シンカー: 貿易紛争を含めた政治不安は燻り続けている。各国の中央銀行も景気の先行きリスクとして指摘している。一方で、政治不安の源となっているポピュリズム的な政策は、財政緩和などとして、足元の景気を押し上げている。各国の中央銀行は堅調な景気に沿う形で、引き締め方向の金融政策を続けている。しかし、政治不安が燻り続ければ、足元の景気の堅調さに対して、利上げのペースはより緩やかにならざるを得ない。また中立的な金利水準を超えた引き上げを示唆することはできない。貿易紛争が実際にグローバルな貿易縮小としてファンダメンタルズに大きな影響を及ぼすリスクがあるのはまだ1・2年後であるとみられる。それまでの限定的な期間に、高いリターンが期待できるリスク資産が選好される。そして、突発的な政治不安は、いざという時にすぐに売却できる環境が必要であるため、流動性が選好される。そうなると、堅調な景気の下での緩やかな利上げと財政緩和を背景に、高い期待リターンと流動性がある株式市場への投資が増加する理由になっている可能性がある。景気の強さと株式市場の上昇、または思わぬ物価上昇の加速が、政治不安の懸念を差し置いても利上げペースの加速につながらない限り、このような動きは継続する可能性がある。

最新のSGグローバル・レポートと要約

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

●イタリア経済・債券(8/28):イタリアの格下げが近づく…5つの疑問

イタリアの格付けは、まずムーディーズが今後2カ月以内に1ノッチ(1段階)引下げる(その際に、見通しは「安定的」とされる)と、弊社は見込んでいる。またフィッチは見通しを「ネガティブ」にするが、S&Pからはそうした動き(格下げや見通しの引下げ)が無いともみられる(表1)。これは、多かれ少なかれ市場も織り込んでいると弊社は考えている。 弊社は、イタリアの財政赤字は緩やかにしか拡大しないと予測している(参照)。だが政府の経験が乏しいため、今後数年間の実行リスクを格付け会社が懸念するとみられる。とはいえ格付け会社も、自らの動き自体が危機を起こすことは望まず、新しい政策に対する投資家の反応が悪ければそれを後追いする、という形をとると見込まれる。

●英国経済(8/24):ブレグジットと自動車セクター

英国の自動車輸出は、EU向けよりもEU以外の方が多い。このため「英国はEU市場へのアクセスを失っても簡単に適応できる」という見方が裏付けられる、という考え方も出てくるかも知れない。だが、英国にとってEUが、自動車の輸出市場として断トツの存在であること(輸出先第2位の米国の2.5倍に相当)は現在も変わらない。EU市場へのアクセス減少が大きな痛手となることは明らかだ。EU以外への輸出の急増で簡単に相殺できるとは、全く思えない。 英国は自動車貿易の収支が赤字となっており、最大の輸入相手はEU(全体の83%)で、ドイツ一国で40%近くに達する。EUの自動車の輸出先は英国以外にも多くあるが、こうした数字から、ブレグジットによって英国の自動車貿易には輸出・輸入双方で大きな損害が発生すると考えられる。そうした痛みが出るのはEUも同じである。

●米国経済(8/23):FOMC議事録要旨…鏡の中の物体は見た目より近い

(8月1日までの)FOMCの議事要旨は、全体的にハト派方向に傾いていた。緩やかな利上げ軌道から外れるというシグナルは示されなかったが、景気見通しに対するリスク、不確実性が高まったとFRBは認めており、次の景気減速局面に対処する方法を議論していた。

●米国経済(8/22):トランプ大統領は中間選挙リスクに直面、議会で過半数を失う危機

11月6日の米国中間選挙が近づいており、共和党は下院に加え、場合によっては上院でも過半数を失う可能性があるとみられる。それが実現すれば、市場や実体経済に重大な影響を及ぼす可能性がある。政府閉鎖がより頻繁に起こる、弾劾が検討されるようになる、全般的な不確実性が生じるなどだ。ただし短期的には、減税と規制緩和が、2019年のポジティブな景気トレンドを引続き後押しする。

●債券市場(8/27):業務を再開

市場の焦点は間もなく新興国から離れ、経済のファンダメンタルズに再びシフトするかもしれない。これは欧米全体にとっては依然として明るい材料であり、デュレーション・ロングのポジションにとってはリスク要因となる。 市場は米国経済の漠然たるリセッションを過剰に警戒しているため、米連邦準備制度理事会(FRB)が緩やかな利上げのメッセージを再確認した場合、ドル金利ではベリー部分がその影響を最も強く受けるだろう。 ユーロ圏では、イタリア国債に取って代わる高利回りの政府債が見当たらない。投資家は利回りの低いドイツ国債を敬遠し、流動性の高いフランス国債やスペイン国債のオーバーウエートを検討する可能性がある。

●アセット・アロケーション(8/24):米国債のポジションに大規模なショートスクイズのリスク

ヘッジファンドのポジションはロングであれショートであれ、金融市場のトレンドについて有益な洞察を与えてくれることが多い。弊社は資産クラスごとのヘッジファンドの動向、パフォーマンス、及びヘッジファンドが選好する戦略を追跡している合計ポジションチャート:各資産クラスのネットポジションの比較がこれまでになく容易になった。下図では、各資産クラスの合計ポジション(AGGREGATE POSITION)がヒストリカルレンジの中に示されている。全資産(ALL ASSETS)カテゴリーは、それらの合計ポジションを単一のデータポイントに統合したものである。現在、この均等加重平均は明確なショートポジションを示唆している。株式をロング、しかし全体的には慎重なポジショニング:これは株式に対する小幅なネットロングポジション(史上最長となっているS&Pの強気相場の持続を支持)と、他の全ての資産クラス(特に金利)に対するネットショートポジションの結果である。本稿では、5つの資産クラスのそれぞれについて同様のチャートを掲載し、それらを構成する各資産に対するポジショニングについて詳述している。また、直近4週間のモメンタムと長期的なヒストリカルトレンドを示すチャートも掲載している。米国債の一部に対して記録的なショートポジション:またしても、5年、10年、および超長期(25年以上)の米国債に対するショートポジションが過去最高を更新し、債券の合計ポジションを押し下げている。たとえアセットマネジャーは米国債を自然に保有しているとしても、現在のポジショニングは米債券利回りの上昇を予想する見方が強いことを示唆している。しかし、利回りはさほど上昇していないため(逆に、イールドカーブはさらにフラット化している)、主な短期的リスクは、米国債のポジションで現在のショートポジションと同じように大規模なショートスクイズが発生することであろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司