子や孫に財産を残してあげたいと考えるのは、高齢期を迎えた多くの方が持つ思いでしょう。
自分の人生を通じて築き上げた財産をどうしようと自由だと考えてしまいがちですが、預貯金や不動産などを贈与する場合は、「贈与契約」を避けて通れません。
家族に贈るのに「契約」なんて要らないと思いたいところですが、厳密にいえば、贈与には法令にのっとった手続きが必要になります。

「贈与契約」とは何か

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(写真=Freedom Studio/Shutterstock.com)

はじめに、民法で「贈与」についてどのように定義されているのかを確認しておきます。

民法549条「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、効力を生ずる」

民法では、贈与する側の意思だけでは効力が発生しないと定義されています。つまり、いくら財産を与えたくても、子や孫に受ける意思がなければ贈与は成立しないのです。
親が勝手に子の銀行口座に入金したとしても、それは名義預金として扱われ、親の財産のままであり贈与とは認められません。
そこで必要になるのが「贈与契約」です。贈与には書面による贈与と、口頭による贈与があります。

書面による贈与

贈与契約は書面によって締結するのが一般的です。これは贈与の有無について、税務上も含め紛争が起きた場合に契約書が重要になるからです。 では、契約書はどのような内容で作成すればよいのでしょうか。記載すべき基本的な項目は以下のとおりです。

  1. いつ贈与するか(時期)
  2. 誰に贈与するか(相続人)
  3. 何を贈与するか(財産目録)
  4. 贈与の方法(銀行振り込み等)
  5. 贈与の条件(互いに契約書を1通ずつ所有等)

「預貯金」「不動産」など、財産の形態によって書く項目が異なりますので、税理士事務所等のホームページで紹介されている書式例を参考にするとよいでしょう。

口頭による贈与

もう一つ、子が1人だけでその人が財産を受け継ぐのが当然という場合、口頭で贈与を約束するケースがあります。口頭による贈与について、民法は次のように定義しています。

民法550条「書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行が終わった部分については、この限りでない」

口頭による贈与の場合は、本当に贈与の意思があったのかを立証することが難しいため、撤回できることが認められています。その場合でもすでに贈与されてしまった部分については対象外となります。したがって、口頭による贈与はできる限り避けた方が無難です。

贈与をするときの注意点は?

贈与を実行する場合に、注意すべき点がいくつかあります。

  1. 相続税対策のため、親が生きている間に財産権を移転する「生前贈与」は特に注意が必要です。親が亡くなったあとに生前贈与の有無が問題になった場合、契約書がないと贈与そのものが裁判によって否定される可能性もあります。生前贈与を行う場合は、必ず書面により契約を締結するようにしましょう。
  2. 「生前贈与」では、贈与者が3年以内に亡くなった場合は相続税の課税の対象になります。したがって、「生前贈与」する場合は、早めに実行することが重要です。なお、孫への贈与はこの限りではありません。
  3. 相続税の基礎控除は年間110万円です。1年以内に110万円以上の贈与を受けると課税されますので、贈与を受ける金額を調整することも必要になります。110万円を超えた場合は、10~55%の税率で課税されます。
  4. 結婚20年以上の夫婦は「配偶者控除(おしどり贈与)」という特例を利用することができます。一定の要件を充足する居住用不動産の贈与又は居住用不動産を購入するための資金の贈与を受けて取得した居住用不動産がある場合には、その年の贈与税にかかる課税価格から最大2,000万円が控除される制度です。かなり大きな金額なので、住宅の贈与を行うなら、20年経過後に実行するのがもっとも税金を安くできます。

大事な家族に残す財産ですが、その行為はあくまで「契約」です。少しでも家族の負担を軽くするためにも、契約書を作成し、適用できる制度は十分に利用して、スムーズな財産移転を行ないましょう。(提供:相続MEMO


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