコイン取引量は、世界の取引量の30%~40%と、ナンバーワンのシェアを誇っています。
しかし、お祭り騒ぎをしているのは日本人だけです。
欧米の銀行関係者などに会うと、彼らはビットコインを非常に嫌っています。口に出すのも憚られるといった様子で、イービルとかビシャスといった、強い言葉で表現する。
そして「こんなものは、まともな金融取引には使えないよ」と言います。
だから当然、「規制すべき」という論調になる。例えば、フェイスブックはビットコインなど仮想通貨の広告を全面禁止する、クレジットカード会社はクレジットカードでの仮想通貨の購入を禁止する、といった動きが出てきています。
こんなふうに、海外でビットコインといえば「邪悪なもの」との認識であり、日本だけが「夢の通貨」だと言っている。
「ちょっとそれはまずいんじゃないか」という問題提起がしたくて書いたのが、私の『アフター・ビットコイン』という本なんです。
では、ビットコインの何が問題なのか。ちょっと掘り下げていきたいと思います。
Mt.GOX事件以降も盗難・流出事件は月1ペース
ビットコインの問題の1つめは「盗まれたり、なくなったりする」ということです。
2014年3月、日本で「マウント・ゴックス事件」が起こりました。東京にあったマウント・ゴックスという取引所が、突然、取引を中止して、破綻したのです。
当時、マウント・ゴックスは7割という圧倒的なシェアを占める、世界最大のビットコイン取引所でしたから、インパクトはかなり大きかったのです。
事件当初、マウント・ゴックスのマルク・カルプレス代表は「ビットコインがなくなりました」「外部からハッキングされました」と発表しましたが、この社長はのちに業務上横領の疑いで逮捕されています。
この時はまだ、「ビットコイン擁護派」の意見が強かったと思います。つまり、「これは、1つの取引所のセキュリティの問題であって、ビットコインの問題ではない」という論調が目立ちました。
ところが、事件はマウント・ゴックスだけでは終わりませんでした。
その後も、盗難・流出事件が相次いでいます。仮想通貨の世界ではコインが流出することを「GOXする」などといいますが、けっこう頻繁にGOXしているんですね。
2016年8月には、ビットフィネックスという香港の大きな取引所で、75億円相当のビットコインが流出しました。
また2017年12月には、韓国のユービットという取引所もハッキング被害にあい、破産に追い込まれています。
2018年に入ってからも相変わらずです。1月には日本でコインチェック事件が起こり、580億円相当という巨額の仮想通貨が盗まれました。2月にはイタリアの取引所ビットグレイルから「ナノ」という仮想通貨が200億円分、流出しました。
ほとんど月に1回のペースで、世界の取引所のどこかで盗難・流出事件が起きている状況です。
こうした状況をふまえると、確かにビットコイン自体の安全性は破られてはいないものの、ビットコインの保管や流通を含めたシステム全体の安全性には課題があるとみたほうがいいと思います。
われわれは、銀行に預金を預けたり、証券会社に株式を預けたりしています。それが時々なくなったり、流出したりするとは思わないので、安心して利用することができます。
ビットコインの安全性は、そこまで達していない。これが問題点の1つ目です。
ビットコインが「闇サイト」御用達の決済手段に
2つ目の問題点は、「犯罪に使われる」ということです。
有名なのが、「シルクロード事件」です。
シルクロードとは、違法薬物を販売していた「闇サイト」です。ビットコインはシルクロードにおいて、唯一の決済手段として使われていました。
シルクロードの画面を開くと、マリファナ、LSD、ヘロイン、コカインといったおぞましいものがたくさん載せられており、これらがすべてビットコイン建てで売られていました。
通常、インターネットで買い物をするときには、銀行振込やクレジットカード払いにします。しかし、こうした支払方法で違法な薬物を買うと、一発で身元がバレてしまいます。
ところが、ビットコインは高い匿名性が特徴です。どのアドレスから支払いがされたかまではわかるのですが、それが誰のアドレスなのかは分からないのです。個人を特定できないという仕組みが、違法な取引をするにはぴったりというわけです。
シルクロードが開設されたのは2011年で、FBIがサイト運営者を逮捕したのが2013年です。この2年間の売上高は驚くべきことに、約1200億円にのぼります。
これで一気に「ビットコインは違法取引に使える」というダーティなイメージがつきました。しかも、ビットコインで違法薬物を販売するという「ビジネスモデル」が、確立してしまったのです。
そのため、シルクロードが閉鎖されてからも、Hansa、AlphaBayといった闇サイトが次々に誕生しました。当局が1つを取り締まっても、また別のものが出てくるというかたちで、当局とのいたちごっこの様相を呈しています。
ここで終わっていれば「海外ではそういうこともあります」という話なのですが、最近、日本でも闇サイトとビットコインの関わりがニュースになりました。
2017年11月に、危険ドラッグ(脱法ハーブ)をインターネット販売したということで、川崎市の業者が逮捕されました。
ビットコインを支払手段として、5000人以上に10億円相当の危険ドラッグを売りさばいていたのです。このやり方は、シルクロードのビジネスモデルそのままです。
これまで危険ドラッグは、主に現物と現金との引き換えで取引されていました。すると物理的な決済手段が必要となり、そこに逮捕などのリスクがありました。
しかしビットコインなら、インターネット上で取引が完結し、しかも身元がバレない形で決済できるのです。犯罪者にしてみれば、これほど便利なものはありません。
「ビットコインで身代金を払え」と要求するウイルス、ランサムウェア
同じく、ビットコインが犯罪に使われた例として、「ランサムウェア事件」があります。2017年の5月に大騒ぎになったので、ご記憶の方も多いかもしれません。150カ国以上にウイルスがばら撒かれたのです。
ランサムウェアはマルウェアの一種で、「身代金要求型ウイルス」とも呼ばれます。
ランサムウェア入りの添付ファイルをうっかり開くと、パソコンがフリーズし、「復旧したければ身代金を払いなさい」「さもなければあなたのデータは完全に消滅します」といったメッセージが画面上に表示されます。
そして、身代金は「ビットコインで払え」というんですね。画面にはカウントダウン・タイマーがセットされていて「あと○時間以内に払わないと身代金が倍になります」と言われたりもする。刻々とタイマーの残り時間が減っていきますので、かなり焦ります。
画面上には堂々と、犯人のアドレスが表示されています。しかし、これは「犯人のものだ」ということがわかるだけで、「誰が犯人か」までは特定できません。
ビットコインの匿名性のおかげで、こういうことができるのです。本人確認がされている銀行口座で同じことをしたら、すぐに犯人が捕まるでしょう。
表示する言語が選択できるなど、非常によくできたマルウェアです。
ランサム事件以降、今、ランサムウェア業界の規模は倍々ゲームの勢いで増えているそうです。裏を返せば、この種の犯罪による被害額も倍々ゲームで増えているということです。
「ビットコインは邪悪なものだ」と海外の銀行関係者が批判するのは、こうした一連の事件に由来しているのです。
関連サイト:PHP総研「未来倶楽部」
(『PHP オンライン 衆知』2018年08月08日 公開)
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